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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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36 地下組織壊滅作戦(1)

  7月8日(金) 学校からの帰り道 聖桜公園の前


「じゃあね、京。また明日(あした)


 いつものように。互いの通学路の分岐点であるこの場所で、わたしは、京に背を向ける。歩きだそうとして、


「あ……」


 後ろから聞こえた京の声に、その足が止まる。大きな声ではない。むしろ、つい口から漏れてしまったかのような、細く、しかし、悲鳴のようにも聞こえた声。


「ん、何?」


 振り返って聞き返したわたしに、京は、


「う、ううん、なんでもない。それじゃあ、また明日(あした)ね」


 明らかに作った笑顔で、そう答えた。……1日の準備期間を置くような重要な作戦がある。昨日、京にその話をしたことで、かえって京を心配させてしまう結果になったようだ。だったら、その京に今のわたしがしてやれることはただ1つ。

 今日の作戦を成功させて、明日(あした)の朝、いつもどおりに「おはよう、京」と声を掛けること。


「ええ、また明日(あした)


 わたしは、再び京に背を向けて歩きだした。


     ●


  18:40 アールディアの町の近く


 お母さんを連れて、伯父(クラウス)さんの所へ転移する。ここに居たのは、伯父さんとイリス、そしてゴルテンさん。わたしとお母さんとを合わせて、5人だけだった。

 ゴルテンさんが、わたしとお母さんにアールディアの地図を見せながら説明する。


『俺たちが侵入するのはここからだ。今までに連れ去られたやつらの救出なんかは、別経路から侵入する俺たちの仲間に任せればいい。俺が先導するから、あんたたちは敵の親玉を叩くことに集中してくれ』


 アールディアの地下組織。その規模はかなり大きいようで、本部こそアールディアにあるものの、その本部というのはいわゆる《表舞台》にすぎない。

 地下組織の表舞台というのも変な表現だが、要は各地から攫ってきた実力者たちを戦わせて勝敗を賭ける《闘技場》があるのがアールディア、というだけだ。その賭け試合を運営するための事務処理などを行う部署は、また別にあるらしい。

 ゴルテンさんは言う。


『ま、そういう裏方のほうはデイラムが頑張ってくれたからな。後は俺らがこの《表舞台》を叩きさえすりゃ、万事解決、って訳だ。……よし、そろそろ行くぜ』


 ゴルテンさんの合図で、わたしたちは一斉に平原を駆けだした。


     ●


  19:05 アールディア地下闘技場 入り口


 地下施設への入り口は町の外れにあった。そこから続く通路は、3人並んで走るのはちょっときつい。


『俺とユマで最後尾を固める。おまえたちはゴルテンの後ろに続け』


 伯父さんが言う。てっきり、わたしは伯父さんとイリスが組むものだと思っていたが。


『え……お父さん?』


 どうやらイリスも同じ気持ちのようだ。


『走りながら説明する』

『わ、分かった』


 しばらく、わたしたちは敵どころか人の気配すらしない通路をひた走る。その間に、伯父さんはわたしとイリスを組ませた理由を説明してくれた。

 魔力だけなら、わたしはもちろん、イリスでさえ、伯父さんやお母さんより高い。だが、高威力の魔法が使いづらい地下では、魔法よりも近接戦が重要になる。

 その面から判断すると、わたしやイリスより、伯父さんとお母さんのほうが戦闘能力は上。背後から奇襲された時の対応を考えると、今の布陣が最適だ。それに、イリスの前世はわたしの親友なのだから、相性の面でも悪くはないだろう、と。


『なるほ──!? ()べ!』


 伯父さんの説明に相づちを打とうとして、わたしは叫んだ。普段使わない、きつい言い方をしてしまったが、言葉として発するにはこれは最も短い。

 わたしの言葉に反応して、皆それぞれ通路の両端に跳ぶ。その中央、さっきまでわたしたちが居た場所を、1本の閃光が貫いた。


『な……なんだ、今のは……!?』


 伯父さんが戦慄の声で呟く。

 今の光が飛んできた元、わたしたちが今居る場所からもう少し通路を進んだ所には、かなり大きめの部屋があった。

 警戒しながらわたしたちがその部屋へ入ると。


『あれに気づくとは、さすがだな』


 1人で持ち運びができそうな大きさではあるが、戦車の砲塔だけを持ってきたような形の物体、そのそばに立つ男が、こちらをあざ笑うかのような声で言った。

 部屋は、学校の体育館より若干狭いかという程度。そこに戦車の砲塔のような物体が置かれ、それに繋がれた何人もの、おそらく攫われてきた魔導士たちが居る。

 そして、壁際には武器を構えた冒険者と思しき人々も。こちらはどこかに繋がれている様子は無いが、目は(うつ)ろで、部屋に入ってきたわたしたちに、亡者のような動きで武器を向ける。

 ゴルテンさんたちも武器を構える。イリスは《光剣》、わたしはその《光剣》を解析して真似た魔法を使うつもりなので、今は発動させていない。

 最初に、イリスが口を開く。


『何……あの大砲みたいなやつ……』


 わたしも初めて見た。繋がれた魔導士たちから無理やり吸い出した魔力で放った魔法だとは思うが、少なくとも《光弾》ではない。感じた《雑音》が全く違ったからだ。魔法は魔法だろうが、あれは……


『……管理者権限』


 わたしは、呟くように言った。

 その言葉に、男が反応する。


『ほう、よく知っているな』

『《根底の流れ》に干渉して、生成した仮想……いや、魔力空間の容量を超える魔法を無理やり発動させてるのね』

『すげえな、当たりだ。まさか初っ端から見破られるとは思ってなかったから、ちっとは驚いたぜ』


 もちろん、普通の方法でそんなことができるはずが無い。生成した魔力空間を超える魔法は、そもそも発動できないからだ。

 おそらく、先に小さめの魔力空間を生成しておき、それとは別で発動させた魔法を、最初に生成しておいた魔力空間に逆発動で無理やりねじ込んでいるのだろう。そうすることで、魔力空間の範囲外に溢れた部分の《式》が、管理者権限として誤作動する。

 魔力空間から溢れる部分にデタラメでもいいからとにかく《式》を書いて、管理者権限として発動してしまう組み合わせを探し出せば、天使でなくとも管理者権限が使えてしまう。

 オーバーフローによる任意コード実行バグ。まさか、本当に存在していたとは。……いや、そもそも。

 こんな世界を滅ぼしかねない《バグ》に、イアス・ラクアは本当に気づいていないのか? こいつらが兵器として完成させているということは、開発段階で何度も実験しているはずだ。


『だが、連発はできないようだな?』


 わたしの後ろから、伯父さんが冷静に指摘する。……そうだ。今はこいつらのことを考えなければ。加速現象のおかげで思考にふけっていたのは2秒も無かったとは思うが、油断するにもほどがある。


『まあな。1発撃つだけで魔導士10人くらいの魔力を使っちまうんで、こいつはもう撃てねえ。……この意味、分かるよな?』


 男は酷薄な笑みを浮かべて言う。そして、わたしの横で青ざめるイリス。


『まさか、その人たちは、もう……』

『そういうことだ。そんじゃ、俺は一足先に逃げさせてもら──!?』


 ここまで来たら、もう出し惜しみをする理由は無い。わたしは、《変成》で男の四肢を破壊した。失血死しないように血管は塞いでおく。


『後で話を聞くから、そこで見てなさい』


     ●


 虚ろな目をした、冒険者や戦士などと思われる人々。彼らは、あの《強制的に発動させた管理者権限》……長いから《乗っ取り権限》とでも呼ぼうか、ともかく、アレで自我を殆ど破壊されていた。残された意識は、敵を認識することと、その敵を殲滅することだけ。

 ゴルテンさんが男の尋問を、そして、伯父さんとお母さんで部屋の左翼、わたしとイリスとで右翼の、それぞれ《敵》の相手をする。

 近接戦闘能力で見ると、伯父さんたちよりわたしたちの側がだいぶ弱いが、こっちは2人共が《光剣》を使える──つばぜり合いにならず1撃で相手を仕留められる──ので、こうなった。……だが、その判断が間違っていたことに、今、気づかされた。

 わたしとイリスとは互いに背中合わせで戦っていた。わたしがブレスや《光弾》で一気に仕留めようかとも思ったが、すぐに諦めた。ブレスは準備に時間がかかるし、《光弾》でも1撃で《敵》を全滅させられない以上、どうしても隙ができる。近接戦で各個撃破していくのが最善だと思ったからだ。しかし。


『きゃっ!』


 側面からの足払いで、イリスが体勢を崩した。その隙を狙って、逆の側面から別の《敵》が剣を繰り出す。


『イリス!』


 わたしは一瞬だけ振り返り、イリスに剣を振り下ろそうとした《敵》を斬り伏せる。……この一瞬、わたしは、さっきまでの正面、今の真後ろに居る《敵》に、無防備にも背を向けてしまった。

 加速現象の中で、わたしは、自分の首に冷たい物が触れたことを認識する。見下ろしていた視線の先には、イリスの見開かれた両目。皮膚が、筋肉が、切り裂かれていく痛みの中、「まずい」、ただその一言のみが、わたしの頭を埋め尽くしていく。

 実際にはほんの一瞬の出来事。

 わたしの、視界が回った。

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