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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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46 初めての分体

【本体の視点】


  7月15日(金) 朝食後 竜之宮家リビング


 昨日、イアス・ラクアに与えられた分体能力。その練習も兼ねて、わたしは今、早速分体を作り、自室でPCを操作させていた。といっても、特に何をするでもない、ただPCゲームをしたり、ネット巡回をしているだけだ。そして、この能力のことで、悩み、というほどでもないが、少し考えていることが1つある。

 学校にはどっちで行こうか。

 本体で学校に行って、それ以外……今のところはゼルク・メリスでの活動か、それを分体で行う。あるいは、その逆。

 イアス・ラクアが言うには、魔力の源である魂は1つ。それなら、魔法は本体で使おうが分体で使おうが、得られる経験は同じだろう。しかし、肉体的な面では? 本体は学校で席に着いたまま、分体が異世界で活動。……うん、なんだか本体のほうが体が(なま)ってしまいそうだ。

 とりあえず、まだ分体の扱いに慣れていないうちは本体で学校に行くとして。いずれは、学校……に限らず、今後の《人生の本業》は分体で行うことを考えておこう。


     ◆ ◆ ◆


【分体の視点】


  由美の部屋


 本体で考えた結果、今後の方針は決まった。今ちょうど本体が登校するために家を出たところだが、さて、分体では何をしようか。

 そういえば、わたしの……この分体の髪も、本体と同じくショートになっている。どうやら、生成できる分体は《今の本体》の完全なコピーのようだ。生成後の体はそれぞれで独立しているだろうが、生成時は本体の状態がそのまま反映されるのかもしれない。

 ……よし。とりあえず、分体でも転移ができるかどうか、試してみよう。

 わたしは、次元の狭間へ飛び込んだ。


     ●


  07:50 どこかの山中


 分体での転移は無事に成功した。まあ、たぶんできるだろうとは思っていたが、実際にそれが可能かどうかを検証する意味も含めての、今回の転移実験だ。分体でも転移ができるのなら、今後の活動の幅がぐっと広がる。


『およ、由美ちゃん。珍しいね、こんな時間に』


 フォスティアがわたしに話しかけてくる。シェルキスも、言葉さえ発してはいないが、不思議そうな顔をわたしに向けている。……わたしも、そろそろ龍の表情が分かるようになってきたのか。


『ええ、実は──』


 わたしは分体について2人に説明した。

 フォスティアやシェルキスには管理者に関する話を気軽に相談できる。分体で転移できるかを試そうと思った時、転移先にここを選んだ理由はそれだ。……まあ、この話にはさすがにフォスティアたちも固まったが。

 わたしの言葉が真実かどうか確かめるためだろう。フォスティアは《中継》で、わたしの本体の様子を映し出した。そこには、京と一緒に通学路を歩く本体の姿がしっかりと。


『ほ、ほんとに由美ちゃんが2人居る……!』

『一応、あっちが本体ね。こっちが分体。まあ、実際にはどっちも由美(わたし)だから、どっちがどっちなんて意識しないで、今までどおりに接してよ。わたしも、ここへは本体で来ることもあるだろうし』


 わたしは言った。とはいえ、本体と分体とは根が同じだけで、肉体としては殆ど独立した別個の存在といっても差し支え無い気はする。

 まだ短い時間ではあるが、実際に分体で活動してみて分かった。分体では、本体とは全く別のことを考え、感じることができている。本体が分体を遠隔操作しているというより、分体は分体で独自に考えて行動しているという感じだ。


『う、うーん……なんだか慣れるのに大変そうだけど、頑張るよ』


 フォスティアはどこかぎごちない声で言う。


『いきなり変な話をしてごめんね。管理者に関わった者同士、2人には全部知っておいてほしかったから』


 わたしはそう言って、2人と別れた。


     ●


  08:30 由美の部屋


 フォスティアたちとの話を終えて、なんとなく自室に戻ってきたが。

 これから何をしよう。分体を作ってはみたものの、当然、今まではずっと1つの体で生きてきた訳で。

 いきなり体が2つに増えても、これといってすることが思いつかない。フォスティア以外で、わたしが向こうで親しい人たちに分体のことを説明するとしても、本体と分体とが揃った状態で説明したい。

 することが無いのなら分体を消せばいいだけなのだが、それはそれで、せっかく本体が学校に行っている間も自由に動ける体が、時間があるのに、それを無駄に潰すような気がして、もったいなく感じてしまう。

 昨日、お母さんたちに分体のことを話した時は、


「今までどおり、昼間はあなたのことは学校に行っているつもりでいるから、分体で(うち)のことを手伝わなきゃとか、気にしなくていいからね」


 お母さんはそう言ってくれたが。それを気にする云々(うんぬん)ではなく、何もしないと本当に暇だ。……いや。

 分体を消す時の感覚は、知っておいたほうがいいかもしれない。

 今は、この分体でも本体と同じように行動できている。分体を必要な時にだけ出すか、常に出しっぱなしにしておくかは後で考えるとして。

 本体と同じように考え、動いている体を消すというのは、()()()にとっては死ぬことと同義なのではないか。一瞬、そんな考えが浮かんでしまった。

 分体の自我が本体から独立して勝手に振る舞い始めるとか、そんなあり得ないことを妄想してしまった。……今、()()()が怖いと感じているのは、単に未経験のことを先回りして不安を抱いてしまっているだけだ。うん。


     ◆ ◆ ◆


【本体の視点】


  08:40 聖桜高校 2年6組の教室


 朝学活が終わってすぐ。分体は何の問題も無く消えた。分体での転移もできたし、フォスティアたちへの説明も無事に終わった。……()()()は何を恐れていたのか。分体が本体の制御下を離れるかもしれないなどと。

 ともかく、分体を運用する上で何に気をつけるべきかが分かったのは大きな収穫だ。そのことを恐れて必要な時しか分体を出さないでいるより、体が2つあることに早く慣れるためにも、分体は常に出しておいたほうが良さそうだ。


「由美ー、早く講義室に行こう」


 京がわたしに話しかけてくる。今日の1限目は物理、教室移動だ。


「ああ、わたしは便所に行ってくるから、先に行ってて」

「ん、りょーかい」


 京と別れて、わたしはもう1度分体を作るために女子便所に向かった。消す時は分体がどこに居ても問題無いようだが、作る時は、本体が直接認識できる範囲でないと駄目なようだ。


     ●


 個室に入って、分体を作る。そして、ふと思う。今、ここで本体(わたし)(うち)に帰って、授業には分体で出たとしても、たぶん、誰にも気づかれることは無いだろう。むしろ、そのための分体だ。……しかし。

 本体で授業に出て分体で遊ぶことには特に何も感じないのに、なぜか、その逆をするには、変な勇気が要るというか、学校をサボるような罪悪感を感じてしまう。今後、《人生の本業》を分体で行うことを考えている以上、そのことにも慣れておくべきなのだろうが。

 ……とりあえず、今日はこのまま本体で授業に出ることにしよう。

 分体が(うち)へ転移し、わたしは個室を出た。


     ◆ ◆ ◆


【分体の視点】


  12:00 竜之宮家


 分体では食事をする必要は無いのだが、お母さんには、今日は分体(わたし)の分の昼食も準備してもらった。

 分体で食事をしようと思ったきっかけは、今から1時間ほど前。本体が《管理者権限で分体の肉体維持を行わなかったら、分体はどうなるのか》という興味を抱いたこと。

 そうして管理者権限を使わずにいたら、わたしもお(なか)()いてきた。やっぱり、管理者権限で生成した体とはいえ、肉体として生きている以上、空腹は感じるようだ。


「それじゃあ食べましょうか」


 既に席に着いているお母さんが、どことなく嬉しそうな顔で言う。


「なんだか嬉しそうね」

「そりゃあ、ねえ。今までは、こうして(あんた)と一緒にお昼を食べられるのは、学校が休みの時だけだったんですもの。ああ、そのことが寂しいっていう訳じゃないわよ。……でもね、一緒にご飯を食べられるというのは、嬉しいものなのよ」

「……ふふっ」


 お母さんにつられて、わたしもつい笑みがこぼれた。


     ●


  12:40


「ごちそうさまー」


 わたしは箸を置いた。予想どおり、分体でも満腹感は感じるようだ。……今、分体維持の管理者権限を使ったらどうなるのかという興味も湧いたが、なんだか怖いことになりそうなので、やめた。

 本体は今から昼休みだ。たぶん、今日も唯は2-6へ来て、本体が魔法練習へ連れていくのだろう。

 ……よし。唯には今のうちに分体について話しておこう。ゼンディエールからの侵攻を食い止める戦いには、わたしも手を貸すつもりでいる。その時になって唯に余計な混乱をさせないために、今のうちに話して、慣れてもらっておいたほうがいい。

 本体が唯を連れて異世界へ転移するのを待って、わたしも本体の(もと)へ転移した。

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