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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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Side6 京とイリス

 イリス・アルフィネートの視点。

  1月14日(月) 朝 アルフィネート家


 前世のあたしが死んだ日から、今日で3日。……意外と、感慨のようなものは無く、むしろ、気分が悪いくらいだった。あの時、由美が『3人でわたしの隣に居ればいい』と言ってくれたからだろうか、心のどこかでは望んでいたはずの京の死を、あたしは、受け入れられないでいた。

 由美と最後に会ったのは、あたしが、いや、吉田京が死ぬ前日だ。それ以前も、由美は暇を見つけてはこっちの世界に遊びに来てたみたいだけど。

 ……前世のあたしが必死こいて試験対策の勉強をしてた時に何をのんきな、と、今となっては思うが、そもそも由美には《勉強したことを忘れないための復習》というもの自体が不要なのだ。それを思い出した時、あたしの心には、さすが由美、という尊敬と、なんであたしにはその能力が無かったんだろう、という、まあ、ちょっと恥ずかしいが嫉妬のような感情が湧き上がってきた。


「……さて、それじゃ今日も依頼を請けに──」


 あたしの言葉はそこで()()れた。目の前に、4日ぶりに会う由美と、3日前に死んだはずの京が転移で現れたからだ。


「あらあら、久しぶりねえ由美ちゃん、京ちゃん。ちょっと待っててね、今、何か用意するから」


 お母さんがそう言って席を立ち、台所の奥へ消えていく。お父さんはあたしより少し早く家を出ていたので、今ここに居るのはあたしと、由美と京だけになった。


「なんで……京が……」


 かろうじて声を絞り出せたあたしに、由美は。


「その説明をするために、今日はここへ来たの。今、時間いい?」

「う、うん……じゃあ、こっちへ」


     ●


 お母さんが用意してくれた軽食を3人でつまみながら、あたしたちは日本語で話をした。別に、お母さんに聞かれたらまずいから、という訳ではなく、単に、京はこっちの言葉を話せないからだ。

 まず、由美たちが(うち)へ来たのがなんで、京が死んだはずの当日か、その翌日ではなく今日なのか。これは由美は一応説明してくれたが、その時にはあたしも思い出していた。

 この2日間はセンター試験だった。さすがに、試験のまっただ中にそんな余裕は無い。由美はともかく、生きていたのなら京がかわいそうだ。

 そして、ここからが本題。なぜ京が生きているのか。これは京もまだ知らないようで、今ここで由美の説明を聞くのが初めてなようだ。


『簡単に言うと、イリス、あんたが京の生まれ変わりというのは、半分は本当で、半分は嘘だった、ということなの』


 その説明に、あたしと京、同じ魂を持つ者同士が共に固まった。ただし、その固まった理由はたぶん違う。あたしは、自分という存在を半分否定されたような気分になったから。そして、京は。


『ちょ、ちょっと待って由美。イリスがあたしの生まれ変わりってどういうこと?』


 京が言う。……そういえば、アールディアの件であたしが京に会った時、そのことは京に話さなかった。それ以降、どうやら由美も言わないでいたようだ。


『落ち着いて聞いて、京。今からその話をするから』


 由美は言う。あの時、トラックに轢かれた京は、確かに1度死んだ。

 まず、この事実が先にあった。この時の由美が……既にアールディアの件であたしから京の死を聞いて知っていたはずの由美が、なぜ京の死に気づかなかったのかは分からない。

 京はイリス(あたし)に転生し、そのあたしはアールディアの件で由美と知り合った。この時、あたしは由美に自分の前世……京がどんな死に方をしたのかを伝えた。だから、由美は京の死を回避しようとした。でも、そうすると《京の生まれ変わり》であるあたしが生まれなくなるかもしれない。

 親殺しのパラドクスのような話で、あたしが生まれなければ、由美は京が死ぬことを知らないままだから、京は死んであたしが生まれる。そうすると、あたしは京の死を由美に伝えるから、由美は京の死を回避しようとする。以下繰り返し。


 だから、京の死は回避すべきなのかどうか。そのことを悩んでいた由美に、女神……全ての世界の管理者イアス・ラクアが接触した。

 イアス・ラクアは由美に、京の生存とイリス(あたし)の誕生を両立する方法を授けた。

 そして、京が死ぬ、その瞬間。この時の由美は《京の死》を知っていたが、自宅でまったりしていて、いつの間にか昼寝をしていた、と。……おい。


 イアス・ラクアによって京の死を知らされた由美は急遽現場へ転移し、腹から下が無残に潰された京の死体を目にする。

 由美は一時的に管理者権限を行使する能力を与えられ、京の体から離れた魂をその手で2つに分割。それによって半分の大きさになった2つの魂を補填するため、イアス・ラクアは由美の魂の一部を切り取って、補填に充てた。

 由美は黒龍の生まれ変わりで、もともと《天才魔導士》と呼ばれたお母さんの2000人分弱くらいに匹敵する大きさの魂を持っている。だから、分割した魂を補填するために必要な分の合計、実質であたし1人分の魂を切り取ったところで、殆ど影響は無い。その程度で京とイリス(あたし)を救えるのなら安いものだ、と、自らそれを望んだ。


 由美の説明はそんなところだった。……由美が黒龍の生まれ変わりっていうのにも驚いたけど、その魂をあたしや京のために惜しみなく使ってくれたことにも、あたしは言葉では表せないほどに嬉しかった。たぶん、京も同じ気持ちだろう。


『あたしのために、自分の魂を……!』


 京は言う。その表情と口調は、嬉しさの反面、申し訳なさもある、そんなところだろう。……本心は分からないが、あたしも同じ気持ちだからだ。


『気にしない気にしない。あんたとイリスと、2人共助けたいと思ったのはわたしなんだから。助けられたあんたが気に病む必要は無いわよ』

『由美……ありがとう!』

『おぅぇ!?』


 いきなり由美に抱きつく京。……むか。


『ちょっと! 由美はあたしの……いや、純のだけど、とにかくダメーっ!』

『ちょ、待っ……ぐぇぁ!』


 好きな人を、同じ魂を持つ相手と取り合う。なんだか変な気持ちだった。……後で仲良く由美に拳骨を貰ったのは、言うまでもない。

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