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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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41 淀む魂救う者

  7月11日(月) 17:00 レディクラムの宿酒場


 カインは言った。妹イリスが前世の記憶を持っていることは、既に本人に聞かされて知っている。だが、それを聞いた後、冒険者の資格を取って旅に出た理由が、《空の穴》の向こうへ行く方法を探すためだということは、母親(レフィア)にしか話していない、と。


『なるほどね、道理で……』


 カインの話で、わたしも合点がいった。京、久坂さんと一緒に次元裂に巻き込まれて初めてゼルク・メリスへ来た時、なぜカインがあんなにも友好的だったのか。あの場所でわたしとカインとが出会ったこと自体は全くの偶然だったのだろうが、その後、カインがわたしを父親(クラウス)の下へ案内すると言いだしたのは、それでカインの目的が果たされる可能性が高かったからだ。

 あの時のカインにとって、わたしは、次元裂の向こうからやってきた異世界人。しかも、自分たちの共通語を話せる。まさにこの上無い手懸かりだったことだろう。


『カイン……まさか、そこまで考えてくれていたのか』


 伯父さんが感慨深げに言う。


『でも、結局、僕が由美を連れていく前に、2人は出会っちゃったみたいだけどね』


 伯父さんとカインとが話し合っているそばで、わたしはふと、別のことに気づく。

 あの時わたしは、一旦バイクを置きに(うち)へ帰った。その後、またカインたちと合流する時には、そのままカインを目印に転移したが。

 もし、カインではなく京を目印にしていれば、あの時点でイリスの存在に気づいていた可能性もあったのだ。気づいていれば、直接アルフィネート家に転移できていた。それをイリスに話すと。


『あ』

『……ええ』


 イリスとわたしと、2人して固まった。今になって気づいても後の祭りではあるのだが。……まあ、こうして遠回りをしたおかげで、幾度もの戦いを経てわたしの魔力も鍛えられたし、いろんな経験もできた。と、プラスに捕えることにしよう。うん。

 伯父さんたちとは、明日(あした)、わたしが転移で一旦グラストン砦へ送っていく約束をして、今日は別れた。


     ●


  7月12日(火) 昼休み ベアゼスディート


 昼休みにわたしのクラスへ遊びに来た唯を、今日は女子便所からの転移で、ベアゼスディートのどこかの山中へ連れてきた。


「どっ、どこですか!? ここ!?」


 転移する前にも一応説明はしたが、まあ、やっぱり最初は驚くか。


「んー……ゼンディエールとよく似た、地球ではない異世界、ってところかな。ここなら誰も居ないし、気兼ね無く魔法の練習ができるでしょ? あ、魔物は居るかもしれないから、気をつけてね」

「ま、魔物……? ゼンディエールから攻めてきたような……あ、先輩はまだ知らないんでしたね、すみません」

「まあ、たぶん似たようなものだと思うわよ。じゃ、始めようか」

「は、はい……!」


     ●


 そろそろ昼休みが終わる。そんな時だった。

 唯に攻撃魔法の一例として教えた、水を高速で噴射する魔法。ウォーターカッターのような攻撃ができるこの魔法で倒した、猫系と思われる魔物の死骸が、唐突に起き上がった。

 これには、さすがにわたしも驚いた。わたしや唯が使った魔法以外での《雑音》は感じなかったから、死霊術が使われたとは考えにくい。……まさか、1度使われた魂が、淀みに再統合されるでもなく、源泉に還るでもなく、自力で死体に乗り移ったとでもいうのか?

 とにかく、動く死体は始末しなければならない。《変成》での分解も考えたが、それだと分解される過程を唯に見せてしまう。《光弾》で頭だけを吹き飛ばしても死体には関係無いから……やっぱり、ブレスで全身を一気に、か。そう思って、わたしがブレスの準備を始めた時。


「待ってください!」


 唯がわたしを止めた。


「……唯? ──っ!?」


 唯と死体とが、共鳴している。《魂の淀み》から分離した、という意味では同じ魂を持つ、唯と死体。唯の目から光は失われていないが、心ここにあらずといった様子ではある。

 同じ魂を持つからか? 源泉に還ってリセットされること無く、ただ切り分けられただけの魂が、1つに戻ろうとしているのか? だとしたら、唯は……!


「唯!?」

「……大丈夫ですよ、先輩」


 唯を引き留めようとしたわたしに、しかし、唯は首だけでゆっくりと振り向いて、穏やかな笑顔で応える。

 唯は再び死体の方に向き直り、その穏やかな表情のまま語りかける。


「今までつらかったね。もう大丈夫。さあ、わたしと一緒になって」


 その言葉が理解できている訳ではないだろうに。死体は、振り上げた爪を唯に振り下ろしはせず。ゆっくりと、地面に倒れた。そして、2度と動きだすことは無かった。


「……唯!」


 その場に崩れかけた唯を、慌てて駆け寄ったわたしは、どうにか抱き留めることができた。


「先輩……わたしは、彼らと()()なんですね」


 どこか悟ったようにそう語る唯の目には、しかし、しっかりとした意思の光がある。


「唯、あんた……」

「……なんだ。先輩、もう知ってたんですか。……意地悪です」

「……ごめん。言わないほうがいいと思って」


 わたしがそう言ったところで、唯は立ち上がる。


「気を遣ってくださってたんですね。ありがとうございます。……さあ、そろそろ昼休みも終わりますから、学校へ連れていってください」

「……ええ」


 この後、唯を連れて学校に戻ったわたしは、念のために《体調不良》として彼女を保健室に連れていった。


     ●


  放課後 帰り道


 京と唯とで3人の帰り道。歩きながら、唯が言う。


「由美先輩。今日はありがとうございました」

「いや、むしろ……あんたを危険な目に遭わせて、ごめん」


 わたしは改めて唯に謝った。

 予想して(しか)るべきだったのかもしれない。唯も《死体》たちも、同じ《魂の淀み》から分離した魂を持っている。であれば、互いに、何らかの反応があってもおかしくはない。

 わたしとイヴィズアークや、京とイリスのように、同じ時代に転生した者同士も同じ魂を持っているが……少なくとも、わたしとイヴィズアークは、ああいう反応は起こさなかった。

 全くの同一の魂か、同じ元から分化した別々の魂かの違い、だろうか。


「え、危険な目、って? わたしは、あの死……()と出会えたことを、先輩に感謝してるんですけど?」

「え?」


 唯からは予想外の答えが返ってきた。そこへ、京が話に加わってくる。


「お、由美ったら。昼休みに唯を連れてどこに行ってたのかなー?」

「どこって、別に変な所じゃ……いや、変な所なのかな」

「先輩、途中から自信無くさないでくださいよ」


 唯に半眼で突っ込まれた。……そういえば、京はさっきのわたしの言葉の中で《危険な目》には突っ込んでこなかったが。そこに関しては、わたしの戦闘能力や防衛能力を信頼してくれている、と思っておこう。

 京とは聖桜公園で別れ、わたしは唯を連れて(うち)へ帰った。


     ●


  16:35 由美の部屋


「わあ……ここが先輩の部屋なんですね」


 唯は弾んだ声でそう言った。

 今日、唯を(うち)へ連れてきたのはお母さんに格闘を教わるためなのだが。

 その前に、わたしは唯に聞きたいことがあったので、まずは自室に招いた。京を招いた時と同じように、わたしが勉強机の椅子に座り、唯をわたしのベッドに腰掛けさせる。


「唯。今日の帰り道で、あんた、あの死体に出会えたことをわたしに感謝してる、って言ってたけど……どういうこと?」

「ああ、あれですね。あれは──」


 唯は言った。あれは、おそらく唯の魂と、あの死体の魂とが1つに戻ろうとして共鳴していたのだろう、と。その統合が行われる際、自我を失った死体の魂と、1人の人間として生きている唯の魂とでは、当然唯のほうが強い。だから、唯ではなく死体側から魂が引き剥がされて、唯の魂に吸収された。


「──それが、なんか変な感じだったんですけど……どう言えばいいのかな、自分が大きくなったみたいというか、魔力? がみなぎってくる感じ、というか……」

「ああ、うん。だいたい分かったわ」


 わたしが黒龍の魂を持っているように、この肉体という《器》には、相応の魂しか入れられないといったような制約は、どうも無いらしい。

 唯は、今日の死体との邂逅によって、あの死体に入っていた魂の分、自分の魂が大きくなったのだろう。……ということは、今後も同じことを繰り返せば、いずれ唯の魂は《魂の淀み》と同等まで巨大化するのだろうか。

 それとも、実は《器》には制約はあって、その限界以上に魂を取り込むことはできないのか。無理やり限界を超えようとすれば、《器》が壊れる可能性はあるのか。

 わたしは、唯に聞いてみた。


「唯。もし、今後もあっちの世界で魔法の練習を続けるとして……今日みたいなことがあったら、どうする?」

「え? ……うーん。わたしはあの感覚、嫌じゃなかったんですけど。……危険なものなんですか?」


 唯は不安げな顔をする。


「いや、わたしにも分からないの。だから、唯が嫌じゃなければ、いいかな、って」

「ふーん……分かりました。じゃあ、これからもたまには、また《あっち》へ連れていってくださいね」

「ええ。分かったわ」


 話を終えて、唯は1階へ。わたしは伯父さんたちをグラストン砦へ送っていくために、レディクラムへ転移した。

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