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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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31 どうしてこうなった

  7月4日(月) 昼休み 聖桜高校2年6組の教室


 今日も、わたしはいつものトレーナーとジーパンで学校に来ていた。昨日の緑龍との戦いで上下1セットは駄目になってしまったが、お気に入りの服だから当然予備は買ってある。

 そんな今日の昼休み。


「おーい、竜之宮。おまえの舎弟が来てるぞー」


 ちょうど、昼食の弁当を食べ終えた頃。わたしに、柊のからかうような声が掛けられる。


「だから舎弟言うな」


 一応ツッコミを入れつつ、わたしは教室の後ろ側の入り口へ。そこには、今まで元気な声で「先輩(せんぱ)ーい」と呼びかけてくれていたのに、今日は妙に静かな唯がひっそりと立っていた。


「どうしたのよ、唯」

「えっと……お、お話が……」


 昨日、なんだか唯の様子がおかしかったけど、それはまだ続いているようだった。

 最近、頻繁に唯がわたしのクラスに顔を出すようになったせいか、同級生たちも特に騒いだりはしなくなってきた。まあ、それはそれで都合が良いが。


「……じゃ、行こうか」


 わたしは唯を促して歩きだした。もちろん、屋上への転移を誤魔化すために使っている女子便所へ。


     ●


 転移で唯を屋上へ連れ出し、わたしは、結局昨日聞けなかったことを、今、直接唯に聞いた。

 唯がわたしを慕ってくれる理由。その最初は、単に《魔法を教えてくれる先輩》というだけだったらしい。だが、わたしが一部の生徒からスクールカースト頂点の《暴君》だと見られていると知ってから、少し変わった。

 唯は親友こそ居るものの、それ以外は、良く言えば《誰とでも分け隔て無く接する》、悪く言えば《友達といってもみんな上っ面だけの付き合いでしかない》という交友関係だったらしい。

 だから、わたしと……《暴君》と仲良くなることで、それでも変わらず友達でいてくれる者とだけ付き合いたい。でも、わたしを、その選別のために利用しているようで、先輩として好きではあるのだが、その自分の感情さえ信じきれない。

 本当にわたしのことを好きなのか、それとも単に《友達》の選別のために利用価値があるとしか見ていないのかが分からない、と。

 わたしは、俯いて今にも泣きだしそうな唯の頭に軽く手を置いた。


「……!? せ、先輩?」

「いいじゃない、それでも。利用するだけのつもりで近づいて、気づいたら本当に好きになってしまっていた、とかでもいいじゃない」


 なんだか、非常に(うぬ)()れたセリフのような気がするが、考えたら負けだ。

 わたしは続ける。


「あんたがどんな理由でわたしに近づいてきたのかはともかく、今はこうして一緒に居てくれるんだしさ。それだけでもわたしは嬉しいわよ?」

「先輩……ありがとう、ございます」


 唯はそう言って頬を赤らめた。……唯はわたしのことを《先輩として》好き、だと言った。だから、これは()()()()()()ではない。うん。

 この後わたしは、唯には通信魔法の練習をさせることにした。派手に光ったりする魔法は、地上から見られたり、衛星写真なんかに写ってしまうおそれがあるので使えない。だから、その代わりとして、とりあえず今すぐ練習できるものは、と考えた結果がこれだった。

 通信魔法が使えれば、わざわざスマホや携帯電話を使う必要が無くなるし、何より声を出して喋らなくてもよくなる。すぐに使えるようになるのは無理だろうが、やり方さえ知っておけば、後は1人での練習でもどうにかなるだろう。それに、この魔法は光も音も出さないので、人の目を気にせず練習できる。

 おおまかに口での説明をした後、わたしは、唯に通信魔法のコツを掴ませるため、その魔法で話しかけた。


「こんな感じよ。できそう?」

「──!?」


 頭に直接声が響く、というのは、慣れないと気持ち悪いだろう。わたしは最初の一言だけで通信魔法をやめ、後は普通に話を続けた。


     ●


 そろそろ昼休みが終わろうかという頃、わたしたちは再び便所の個室に転移。今回は、以前のように個室が全て埋まっているということはなかった。が、それでも何人かは洗面台に居る。

 わたしは唯の肩を自分の方に抱き寄せ、いかにも親しげな風を装って個室から出た。唯も唯で、まるで恋人と共に居るかのような、幸せそうな笑顔を見せている。……演技、だよね?

 ともかく、こうして、わたしたちは固まっている女子生徒たちを尻目に、悠々と女子便所を出た。


     ●


  16:00 レディクラムの宿酒場


 今日は唯は部活だ。魔法の練習のためにできるだけ部活は休むとは言っていたが、それでも週のうち半分は出ないといけない、とも言っていた。

 伯父(クラウス)さんたちもまだグラストン砦に到着していないし、デイラムさんの店で何か簡単に片付けられそうな依頼がないか探してみよう。そう思って、わたしは早速この宿酒場に転移してきた。……ら、なんだか大変な事態になっていた。


『おお、あんたか。ちょうどいい時に来てくれたな』


 どこか慌てた様子のデイラムさん。


『どうしたの?』

『実はな──』


 レギウス王国ザールハインの町のそばを流れるディオス大河。主要街道を横切るように流れているこの大河の地下深くには、両岸を繋ぐ洞窟がある。だが、以前から街道として使われていたこの洞窟の、さらに地下深くに、街道代わりに使われている上層とは比較にならないほど広大な洞窟が、つい最近になって発見された。

 冒険者ギルドと王国軍が共同で調査隊を派遣したが、岩蚯蚓(みみず)という凶暴な魔物に阻まれ、調査は遅々として進まない。


『──で、だ。グラストンのレギウス側の砦に勤めてる兵士の身内がギルドの関係者みたいで。その兵士が、あんたの……《龍殺し》のことをその身内に教えたら、ギルド経由で依頼してきた、ってオチだ』


 デイラムさんはわたしに1枚の依頼書を見せた。


 ディオス洞窟に巣くう岩蚯蚓を、可能な限り討伐していただきたい。《依頼者:レギウス王国軍》


 ぶ。

 依頼の内容を読んで、わたしは噴き出してしまった。

 ガディオンさんが言うには、まだこっち側の国境付近の雰囲気はそんなに悪くなってはいないらしい。それでも、国同士が戦争の危機にあることには変わりない訳で。

 そんな中、レギウス王国軍が、表面上は《国から冒険者ギルドへの依頼》という形をとっているとはいえ、間接的にわたしに依頼を出してきた。


『……これ、こっち(ビザイン)の政府や軍には? というか、あの町には伯母さんが……《天才魔導士》レフィアさんが居たはずよね?』

『伯母? ああ、そういやあんた、クラウスさんの姪だったか。……こう言っちゃ難だが、あの人は生粋の魔導士だ。魔法を使う時の反動に耐えられるくらいには体は鍛えてるが、戦士みたいな戦い方はできねえ。それに、いくらあの人でも岩蚯蚓が相手じゃ、2~3体倒すのがいいとこだろうさ』

『ということは、少なくともそれ以上の個体が確認されている、と?』

『それは分からん。だからこそ、こうしてあんたに依頼が回ってきたんだろうな。んで、ウチのお偉いさん方の耳にも、当然入ってる。うまくすりゃあ戦争を回避できるかも、なんて意見も出てるらしいぜ。……期限は特に無いそうだから、ま、気が向いた時にでも行ってやってくれ』


 デイラムさんはそう言って締めた。

 またしても、政治や戦争とは無縁の事柄を無理やりそれに結びつけるようなことになった訳だが。今回はむしろ、これによって戦争を避けられる可能性が見えてくる。……それとも、好戦派の連中に言わせれば、『我が国の問題に対してビザインが恩を売るような真似をした』とか言って、結局戦争に結びつけたがるのだろうか。

 まあ、いずれにしろ、それこそ《恩を売って》おくのは悪くない。わたしは、早速ザールハインの町へ転移した。


     ●


 イリスのおかげでザールハインには1度来ているので、この町へ転移で来ることができたのは幸運だった。一旦アルフィネート家にお邪魔しようかとも思ったが、先に話だけは聞いておこうと思い直し、わたしはまず、ここの冒険者ギルドへ向かった。

 ザールハインの冒険者ギルド……店としては、デイラムさんの店のように宿酒場の看板を掲げているこの店を訪ねて、店主のアイゾムさんに話を聞く。


『……レディクラムのギルドへ依頼を回したのは今日の昼前だぞ。いくらあんたが《龍殺し》だからって、この距離をいったいどうやって……?』


 驚きと疑いの目でわたしを見てくるアイゾムさん。わたしは、彼の目の前で短距離転移を実演してみせた。転移先は、店内の別の場所。


『な……!?』

『という訳でね、知ってる場所か、知ってる人が居る場所なら、どこでも瞬時に移動できるのよ』


 そう言いながら、わたしは再びアイゾムさんの前まで歩いていく。だが。


『……ちょっと待て。知っている人間が居る場所、だと?』


 彼は敵を見据えるような……まだ本気でわたしを敵視している訳ではないと思いたいが、そんな目をわたしに向けてきた。……知っている人間が居る場所への転移能力、それを彼は、便利ではなくどうやら脅威と捕えたようだった。


『ええ。……《龍殺し》に依頼を出すというのは()()()()()()だと認識しておいてもらおうかしら』


 まさか(しょ)(ぱな)からこんな険悪な雰囲気になるとは思っていなかったが、それでも、こうなってしまった以上、わたしも相手に舐められないようにしないといけない。初対面から敵対の姿勢をちらつかせたのは、向こうだ。

 しばらく睨み合いの時間が続く。

 やがて、アイゾムさんは短く息を吐き、話し始めた。


『……分かった。あんたにゃとりあえず逆らわないでおくよ。けど、もしあんたが俺たちと敵対するようなことがあれば──』


 言葉の前半で敵視をやめてくれたのかと期待していたら、後半でこれだ。


『何ができるというの?』

『……っ!』


 切り捨てるように放ったわたしの言葉に、アイゾムさんは言葉を詰まらせる。

 彼の態度は、《龍殺し》という敵か味方かも分からない未知の脅威に対しては、間違ってはいないのだろう。だが、わたしとしては、こんな無駄なやり取りに時間を使いたくはない。……と、この直後。

 いきなり、わたしの後ろから1人の、おそらく冒険者が斬りかかってきた。わたしは《加速》で、彼を店内の誰も居ない一角に吹き飛ばす。その彼に巻き込まれる形でテーブル席がいくつか吹き飛んだが、少なくともほかの客への人的被害は出なかった。……まあ、被害を出さないために狙ってこの方向へ飛ばしたのだが。


『なるほど。これがあんたたちの答え、って訳ね』


 わたしが低い声でそう切り出すと、それが合図であったかのように、店内の、おそらく戦える人間ほぼ全員が臨戦態勢になった。

 イリスの、伯父さんの……そして何よりお母さんの故郷で騒動なんか起こしたくないのに! どうしてこうなった!?

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