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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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44.5 老人と銃

  7月14日(木) 17:20 拳銃を作った男の家


 今年で70歳になったという彼の名前はザイアン・ゴート。まさか、自分が作った拳銃が、《龍殺し》の暗殺未遂に使われるとは思っていなかったようだ。


『こんな話を聞きに来るということは、もしかしてあんたも転生者か?』


 居間でテーブルに着いたわたしにお茶を出しながら、ザイアンさんが聞いてくる。


『いえ。わたしは、次元裂……空間に穴が空く現象でこっちの世界に飛ばされた、灰の者です』


 彼の問いに答えて、わたしは出されたお茶を1口すすった。……グラストン砦での毒殺未遂事件を思い出したが、彼にその気は無いと見ていいだろう。

 もし毒が入っていたとしても、わたしの体は毒物耐性も黒龍並みだろうから、人間の致死量程度なら問題無いはずだ。物心がついてから今まで、わたしが風邪をひいたり腹を壊したりしたことは、思い出してみれば、無い。


『灰の者……!? それじゃあ、あんたは……』

『ええ、自力で地球とこっちとを行き来できます。……お望みなら、あなたを地球へ連れていって差し上げることもできますが?』

『……いや。やめとくよ』


 ザイアンさんは首を横に振った。そして、この後、拳銃を作るに至った経緯を説明してくれた。

 この世界でザイアン・ゴートとして生を受けた時、前世の記憶を持っていることにまず気づいた。それからは普通に成長し、ある程度魔法も使えるようになった。


『──拳銃を作ろうと思ったのは、たしか18の時だ。最初は本当にただの興味からだった』


 ザイアンとして生きる中で得た魔法の知識。前世の記憶にあった拳銃の仕組み。

 火薬で弾を撃ち出す部分を《爆裂》の魔石で置き換えるだけで、魔道具としての拳銃は簡単に作れた。むしろ、材料を揃えるのと加工技術を身に着けることに苦労した、と。


『だが、俺はそうやって作った拳銃を、息子にだけは見せてしまった。譲ってしまった。……幸い、息子も拳銃の恐ろしさを分かってくれたようだったが』


 そう話すザイアンさんの顔には、後悔の色が浮かんでいた。

 彼の息子さんも拳銃の恐ろしさを分かっていた。つまり、拳銃を世には出さなかった、ということだろう。実際、わたしがこっちで拳銃のことを知ったのは、今回の銃撃事件が初めてだ。

 彼は続ける。


『あの事件で、この世界の人々も銃のことを知ってしまった。あんたが持ってるその銃をここで壊したとしても、いずれ誰かが似たような武器を作るだろう。……俺は、画期的な人殺しの道具を作った開発者として、この世界の歴史に汚名を残してしまう』


 しばらくの沈黙。

 あの事件で、拳銃は世に出てしまった。わたしは拳銃を事件の捜査資料として兵士に渡したが、もし渡していなかったとしても変わらない。この世界には、映像と音声を他者に伝えられる通信魔法がある。地球での中継放送のように、あの現場は報道関係者に伝わってしまっているだろうから。

 画期的な人殺しの道具。それも、あながち嘘ではない。ゼルク・メリスの攻撃魔法は、消費魔力と攻撃力はほぼ比例している。だが、魔道具としての拳銃は、弾を撃ち出すだけの小さな《爆裂》で、火薬による拳銃と同等かそれ以上の攻撃力を発揮できる。


『あんたが訪ねてきてくれて良かったよ。この話を、誰かに打ち明けることができた』


 ザイアンさんは何かを悟ったような声でそう言うと、どこに隠し持っていたのか、もう1丁の拳銃、その銃口を自分のこめかみに押し当てる。


『ザイアンさん!?』

『《龍殺し》が、あんたみたいな若い娘さんだとは思わなかった。……あんたには申し訳ないが、(じじい)の最期の我儘(わがまま)を聞いてくれんか』


 その《我儘》をわたしが聞き入れたら、ザイアンさんは引き金を引くつもりなのだろう。


『……内容によります』

『今後、俺の真似をして銃を作る馬鹿が現れるだろう。思い出した時でいい。そんな馬鹿共に会ったら、あんたなりのやり方でいいから、灸を据えてやってくれ。……息子には、親の尻拭いをさせたくないんでな』


 ザイアンさんの言葉に、わたしはどう答えるべきか。

 黙り込んでいたのは、ほんの数秒。そして、出た言葉は。


『尻拭いは、息子は駄目で、見ず知らずの他人はいいんですか?』

『だから、我儘だと言った。本当は俺がしたいところなんだが、もう、この年だしな』


 ここで彼に『死ぬな』と言うのは簡単だ。だが、今、彼を死なせなかったとして、彼に何ができる? わたしが、彼に何をしてあげられる?


『……分かりました。この《龍殺し》が、確かにあなたの我儘を聞き入れました』


 自分の胸に手を当て、宣言するように、わたしは言った。

 静かな沈黙。


『ありがとう。……すまない』


 パーティー用クラッカーのような、軽い音。弾ける、赤。地球からゼルク・メリスに舞台を移して生き続けてきた1つの魂が、今、その舞台を降りた。

 彼が最期に使った銃を《変成》で鉄屑に変え、わたしは、ザンハイトたちの所へ転移した。


     ●


  18:30 ベリクス郊外


『その年でよくあの判断ができたねー』


 転移したわたしに、フォスティアが声を掛けてくる。……一瞬、褒められたように感じたのは不謹慎だろうか。


『……あれで良かったのかな』

『良かったんじゃない? あそこでザイアンを死なせなかったとしても、じゃあ彼の残り少ない余生で何ができたかって話だし。たぶん、彼は遺志を託せる人が訪ねてくるのを待ってたのかもね』


 フォスティアの声に迷いは無い。……たぶん、死を肯定している訳ではないのだろう。

 わたしもそうだが、普通の人々は《死ぬこと》を忌避したがる。何があっても絶対に死んではいけない、と盲信している。しかし。

 あの状況で、ザイアンさんが《死ななければならない理由》は、確かに無かった。だが、《死んではいけない理由》もまた、無かった……と、思う。それなら、死ぬか死なないか、どっちを選ぶのかは本人の自由のはずだ。


 死んだら遺族が悲しむ? そんなこと、別に死ぬ以外でも身内が悲しむ例はたくさんある。例えば次元裂に巻き込まれて、2度と会えない異世界に行ってしまっても、生きてさえいれば《遺族》は悲しまないのか。


 死んだら葬儀等の事後処理で他人に迷惑をかける? それこそ、寿命で死んだ時には結局同じ迷惑をかける。自殺しても、それが少々早まるだけだ。事後処理で他人に迷惑をかけてはいけないというのなら、寿命で死んでもいけないことになる。


 そう考えると、《死んではいけない理由》というのは、意外と少ないように感じてしまう。今、わたしが生きているのだって、死んだら親が悲しむとか、親友が悲しむとか、そんな高尚な考えで生きている訳ではない。

 突き詰めれば、()()()()親と離れたくない、京と一緒に居たい、いつか純と家族を作りたい、という、ある種のエゴだ。


『……大丈夫? 由美ちゃん』


 フォスティアがわたしの顔を覗き込んでくる。


『え? あ、うん。大丈夫大丈夫。それじゃ、もう時間も遅いし、わたしは帰るわね』


 わたしがザイアンさんやフォスティアの心境を理解できるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。そんなことを考えながら、わたしは、次元の狭間に飛び込んだ。

 次回更新は少し遅れます。

 4/16(日)までには更新できると思います。

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