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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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21 たまには危機から離れたい

  6月29日(水) 8:15 登校途中の路上


 乗り物好きなお母さんの影響か、わたしも割と小さい頃からバイクや自動車に興味を持っていた。そんな我が家の女性陣と、《我が子にはやりたいことをさせる》というお父さんの育児方針から、わたしは16歳の誕生日直後に自動車学校に入校させてもらい、最短コースで普通自動2輪免許を取得した。

 免許を取ると同時に400ccのバイクも買ってもらったが、わたしは通学には使っていない。聖桜高校では校則ではっきりとバイク通学が認められているが、(うち)と学校との距離は徒歩で通学できるほど近いからだ。……まあ、校則が想定している《バイク通学》のバイクというのは原付のことだが。

 それはともかく。


 昨日あんなことがあったからか、歩いて登校するという、毎日繰り返している日常の風景が、なんだか物凄くありがたいものに思えてくる。

 ゼルク・メリスに行けば、それこそ死と隣り合わせの日常がある訳だが。それはゼルク・メリスの、それもおそらく冒険者などといった戦闘職に限った日常であって、少なくとも日本では……日本の高校生という立場では、そんな経験とはほど遠いものだと思っていた。……さっきまでは。


 信号待ちで立ち止まっていたわたしと、その隣に立つ、聖桜高校1年の女子生徒。朝練のある部活にでも所属しているのか、登校中に彼女と顔を合わせることは滅多に無いが、通学路は途中から同じだ。

 そんな滅多に出会わないわたしたち2人に、正面に向かって左側から、速度超過で右折に失敗し、外側に大きく膨らんだ暴走車が突っ込んできた。

 驚きと、恐怖に顔を歪める彼女。……わたしだけなら、転移で逃げるなり、自分の体に《鏡化》をかけるなり、余裕があれば飛び退()いてもいい、とにかく、どうとでも対処できた。

 だが、今、彼女はわたしの右隣に立っている。彼女を助けつつ飛び退くには、車が突っ込んでくる、その同じ向きに飛ばなければならない。が、それだと暴走車を避けきれない。……躊躇ってる場合じゃない、か。

 わたしは彼女を抱え、次元の狭間に逃げ込んだ。


     ●


「こ、ここは……!?」


 次元の狭間にわたしが作った……灰の者の《次元を操る》という能力で一時的に生成した仮想空間の中で、彼女は怯えたように固まっていた。


「驚かせてごめんね。わたしは聖桜高校2年6組の竜之宮由美。あなたは?」

「……! せ、先輩だったんですか。……あ。わ、わたしは緒方(おがた)(ゆい)、同じく聖桜高校の1年1組です。吹奏楽部です」


 まだ震えてはいたが、彼女は割としっかりした声でそう答えた。髪はわたしより短く、ショートといっていいだろう。武術の心得は無さそうだが、筋肉はけっこうついている。身長は、わたしよりは低いが、高1女子の平均よりは高いか。


「緒方唯……ね。緒方、って呼んでいい?」

「あ、はい。どうぞ。……あの、先輩。助けてくださって、ありがとうございました」


 丁寧におじぎをする緒方。……緒方?


「いや、それはいいんだけど。……違ったらごめんね。あなた、もしかして緒方(まい)の妹じゃない?」

「──っ!? そ、そうです。でも、なぜ竜之宮先輩がお姉ちゃんのことを?」

「いやー、ちょっとねー……まあ、詳しいことは昼休みにでも話すわ。1-1、だっけ?」

「そんな、わざわざ来ていただかなくても……!」

「いいからいいから。聖桜(うちの)高校でわたしと繋りを持っておけば、悪いようにはならないわよ。……たぶん」

「……?」


 どこか納得しきれていなそうな緒方との話を強引に終え、わたしは、彼女と共に学校の正門近くへ転移した。


     ●


  昼休み 1年1組の教室


「緒方ー? 居るー?」


 わたしが教室の扉を開けると、室内は一気に静まりかえった。やがて、顔を真っ赤にした緒方が早足で歩いてくる。


「先輩! もう少し目立たないように……!」

「いいからいいから。お弁当まだでしょ? どこで食べようか」


 わたしは普段、昼食は京か恭子と食べる。だが、今日は緒方に事情を説明したかったので、2人には「後輩に用があるから」と断ってきた。……恭子に「そんな仲の良い後輩なんて居たっけ?」と不思議そうな顔をされたのにはちょっとショックだったが。


「……そんなこと言っても、あの不思議な場所の説明をされるんでしょうから、人気(ひとけ)の無い所じゃなきゃいけませんよね?」


 ……さすが姉妹。わたしを睨む目つきはそっくりだ。


「まあ、ね。それじゃあ……」


 そういう訳で、わたしは京にイリスとの面会の話をした時と同じく、緒方を屋上の貯水槽の陰へ、転移で連れ出した。


     ●


 唯には、だいたいのことを話した。わたしが生まれつき魔法を使えること。その能力とは別の能力として、異世界とを行き来できること。……こんなことをいきなり話して、事前に今朝の経験をしていなかったら、まともに信じてはもらえなかっただろう。

 魔法のことは伏せておこうかとも思ったが、中途半端に明かすくらいなら全部明かすことにした。そして、去年、当時1年生だったわたしに、当時3年生だった緒方舞が何かと絡んできたことも話した。

 これらの説明をし終えた頃、お互いにちょうど弁当を食べ終わっていた。


「あー……お姉ちゃんもわたしと同じ吹奏楽部だったのに、なんでか、けっこう腕っ節も強かったですからね。由美先輩が武術に()けてて、変なライバル意識でも持ってたんだと思います」

「こっちはとんだ迷惑だったわよ……」

「あはは。って、笑い事じゃないですよね、ごめんなさい。……ああ、そうだ。うちの学校で、先輩と()()を持っておいたほうがいい理由、まだ聞いてませんでしたね」

「ああ、それね──」


 わたしは、女子のめんどくさいグループ意識やらについて説明した。それと、中学生の時に潰した不良グループのことも。


「──と、まあ、そういう訳で。あんたのほうからわたしに会いにくると、ちょっと面倒なことになってたかもしれないのよ」

「……先輩って、凄い人だったんですね」

「こんなことで有名になっても、嬉しくもなんともないけどね」


 と、ここで少しの沈黙。


「あの、先輩」

「ん、何?」

「先輩の《魔法》って、わたしも使えるようになったりは……しません、よね? やっぱり」


 なんだかもじもじしながら言いだす唯。……どうしよう。《根底の流れ》を利用する魔法なら、わたしでなくても既に使える前例はある。が、その前例である異世界研究所、その研究内容は全くといっていいほど表社会に知られていないらしい。

 つまり、魔法が広く普及しているゼルク・メリスならともかく、こっちでは、魔法が使えることは異世界研究所の関係者であることとほぼイコールだと……もし唯が魔法を覚え、実際に使っているところをやつらの残党に見られでもしたら、そのように受け取られかねない。

 この場で、唯には《魔法は使えない》と、騙して諦めさせるのは簡単だ。だが、できれば嘘はつきたくない。


「……ちょっと、複雑な事情があるんだけど……それでも使いたいって言うのなら、今日、わたしの家に来てくれる? 説明するから」

「は……はい! ぜひ!」

「分かったわ。じゃあ、悪いけど、今日は部活を休んで、放課後に2-6に来て。……ああ、そうだ。魔法のことはわたし以外には話さないようにね」


     ●


  放課後 帰り道


 今日は唯と京とで3人での帰り道になった。教室で唯と合流した時、彼女はわたしにこっそりと「京先輩にも、ですか?」と聞いてきたので、わたしは首を縦に振った。

 イリスの前世である京にも、魔法の素質は同じものがあるとは思う。だが、異世界研究所と関わってしまった今、京に魔法を教える気にはなれない。不可抗力で次元の狭間に巻き込んでしまった唯はともかく、京には知らないままでいてほしいという気持ちが、わたしにはあった。


「そういえば、京先輩も制服を着てるのに、なんで由美先輩は私服なんですか?」


 唯が不思議そうに聞いてくる。


「スカートがヒラヒラしてて動きにくいから嫌なのよ。しかも腰回りがスースーするし」

「それと、由美ってお母さんに格闘を教わってるからね。なおさらヒラヒラした格好は嫌なんじゃないかな」


 京が補足を入れる。


「へぇ。……あ、よければそれ、わたしにも教えてもらえませんか?」

「え? ……まあ、たぶんお母さんもダメだとは言わないと思うけど……なんで? あんたってどっちかっていうと《普通の女の子》って感じするし」

「んー、ちょっと」

「由美、やっぱり自分が普通の女の子じゃない自覚があるん──あ(いた)


 わたしは京の頭に軽く拳骨を落とした。分かってはいるが、人に言われるとなんだか腹が立つ。


先輩(せんぱ)ーい、いくら京先輩は親友だからって、本当のことを言われたから殴るっていうのはヒドいと思うんです、けど……! あは!」


 両手で頭を守りながら、しかし唯は楽しげに言った。……いや、あのね。わたしをからかってるだけだっていうのは分かるんだけど、今日知り合ったばかりの後輩に軽くとはいえ拳骨なんて落とせないでしょうよ。というか、それを分かってて言ってるな、こいつ。


「ほほう、唯さん。あなたとは大人になったらいい酒が飲めそうですなぁ」

「うふふふ。京先輩、あと5年の辛抱ですよ」


 ……なんだか2人して意気投合してるし。

 まあ、そんなこんなで。わたしたちは京と別れ、わたしの家へと向かった。

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