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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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44 異界の武器の製作者

  7月14日(木) 06:35 竜之宮家


 血の付いていないナプキンを汚物箱に入れて、便所から出る。今回の生理もようやく終わったようだ。

 子を産める体になって最初の生理は、初日こそ少し嬉しかったが。終わってみれば、やっぱり、こんなもの面倒でしかないとつくづく感じた。


 一旦自室へ戻ってパジャマからいつもの服に──下は年中長ズボンだが、さすがに上はもう半袖だ──着替え、寝癖で乱れた髪を整える。といっても、ショートにしたおかげで以前より手間はだいぶ減った。……前の髪型も気に入ってたけど、これはこれで手間がかからなくていいかも。

 乳液? 化粧水? 何それおいしいの?


 今日の時間割と鞄の中身を確認したら、その鞄を持って1階のリビングへ。お父さん、お母さんと一緒にゆっくりと朝食を食べたら少し休憩して、おもむろに家を出る。

 家事の手伝いは、日曜日などの学校が休みの時だけだ。それでも、お母さんはわたしに《女の子だから》という理由で手伝いはさせない。《将来、きちんと自立できるように》と、常々口にしている。


     ●


  放課後 2年6組の教室


「由美ー、今日は《向こう》、どうするの?」


 帰り支度を終えたわたしに、京が聞いてくる。


「んー、そうね……」


 アールディアの件と、岩蚯蚓(みみず)の件も終わった。

 ビザインとレギウスとの戦争は今すぐどうこうという話ではない。

 ゼルク・メリスに持ち込まれた拳銃については、わたしが関われる部分が殆ど無い。

 レディクラムの《わたしの家》は、デイラムさんとギルドの皆に改築を任せた以上、『やっぱり《変成》でぱぱっと済ませます』という訳にもいかない。

 そして、わたしの能力の謎については、もう完全に判明している。

 ゼルク・メリスでやることは、今のところ、無い。……まあ、ビザインの軍関係者との人脈を作っておくとか、《龍殺し》の名を広めるための活動とか、そのへんのことも考えるべきなのかもしれないが。

 と、そんなことを考えていたら、不意に頭の中に──通信魔法の《雑音》を感じること無く──フォスティアの声が直接聞こえてきた。


『驚かせてごめんね、由美ちゃん。今は管理者権限の《中継》で、こっちから直接声を送ってるんだ。それで、ちょっと話があるんだけど、良かったら今からこっちに来てくれないかな。無理なら無理でいいから。んじゃね』


 ……管理者権限を使ってまで、わたしに知らせたい《話》とは。

 今日はゼルク・メリスへ行こうかどうか迷っていたところだし、行ってみることにしよう。


「やっぱり、今日も行くわ。一緒に帰れなくてごめんね」

「いいっていいって。そんじゃ、また明日(あした)ね」

「ええ。また明日(あした)


     ●


  16:00 どこかの山中


『あ、来てくれたんだ』


 わたしにそう話しかけてきたフォスティアの手には、あの拳銃──大統領官邸前でわたしを銃撃した犯人が持っていた拳銃を、わたしが記憶から再現した物──が握られていた。銃口をわたしに向けて。


「──!?」


 まさか、フォスティアがわたしを!?

 一瞬、本気でそんなことが頭をよぎり、思わず《変成》でその拳銃を分解しようとして、気づく。


『……フォスティア。それ、口をこっちに向けて持たないで。「拳銃」の口を向けるっていうのは、目の前に剣を突きつけることと同じ意味を持つから』

『……! ご、ごめん!』


 フォスティアは慌てて銃口を下に向けた。


『まあ、知らなかったんだろうから、気にしないで。それで、話っていうのは?』

『本当にごめんね。……うん、シェル君の白龍友達に聞いてもらったんだけど──』


 フォスティアは言う。あの拳銃は、首都ギアハウトから熊車で1日ちょっとの所にあるベリクスの町、そこに住む1人の男が、完全に自分1人だけで作ったものらしい。それを男の息子が受け継ぎ、息子はやがてギアハウトに移住。

 拳銃はそこからさらにその息子、つまり最初に拳銃を作った男の孫に受け継がれ、わたしの銃撃に使われた、と。……というか《白龍友達》って。まるで男友達とか女友達みたいなノリだ。


『へぇ……でも、それを知っても、わたしには何もできないわよ? むしろ、その話はビザインの政府関係者にしてあげたほうが……』


 わたしは言った。どうやって拳銃がこっちに持ち込まれたのかには興味があるが、それを知ったところで、わたしにはどうしようも無い。その男というのも、たぶん、わたしと同じように次元裂に巻き込まれてこっちへ飛ばされてきただけだろうし。……拳銃を自力で魔道具として再現したことには驚かされるが。


『うん、あたしもそう思ったんだけどね。この……えっと、拳銃、だっけ。これを最初に作った男っていうのは、由美ちゃんみたいに次元裂から現れた異世界人じゃないみたいなんだよ』

『……は?』


 わたしが思わず間の抜けた返事をしたところで、シェルキスが口を……いや、口を開いたというか、通信魔法でわたしに話しかけてきた。


『我が友ザンハイトは、白龍の中でもけっこうな変わり者でな。昔から、ベリクスの人間たちとそこそこ交流しているのだ。そんなあやつが、ある時、1組の夫婦から《子が生まれた》と報告を受けたそうだ』

『……まさか、拳銃を作った男って』

『ああ。その夫婦の子だ。……もし、イリスの前世が拳銃の仕組みを知っていたとしたら、どうする?』


 シェルキスの例え話で、わたしは《その可能性》に思い至った。拳銃を作った男は、記憶を持ったまま転生した地球人かもしれない。

 だとしたら、その男はなぜ拳銃を作ろうと思ったのか。そして、なぜ本当に作ったのか。


『なるほど。政府に動いてもらう前に……』

『地球出身であるおまえが話をしたほうが良いのではないか、と思ってな』


 シェルキスはそう言った。


     ●


  16:30 ベリクス郊外


 拳銃を作った男に会うために、わたしたちはまずザンハイトの(もと)を訪れた。フォスティアがザンハイトとも面識があり、わたしたちを連れて転移してくれた。

 わたしたちが転移でここへ現れてすぐ、ザンハイトとシェルキスが通信魔法で何か言葉を交わす。が、その内容はわたしには理解できなかった。おそらく、彼らが交わした言葉は龍語……あれ?

 今の通信魔法、限定発信だったはずなのに……ああ、そうか。わたしにはもう無意識に《雑音》を拾う癖がついてしまっているのか。

 ザンハイトがわたしの方に顔を向け、その瞬間、わたしの心臓が跳ねるように大きな鼓動を打つ。《雑音》を拾っていたことを気づかれたか。


『ご、ごめんなさ──』

『何を謝る? 元より、《雑音》を拾われることなど承知の上だ。というか、黒龍の力を継ぐ者がその程度もできぬでは、そのほうが興ざめだぞ?』


 ザンハイトは何でもないような様子で言った。……というか、わたしが黒龍の生まれ変わりということまで知っている?

 わたしは思わずシェルキスの方を向く。すると、彼は、


『すまないな。事情を説明する上で、おまえのことも話さざるを得なかった。……この際、思い切ってこやつを驚かせてみてはどうだ?』


 と、どこかこの状況を楽しんでさえいる様子で言った。……そういうことなら、翻訳魔法を使って日本語で話しかけてみよう。


「それじゃあ、改めて。……初めまして、白龍ザンハイト。わたしは、黒龍イヴィズアークの生まれ変わりにして灰の者、竜之宮由美です」

「なんと……!? 《根底の流れ》に頼らず、自力でこのような魔法を……!」


 通信魔法で送られたザンハイトの言葉が、しっかりと日本語で聞こえる。おそらく、彼にもわたしの言葉は龍語で聞こえていることだろう。

 わたしはフォスティアの方を向き、


「フォスティアには、たぶん、ゼルク・メリス共通語で聞こえてるんじゃない?」

「うん。シェル君やザン君が言うところの《人語》だね」


 フォスティアの返事で、わたしは再びザンハイトの方に向き直る。


「……まさか、シェルキスの無茶振りに(こた)えてしまうとはな。驚いたぞ」


 ザンハイトは言った。……白龍が《無茶振り》なんて言葉を知っていることに、わたしも驚いた。


     ●


 拳銃を作ったという男の居場所をザンハイトに聞いて、その家を訪ねる。念のため、わたしが《変成》で作ってフォスティアに預けておいた拳銃のコピーも持っていく。

 玄関の扉を数回叩いて待つことしばし。開いた扉の奥から、思っていたよりも若々しい男性が姿を現した。


『誰だ、あんた?』


 ぶっきらぼうにそう聞いてくる男性。彼が発した言葉はゼルク・メリス共通語だった。もし、彼の前世が地球人だったとしても、この世界でゼルク・メリス人として育った以上、母語はこっちの言語になるのだろう。

 わたしは、彼に拳銃のコピーを見せる。


『これに見覚え、ありますよね?』

『……なるほど。「銃」の製作者への報復、って訳か。構わんよ、俺はもう、随分と長く生きた』


 男性は落ち着いていた。


『いえ、あなたを殺そうなんていうつもりはありません。ただ、お話を伺いたいと思いまして』

『話……だと?』

『ええ。あなたがどうやって、この世界に存在しない「銃」を1人だけで作ったのか。……もしかして、前世の記憶があるのではないか、と』


 わたしは、こういうハッタリとか鎌掛けみたいな会話は苦手だ。だが、初対面の相手から込み入った話を聞き出すには、こうするしかない。

 しばらくの沈黙の後、


『……入ってくれ』


 男性は、わたしを家の中へ招き入れてくれた。

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