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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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22 人生はゲーム

  6月29日(水) 16:20 竜之宮家


 今朝の登校途中、速度超過で突っ込んできた暴走車から助けたことが縁で知り合った後輩、緒方唯。わたしは彼女を(うち)へ招き、お母さんにも立ち会ってもらって、わたしとお母さんに関しては事情のほぼ全てを説明した。……わたしたち母子について以外、例えばわたしが黒龍の生まれ変わりであることや、伯父(クラウス)さんたちのことには触れずにおいた。

 その上で、わたしは唯に聞く。


「異世界研究所と関わりがあると疑われることを覚悟の上で、それでもあんたは魔法を使いたい、と?」

「はい! それと、できれば格闘も教えていただきたいです」


 唯の目は真剣そのものだった。


「……どうする? お母さん」


 首だけを捻ってお母さんの方を向き、答えを求めるわたしに、


「……格闘は教えてあげるけど、魔法に関してはあんたが決めなさい」


 少しの沈黙の後、お母さんはそう返した。異世界研究所と、それを匿えるほどの大企業、それらを社会的に相手にするには、わたしたち家族は弱すぎる。だから、やつらに対しては社会的にではなく、わたしがやったように、物理的に《こっちに手を出せば殺す》と脅すしかない。

 そして、その《手を出したら殺す》という抑止力になっているのはわたしなのだから、この件に関しては、全てわたしが決めるべきだ、と。


「けどね、お母さんから1つ助言をするなら、教えてもいいとは思うわ」


 異世界研究所を匿っていた企業を、その社長をわたしが叩きのめしたことで、組織としての力は確実に弱まったはず。だから、やつらが隠していた研究内容はいずれ表に出てくるだろう。その時、既に魔法を使えるようになっていれば、流出した研究内容を利用しようとする連中に対して有利に立てる。

 お母さんの話はそんなところだった。……確かに。それなら、京にも早い内に魔法を教えておいたほうがいいのだろうか。


「あの……先輩……?」


 唯がわたしの顔を覗き込むように聞いてくる。


「……あ、ああ。ごめんごめん。分かったわ。それじゃあ、あんたに魔法を教えてあげる。……でも、その前に。これだけの話を聞かされて、それでもなお魔法を使えるようになりたい、っていう、その理由を聞かせてくれないかな。単純な興味、ってのもあるんだけど、もしかしたら力になってあげられるかもしれないからさ」

「先輩……! ありがとうございます!」


     ●


 お母さんが「じゃあ、後は若者同士、無理しない程度に頑張んなさい」と言って部屋を出ていった後、唯が話してくれた内容はけっこう衝撃的なものだった。


「あの……こんな話はさすがに先輩でも信じてはもらえないかもしれませんけど……わたし、同じ()()()部に所属している、()()()啓太(けいた)君の生まれ変わり、だと思うんです」


 衝撃的ではあるが、黒龍からわたし、京からイリスと、既に2つの前例を知っているせいで、今更驚きはしない内容ではあった。


「へえ。《だと思う》っていうのは?」

「……………」

「……………」


 互いに沈黙すること数秒。


「えっ!? 《へえ》って、それだけですか!? こんな話、いきなり言われて信じるんですか!?」


 今までの彼女らしくない、なんだか突然エキサイトして早口で捲し立てる唯。


「まあまあ落ち着いて」


 唯の両肩に手を置き、とりあえずわたしは彼女を落ち着かせて座り直させる。……こういう展開になるんだったら、黒龍とのこととかも説明しておけばよかったかな。

 わたしは、まず自分がゼルク・メリスの黒龍の生まれ変わりであることと、イリスの名前や境遇は伏せておいたが、同じくゼルク・メリスで京の生まれ変わりの少女に出会ったことを、改めて唯に説明した。


「異世界で……京先輩の生まれ変わりと……!?」


 あれ? 唯、なんだかショックを受けてるっぽい? そんな衝撃的な内容を言った覚えは……あ。

 管理者イアス・ラクアに解決策を教えられていたせいで、《親友の生まれ変わりと出会う》ということの意味をすっかり失念していた。ライトワンスな記憶能力を持っているのに、こういうど忘れをしてしまうのはなぜなんだろうか。

 ……と、そんなことを考えていたら、目の前に居たはずの唯がいつの間にか居なくなっていた。

 ……と、思っていたら、気づいた時にはやっぱり唯はわたしの目の前に居た。……普通なら、目の錯覚か、それとも自分は少し疲れているのかと疑う程度だろう。だが。


「女神……ね」


 わたしが女神に会って、戻ってきた時、シェルキスがわたしに言っていたのと全く同じ言葉を、今度はわたしが唯に掛けていた。そして。


「は、はい」

「どんな願いか聞いても……いい?」


 いやー、ここまで喋る内容が同じだと、逆に面白い。違うのは、わたしはまだ天使になってはいないことと、シェルキスはここで《教えてほしい》とまでは言わなかったことぐらいか。

 というか、シェルキスの話では、お母さんを地球へ招いたのと、黒龍からわたしへの転生、そして京からイリスへの転生、この3件で《女神が立て続けに動くのは珍しい》とのことだったのに。……気にしたら負け、なんだろうか。


「佐々木君を助ける方法はある、と仰っていました。ただ、その方法や代償は()()()に教える、と」

「……そっか」

「ああ、それで、わたしがどうしても魔法を覚えたい理由、でしたね」


 思い出したように唯は言った。

 彼女は前世の記憶を部分的に持っており、その記憶では、唯の前世である佐々木啓太が高校3年の時、聖桜高校を中心に、ここ聖桜地区のほぼ全域が、異世界ゼンディエールからやってきた魔物の大群に襲われる。警察や各種防衛戦力が投入されるも、現代兵器では、魔法を駆使して攻めてくるゼンディエールの魔物共を食い止めるのがやっとで、まともな戦力になっていたのは当時の佐々木啓太が出会った《緒方唯》だけ。その後、色々あって……って、


「ちょ、ちょっと待って!」


 わたしは、唯の話を一旦止めた。今でさえゼルク・メリスという異世界と繋っているというのに、この上また別の異世界と繋るだなんて、色々と面倒なことになりそうな気がする。しかも、それは2年後だと唯は言う。わたしや京は大学に進学しているだろうし、ゼルク・メリスでもビザインとレギウスの関係が怪しくなってきそうな時期だ。

 そんな時期に、ここが……わたしの家があるこの地区が戦場になる、と? それに、唯は、ゼンディエールの魔物共は魔法を駆使して攻めてきた、とも言っていた。むしろ、わたしとしてはこっちのほうが気になる。


「な、なんでしょう……?」

「その、ゼンディエール、だっけ? その異世界から攻めてきた魔物共は、こっちでも魔法を使っていたの?」


 イリスの時も思ったことだが、記憶を持ったまま過去へ転生した人からは《未来》の話が聞ける。それが良い話かどうかは別にして、これから起きる事態への事前準備ができるのは大きい。


「は、はい。同じゼンディエールから、魔物の討伐のためにやってきた魔法剣士さんが仰っていたんですが、たしか、根底の……が、同じ……とかどうとか。あまりはっきりとは覚えてませんけど」


 唯は言った。

 ……そうか。初めて触れた異世界がゼルク・メリスだったせいで、わたしは、世界が異なると《根底の流れ》も異なるものだと思い込んでいた。だが、考えてみれば、そうではない異世界があっても不思議ではない。

 この世に存在するあらゆるコンピューターゲームが全て異なるゲームエンジンで作られていると考えるより、共通のゲームエンジンを使って異なるゲームが作られていると考えるほうが自然だ。


「なるほど、そういうことか。……あ、ごめんね、話の腰を折って」

「い、いえ……じゃあ、続けますよ?」


 唯は話を再開した。

 ゼンディエールから魔物の襲撃があった後は、さっきの魔法剣士の協力を得て、啓太ほか同級生の何人かが魔法を使えるようになった。が、その後の戦いの最中、啓太は敵の攻撃から唯を庇って死んだ……かどうかは分からないが、とにかく、今の唯の《前世の記憶》はそこで跡切れていた。


「だから、その時までにわたしが魔法を身に着けておかないと……歴史が狂うとか、そんなことを考えてる訳じゃありませんけど、佐々木君を守れませんから……!」


 唯はそう締めた。……その言葉で、わたしはある確信を持った。

 たぶん、啓太から唯に転生させる時、女神は既に()()()()()()()()()()()()()を知っているのだろう。《啓太の記憶にある唯》と《啓太が転生した今の唯》とが異なる行動を取ってしまうと歴史が狂うとか、今のわたしたちが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 だから、未来を知った今のわたしたちがどう動こうが、親殺しのパラドクスは発生しない。

 未来から過去へ転生してきた人に未来の話を聞いて、今のうちに準備を調(ととの)える。そうすることで絶望的な未来を回避した、未来を変えた気になっていても、結局はそれ自体が《変えられなかった未来》。

 文字どおり、わたしたちの人生はゲームエンジンの中で動くゲーム、あらかじめストーリーが決められた物語だった、という訳だ。

 ……だからといって、わたしは《生きること》を放棄するつもりはさらさら無い。


「話してくれてありがとう。……それじゃあ、そろそろ始めようか」

「はい!」


 決められた物語、その全容を知っているのは女神だけで、わたしたちはまだそれを知らない。ゲームは既にエンディングまでプログラムされているが、わたしたちはそれを分かった上で買う。……わたしたちは開発者じゃないから、ゲームの内容をまだ知らないからだ。

 女神という開発者によって作られた人生というゲームを、わたしは、1人のプレイヤーとして徹底的に遊び尽くしてやる。

 PC(パソコン)用語解説


 ライトワンス:1度だけ書き込める(Write Once)の意。コンピュータの記憶装置に1度だけ書き込んだ後は、書き換えや消去ができないこと。本編では、由美が自分の《覚えたことを忘れられない》ことをこれに喩えて表現した。


 ゲームエンジン:家庭用ゲーム機やPCのゲームなどでは、《キャラクターを画面に表示する》《キャラクターや物体同士の当たり判定》などといった、どんなゲームにも共通する処理はたくさんある。こういった《共通の処理》を1つにまとめて、扱いやすくした開発環境のことを《ゲームエンジン》という。


※色々と細かい部分を端折(はしょ)った説明なので、厳密には間違っているところもあります。

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