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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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47 分体の居る生活

【本体の視点】


  7月15日(金) 昼休み ベアゼスディート


 唯はフリーズしていた。

 今ここに居るのは、唯とわたし、そしてついさっきここへ転移してきた、わたしの分体。唯にしてみればいきなりわたしが2人に増殖したように見えたはずで。思考が追いつかなくなるのも仕方ないとは思う。


「あ、あの、先輩。こ、これは……?」


 わたしと分体とに交互に目を向けながら唯が言う。


「驚かせてごめんね、唯。──」


 わたしは、分体について唯に説明した。その際、この能力は管理者に与えられたことも話したが、与えられるきっかけ……わたしがピュリフィアを駆除したことは、適当に誤魔化して伏せておいた。さすがに、そこまで言うと話の規模が大きくなりすぎる。


「え、えっと……今はこっちが先輩の本体、ですよね。でも、この後先輩と別れて、また会った時は、それが本体なのか分体なのか……どうやって見分ければいいんでしょうか……?」

「あー、それは意識しないで、今までどおりに接してくれないかな。どっちもわたしだから」

「……む、難しい、ですね。分体のことを知ってしまった以上、どうしても意識してしまいそうです」


 その言葉は、わたしも考えていたことだった。わたしが分体のことを誰かに話したとして、その相手にとっては、知らされなければ意識せずに済む。しかし。


「でも、このことを知らないまま、ゼンディエールとの戦いにわたしが参加してるのを見たら、そっちのほうが余計に疑問に思わない?」

「いえ……別に」


 唯の口からは意外な答えが飛び出してきた。思わず、わたしも分体も固まってしまう。

 唯は続ける。


「だって、わたしが持ってる佐々木君の記憶に、先輩が聖桜地区の町中で魔物と戦っている光景がありますから。……まあ、高校を卒業した先輩が、午前中から聖桜(こっち)に来てたことは疑問でしたけど。それも、《ああ、大学って時間には割と融通が利くのかな》と」

「……そ、そういうことだったのね」


 なんだか変に力が抜けてしまった。

 今日の昼休みは、唯に分体の説明をしただけで終わってしまった。分体は再び転移で帰宅。わたしは唯を連れて学校に戻った。


     ●


  放課後


 学校が終わったら、わたしはまず伯父(クラウス)さんと伯母(レフィア)さんに分体のことを話しにいった。後でカインやイリス、デイラムさんにも話すつもりだったが、普段は家に居ることが多いという伯父さんたちのほうが、周りに誰も居ない状況を作りやすい。だから、こっちを先にした。

 ……しかし、伯父さんたちに分体のことを話した時、伯父さんには意外な言葉を返された。


『分体のことは、たとえ親しい相手であっても、あまり言わないほうがいい。言うとしても、必要に迫られてからでも遅くはないだろう』


 と。その理由も同時に言われて、わたしは納得した。

 相手の視点に立ってみると、目の前の友人(わたし)が、自分の目の前に居る以外のところでも、何かをしているかもしれない。そのことが(ただ)ちに疑心暗鬼を生じさせるとまでは言えないが、そのきっかけになる可能性は十分にある。

 そういうことなら、既に分体のことを話してしまった以外の人たちには、怪しまれるまで隠し通したほうが良さそうだ。……なんだか騙しているようで心苦しいが、仕方ない。

 この後は、分体はずっと自宅待機でそろそろ暇を持て余してきたから、レディクラムで何か依頼をこなすとして……わたしは、久しぶりにお母さんに格闘の実戦練習の相手をしてもらおうかな。


     ●


  18:30 竜之宮家


 今日、分体は(うち)で昼食を食べた。その状態で分体維持の管理者権限を使ったらどうなるのかを確認してみたくなり、今から少し前、わたしはその管理者権限を使ってみた。

 だが、これといって困るような事態は起きなかった。だから、夕食の時間になった今、分体には自室で待機させて、わたしだけがリビングへ降りてきたのだが。

 なぜか、わたしの食事は2人分用意されていた。


「ねえ、お母さん。わたし、分体には食事は要らないって……まあ、今日のお昼はともかく、言わなかったっけ?」


 お母さんを責めている訳ではない。これは素直な疑問だ。


「それね、分かってはいたんだけどね。なんかお母さん、娘が2人居るみたいな気分になってきちゃって」


 いけないことを思いついた子供のように、どこか楽しげに声を弾ませて、そんなことを言うお母さん。わたしは短く溜息をつき、半眼で言う。


「……どっちもわたしだからね?」

「分かってるわよ。でも、せめて……服は違う物を着て、どっちが分体か区別が付くようにしてくれないかしら。あ、それと、できればこれからも、分体のご飯も作らせてちょうだい」


 お母さんは、拗ねている、という訳ではなさそうだ。どちらかというと、本当は分体をもう1人の娘扱いしたいところをぐっと(こら)えて、どうにか妥協点を探したい、といったところか。


「……分かったわ。それで我慢してくれるのなら」


 わたしは言った。

 イアス・ラクアにこの能力──分体生成のための限定的な管理者権限──を与えられた時、わたしは危うく素っ裸の分体を作るところだった。

 分体の肉体と衣類は個別に生成、あるいは消去できる。だから、分体が管理者権限で生成した以外の服を着ることには、何ら問題は無い。


「ありがとう、由美」

「え、ええ……まあ……」


 礼を言われて困惑するなんて、初めて経験した。

 ……とはいえ、食事まで用意して服も着せるとなると、本当に娘が2人居るような生活になってしまう。学費や医療費なんかは不要だからいいとして、食費や衣料費、後は、入浴や、当然食べれば出る物も出るだろうから、水道代や光熱費、そのあたりはどうするのだろうか。

 わたしは、そのことをお母さんに聞いてみた。


「いいのいいの。お父さんも子供が2人居る生活にちょっと憧れてたみたいだし、飽きてくるまで当分は喜んでお金を出してくれるわよ」


 ……なんだこの順応の速さは。それとも、いきなり飛ばされた異世界にあっという間に順応した(わたし)の親だからか?

 お母さんは続ける。


「ところで由美、今日の晩ご飯は、分体はどうするの?」

「ああ。せっかく用意してくれたみたいだけど、今日はいいわ」


 ついさっき《分体維持》を使ってしまったから、今の分体は空腹ではない。

 今日の晩ご飯は、わたしとお母さんとの()()で食べた。


     ◆ ◆ ◆


【分体の視点】


  19:30 由美の部屋


 本体が部屋へ戻ってきた後。わたしは、管理者権限で生成した服を消して、手持ちの服から適当に選んだ物を着た。……後で考えたら、下着だけは管理者権限で作った物でも良かった気がするが、まあ、いいか。

 今は本体がベッドに寝転がってスマホを弄り、わたしはPCでネット巡回をしている。


「……」

「……」


 分体(わたし)と本体とは、それぞれの思考や感覚を相互に知ることができる。だから、言葉による意思疎通を図る必要は無い……のだが、物理的には2人の人間が1つの部屋に居るのに何も会話が無いというのは、それはそれで、室内が妙な空気に包まれる。


「……ねえ、分体?」

「何? 本体」


 やっぱり、本体もこの妙な空気に耐えられなかった。スマホを弄りながら言う本体と、PCを弄りながら(こた)えるわたし。


「この状況、どうしようか」

「どうするって、気まずいなら分体(わたし)を消せば?」

「うん、それはそうなんだけど……」

「……」


 また沈黙。こんなやり取りをしたところで、実質ただの独り言だ。考えをまとめるためにあえて言葉に出す、という意味では、独り言も悪くはないが。

 わたしはPCから手を離し、椅子を回して本体の方を向く。

 自室で1人で居る時でも分体を消さない理由は、1つは、体が2つあることに早く慣れるために、分体を出したままできるだけ多くの状況を経験するため。

 もう1つは、分体(わたし)は今日、昼食を食べたから。人間は、食べた物が消化吸収されて()()()()まで、ほぼ24時間かかる。もし今、分体(わたし)を消して、()()()()が消えたら……? この予想が当たっていた時の対策も考えてはあるが、わざわざ実験する気は、今のところは無い。

 とにかく、そんなこんなで、自分のもう1つの体との()()で迎える最初の夜は、静かに更けていった。


     ●


  23:00 由美の部屋


 風呂を出てパジャマに着替え、先に風呂から上がっていた本体が待つ自室へ戻る。

 さすがに寝る時くらいはわたしは消えてもいいかなと思っていたが、ふと、《あること》にちょっとした興味が湧いた。その《あること》を実験するために、スマホを適当に触りつつ時間を潰す。

 やがて。

 ベッドの上で、本体は静かな寝息を立て始めた。わたしはその顔を覗き込み、


「うわー……自分の寝顔なんて初めて見た」


 と、思わず呟く。

 イアス・ラクアは、本体が死なない限り分体は何度殺されても問題無い、つまり、本体が死んだら分体だけでは生きられない、と言っていた。だが、本体が寝ているだけなら、分体での活動に支障は無いようだ。

 それなら、本体と分体との生活リズムを完全に昼夜逆転させれば、実質24時間活動し続けることも不可能ではないということだ。……やらないけど。


 そして、当然だが、寝ている本体の思考は、今は分体(わたし)に伝わってきてはいない。たぶん、今わたしが考えていることも、本体には伝わっていないだろう。まあ、本当にそうなのかどうかは、明日(あした)の朝、本体が目を覚ましてからでないと分からないが。……だが、もしそうだとすると。分体(わたし)の自我が本体から完全に独立してしまうよりも、考えようによってはこっちのほうが怖い。


「……」


 わたしは短く息を吐いた。何を考えているのか。自分で自分が怖くなるなんて、普通に生きていても珍しいことではないだろうに。

 軽く頭を振って、わたしは、ベッドに……本体の隣へ潜り込んだ。

 今までは3日以内の更新を心がけてきましたが、次回以降は不定期更新と致します。できるだけ3日~1週間以内に更新できるよう心がけますが、突発的に更新が遅れることがあります。

 作者のインターネット環境が死なない限り、何かあったら活動報告を上げますので、もし、1週間以上経っても更新が無い場合は、活動報告をご確認ください。

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