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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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37.5 1つの終わり

  7月8日(金) 21:40 竜之宮家 浴室


 今日はアールディアの地下組織を壊滅させるなどという、およそ日常とはかけ離れた経験をしてきた訳だが。1日の最後を締めるこの時は、いつもと同じように迎えることができた。

 日本人なら、やっぱり風呂だ。……わたしには半分はレギウス人の血が流れてるなんて、突っ込んではいけない。前世は人ですらないだなんて、突っ込んではいけない。

 浴槽の横で(かが)み、まずは体を湯の温度に慣らすためのかけ湯をする。そして片足ずつゆっくりと浴槽の中へ──


「ぉわ!?」


 先に浴槽の底についた足が滑り、体勢を崩す。

 ごっ! どばしゃーん!

 浴槽の縁で頭を打ち、わたしは、そのまま風呂に沈んだ。

 しばらく湯の中でもがいた後。


「ぶはっ! ()ったぁー……」


 どうにか水面から顔を出すことができた。じんじんと痛む後頭部を手でさする。


「どうしたの由美!? 大丈夫?」


 浴室の扉越しに、お母さんが慌てた声で心配してくれる。


「だ、大丈夫。ちょっと滑っただけだから」

「そう……良かったわ」


 それだけを言うと、お母さんの足音は遠ざかっていった。……首を刎ねられても死ななかった《龍殺しの英雄》が自宅の風呂場で溺れ死ぬだなんて、嫌すぎる最期だ。


「……首を刎ねられても、か」


 腕を切られた時と同様、まだ微妙に違和感の残る自分の首へ手をやり、ふと思う。

 今日、わたしが首を刎ねられてから《変成》で繋ぎ直すまで、だいたい1分程度だっただろうか。脳への血流が途絶えてからそんなに長い時間、意識が無くなるどころか、薄れすらしなかった。……シェルキスに言われたことを思い出す。黒龍から人間に転生して、肉体能力はだいぶ弱体化した、と。しかし。


 弱体化したのは《筋力》だけだとしたら?

 わたしの体を構成する細胞が発揮できる《物理的能力》のみが人間並にまで弱体化しただけで、栄養供給が途絶えてから壊死までの時間(リミット)やダメージ耐性などといった《耐久性》は、魔力と同じく黒龍並のままなのだとしたら。

 人間よりもはるかに巨大な黒龍の脳を維持できるほどの耐久性を持った、人間の脳。……うん、たかだか数分程度血流が途絶えただけで脳死に至るというのは、ちょっと考えにくい。

 だからといって、《変成》で実際に首の血管を塞いで実験なんて危険なことは、さすがにしたくない。だが、例えば《どれくらい息を止めていられるか》で、比較的安全な実験なら可能だ。


 わたしは、さっさと体を洗って再び浴槽に頭まで漬かり、その実験を始めた。

 最初の1分は、まあ、それなりに息苦しさが増してきた。だが、それ以降は殆ど変わらなくなった。そして。

 何分()ったか。息を止めていられる限界を迎えるより先に、危うく風呂にのぼせかけた。

 浴室から出てパジャマに着替え、時計を見たら、風呂に入る前から40分経っていた。脱衣、体を洗う時間、上がってからの着替えを差し引くと、息を止めていたのは20~25分ぐらいか。……どんな化物だ。いや、前世は黒龍なんだけど。今のわたしはれっきとした人間だ。たぶん。


「お母さん。お風呂、上がったよ」


 リビングに居るお母さんに声を掛けて、わたしは自分の部屋へ向かった。


     ●


  22:30 由美の部屋


 ベッドに腰掛けて、湯冷めしない程度に体が冷えるのを待つ。その間に色々と考えが浮かんでくるが、まずは髪だ。明日(あした)はまだ学校だから、明後日(あさって)の日曜日に、京を誘って美容院に行こう。

 次は……ゼルク・メリスで、多少なりともわたしが関わった問題。その最初の件であるアールディアの問題が、今日、終わった。だが、問題はこれだけじゃない。

 ビザインとレギウスの関係。ビザイン国内に持ち込まれ、魔道具として改良されていた拳銃。ディオス洞窟の岩蚯蚓。


 ビザインとレギウスの関係については、ビザイン共和国からの協力要請に応じた以上、わたしとしては最後まで付き合いたい。時期的にわたしの大学進学やゼンディエールからの侵攻と重なりそうだが、なんとかなるだろう。いや、なんとかする。


 拳銃の問題については、無理にわたしが関わる必要は無い。というか、首を突っ込んだところで、わたしに何かができるとは思えない。拳銃のことを全く知らないであろうゼルク・メリス人より、少しは知っている地球人として、協力できることがあれば協力する、というくらいでいいだろう。


 岩蚯蚓の問題は、何日かしたらイリスに手伝ってもらってささっと片付けよう。たぶん、退治してくればいいだけだろうから。

 後は……ああ。1分程度だったとはいえ、わたしの体から脳が切り離された状態が続いた。そのことで、色々と体調なんかが狂ったりしないだろうか、という不安はあるが。こればかりは、実際にしばらく自分の体を観察してみないことには、なんとも言えない。……病院に「首を切られたんですけど大丈夫でしょうか」なんていう理由で行ける訳が無い。


 わたしは短く息を吐いた。

 とりあえず。今のところは、3日後にレディクラムでデイラムさんや伯父さんたちと再会するまで、久しぶりに《日本での日常》が戻ってきそうだ。……次元裂に巻き込まれてゼルク・メリスに行くまではそれが普通だったはずなのに。なぜか、今は少し寂しい気もしてしまう。


 ……と、色々と考え事をしていたら、いい具合に体も冷えてきた。今日はそろそろ寝よう。

 そして、明日(あした)の朝、いつもの聖桜公園で、京にいつもの声を掛けよう。

 そんなことを考えつつ、わたしは、ベッドに潜り込んだ。

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