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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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17 己の生まれを知った時

  6月27日(月) 16:30 どこかの山中


 いきなりわたしの目の前に転移で現れた少女、フォスティア。彼女の友達がわたしに会いたがっていると言われた時、わたしは、驚愕のあまりそれ以外のことを考える余裕が全く無かった。今、彼女の所への転移を終え、そういえば、と、ふと思う。

 なぜ、その友達が直接わたしに会いにこなかったのか。その疑問は、その《友達》と顔を合わせた時にすぐに解けた。


『まったく。フォスティアめ、余計な世話を……』


 黒龍に会った時と同じ、頭に直接届く通信魔法の声。

 わたしの目の前に居たのはフォスティアと、龍。その龍の姿や大きさは全体的には黒龍に似ていたが、体色は白い。


『まあまあ、シェル君だってこの子に会いたがってたじゃん』


 悪びれた様子も無くフォスティアは言う。わたしにも聞こえた、龍のものと思われる言葉に返事をしているということは、この通信魔法はわたしだけに対象を絞って発されたものではなく、どうやら広域発信されているようだ。


『だからといって……まあいい。怖がらせてすまなかったな、人間のメ……娘よ。俺は、貴様たち人間からは白龍と呼ばれている種族、名はシェルキスという』


 この人、いや、この白龍、今一瞬《メス》って言いかけた? いや、そんなことはどうでもいい。今のところ白龍から敵意は感じないから、とりあえずは安心してもいい、ということか? その割には、貴様なんていう言葉を使っていたりするが……


『こらこら、シェル君。メスって言い方もだけど、貴様ってのもダメだ、って言ったでしょ?』

『どちらでも良いだろう。上辺(うわべ)だけの言葉遣いを気にするより、その言葉を発する心のほうが大事だと、貴様も言っていたではないか。……まったく、人語は複雑すぎていかん』


 ……白龍が人間に愚痴ってる。何この光景。


『ほらほら、最強の生物といわれる白龍がそんなことで愚痴ってないで。由美ちゃんも呆れてるよ、ほら』


 いや、そこでわたしに話を振られても。


『……俺にというより、()()()に呆れているように見えるんだが?』

『むー』

『いや、あの……そろそろ話を進めてほしいんですが……』


     ●


 白龍の説明で、わたしの疑問はほぼ解消した。

 まず、彼ら、フォスティアと白龍シェルキスは、もともとは普通の人間や白龍だった。それが、ゼルク・メリスや地球などといった全ての世界の管理者である女神イアス・ラクアによって、その女神の1つ下、準管理者ともいえる存在に《昇格》させてもらった、と。

 そして、そういった《女神の恩恵》を受けるには相応の代償が必要なようで、フォスティアとシェルキスは《老い》と《自殺以外の要因による死》を奪われた。早い話が、不老不死にさせられたらしい。

 この話を聞いた時、わたしは一瞬、不老不死が代償ということの意味が理解できなかった。しかし、少し考えてみれば分かる。自分と同年代の知人、友人、あるいは親や子、彼ら彼女らが普通に老いて死んでいく中、自分1人だけが変わらぬ姿で生き続ける。

 確かに、これは《代償》だ。唯一の救いは、自殺だけはできることだろうか。しかし、それも例えば《相手の攻撃をわざと避けない》のような、他者が絡む死に方はできないようで、飽くまでも自分で自分の命を絶たなければならないらしい。


 次に、なぜわたしが黒龍を倒したことをフォスティアが知っていたのか。それは、彼女は準管理者の能力であの場面を見ていたから。わたしと黒龍との戦いをシェルキスと2人で見ていて、あえて黒龍を助けにはこなかったようだ。わたしが優勢に立てていたのは黒龍の勘違いによるものだったとはいえ、その勘違いも含めて、黒龍自身が選んだ道だ、と。

 そして、最後。


『貴様、いや、おまえが倒した黒龍イヴィズアークは、我が友だった』

『……えっ?』


 この時、わたしはどんな顔をしていたのか。


『気にするな。さっきも言ったが、それが、やつが選んだ道だ。戦うことを何よりも好む黒龍が、戦いの中で死ぬ。やつにとっては最高の死に方だろうさ』


 シェルキスは言う。……確かに、黒龍の死に顔は満足げだった。それなら、その満足を与えてやったわたしがそれを悔やむというのは、黒龍に対して失礼になるのだろうか。


『……それにな』

『ん?』

『おまえは、やつの最後の願いを覚えているか?』


 忘れるはずが無い。


『生まれ変わって、わたしと……ここで言葉は途切れたわ。たぶん、また会いたいとか、そんなところだと思うけど』

『ああ、おそらくそうだろう。……さっきの女神の話でも言ったが、女神は、我らの強い願いや、死ぬ間際には未練などをある程度聞き入れてくれることがあるようでな』

『ああ、だから京は……』


 つい口に出てしまった。が、シェルキスはわたしのその呟きから話を続ける。


『ほう、前世は京というのか。たしか、こちらではイリスという名だったか』


 わたしと黒龍との戦いを見ていた時と同じように、それも見ていたか。


『……見てたのね』

『すまないな。女神がこうも立て続けに動くのは珍しかったので、つい見てしまった』

『立て続け?』

『ああ。……そうだな。この際だから言っておこうか。きさ……おまえにとっては少し気分の悪くなる話かもしれんが、黙って聞いてくれ。おまえの母、ユマがこのゼルク・メリスからそちらの世界へ飛ばされる原因となった世界の穴、《次元裂》というのだが、あれを起こしたのは女神だ』

『……………え?』


 一瞬、頭がその話を理解するのを拒否した。この先を聞いてはいけない。わたしの直感がそう警鐘を鳴らす。だが、シェルキスの言葉が止まることは無い。


『移動の際、ユマの記憶が一時的に失われるという事故は起きたが、それでも女神の目論見どおり、ユマはそちらの世界の男と結ばれ、灰の者であるおまえが……黒龍の転生先となる《器》が生まれた』

『え……? まさかそんな……わたしが?』


 この時、わたしは正気を保てていた自信は無かった。シェルキスの話を信じるなら、わたしは黒龍を生まれ変わらせるために女神に作られた、といえる。いや、女神はこの世界を管理する者だというのなら、わたしが生まれたのも運命とか自然の摂理とか、要はごく普通の自然現象か。だったら、それを《作られた》と表現するのは適切ではないのかもしれないが……!


『え、嘘!?』


 フォスティアも驚いている。……え?


『なんだ、やはり気づいていなかったのか』


 呆れるシェルキス。そして、そのまま続ける。


『それから、由美といったか。女神は、おまえを作るつもりでユマをそちらの世界へ送ったのではない。ユマがそちらの世界で男と結ばれて、灰の者を産むことを期待して送ったのだ。その結果生まれたのがおまえだった、というだけだ。そこは勘違いするな』

『それでも! お母さんの人生を狂わせたことには違いないわ! いくら女神だからって、人の人生を狂わせていい訳が無い!』


 わたしはシェルキスに食ってかかっていた。怒らせたら命は無い。そんなことは、わたしの頭からは完全に抜け落ちていた。


『……それを言うならイリスはどうなる?』


 シェルキスは冷静に返してくる。


『どういうことよ!?』

『本来であれば、真っ白な魂を持って生まれてくるはずだったイリス・アルフィネートという人間は、その前世の少女の願望を女神が叶えたことによって、《前世の記憶を持つ中古の魂》を持たされて生まれてきたのだ。……女神が我らの願いを叶えるのは、我らが叶えたい願いを持っているからだ。我らが何かを願うということ自体が、他者の人生を狂わせることと同義だということを、おまえは理解しているのか?』

『そ、それは……』


 わたしは答えられなかった。現に、今のわたしの願いは、センター試験前日に京が死ぬという未来を回避したいというものだ。それによって、イリスが……《吉田京の生まれ変わり》である今のイリスが生まれなくなる可能性があるということを承知の上で。


『それに、女神がユマをそちらの世界へ送ったことを否定するのなら、おまえは自分の存在そのものも否定するのか?』


 ……そうだ。お母さんが地球へ、日本へ来て、お父さんと結ばれたからわたしが生まれたのだ。もともとは黒龍の願いを叶えるために女神が行ったことだとしても、その結果生まれたわたしまで否定するのは……あれ?


『ちょ、ちょって待って、シェルキス。……その、さっきは言いすぎたわ、ごめん。でも、わたしが黒龍の生まれ変わりだっていうのなら──』


 生まれ変わってまたわたしと会いたいという黒龍の願いは叶っていないのではないか。

 生まれ変わった自分ともいえる存在(わたし)に殺された黒龍の死に、意味はあるのか。

 そして、わたしにはなぜ、イリスのように前世の記憶が無いのか。

 わたしは、これらのことを一気に捲し立ててシェルキスに詰め寄った。


『そう一気に聞かんでくれ。……まあ、女神の気まぐれもあるのだが、1つずつ答えると──』


 黒龍の《由美に会いたい》という願いは、言い換えれば《前世か来世かを問わず、自分に会いたい》とも解釈できる。だから、黒龍として由美(わたし)に敗れた後、今度は由美として黒龍(わたし)に会えたのだから、《生まれ変わってまた会いたい》という願いは叶ったといえる。

 黒龍の死に意味があるのかは、《自分との再会》を果たすための通過点。黒龍としての生、由美としての生、そう両者を区別するのではなく、黒龍として生まれてから由美として死ぬまでを、1つの人生のように《魂の舞台》として解釈している。

 わたしに前世の記憶が無いのは、それが普通。おそらく、イリスが前世の記憶を持って生まれてきたのは、京の願いを叶えるための代償だろう。

 シェルキスの答えはそんなところだった。シェルキスはさらに付け加える。


『それと、おまえにとっておそらく良いと思われることが1つ、悪いと思われることが1つある。どちらから聞きたい?』


 そんな選択をさせられたら……ねえ?


『じゃあ、悪いことからかな』

『分かった。……灰の者には生殖能力が無い』


 シェルキスの言葉の意味を、わたしはすぐには理解できなかった。


『え……? それ……って』

『子を成すことができない、ということだ』


 目の前が真っ暗になる、まさにそんな気分だった。大人になったら純と結ばれて。何人の子供が欲しいとか、具体的な計画を立てていた訳ではない。だが、漠然とは子供が欲しいと……純の子を産みたいと思っていた。

 それが、できなくなった。……いや、最初からできなかったのだ。


『あ、あ……………あああぁぁぁぁっ!』


 わたしはその場に崩れ落ち、慟哭(どうこく)した。

 フォスティアが、今までの彼女らしからぬ低い声で、わたしに言っているのか、それとも独り言か……静かに語りだす。


『あたしもそうだったよ。あたしは父親が……えーっと、どこの国かは忘れたけど、地球人でさ。こっちで好きな男も居たけど……結局、愛想尽かされた。だから、あたしは……あたしを拾ってくれたシェル君と同じ時間を生きたいと願って……ま、色々あってこうなりましたとさ』


 言葉の最後はわざとらしいくらいに明るかった。


『だからこう見えてあたし、もう137歳なんだよねー』


 フォスティアは言う。拾ってくれた、という表現をしたあたり、彼女も決して平坦ではない人生を歩んできたのだろうと想像できる。……比較していいものでもないが、わたしも、この程度でへこんではいられない、ということか。

 わたしは、どうにか立ち上がることができた。


『落ち着いたか? では、もう1つのほうだが、黒龍がおまえに生まれ変わる際の代償というのは、おそらく《まともな再会方法ではない》ということだけだ。だから、それ以外の負の要素は無い。さすがに、肉体能力は黒龍から人間になってだいぶ弱体化しただろうが、魔力は黒龍の時のままだ。1度に発揮できる魔力の上限は今のおまえの体しだいだが、最大魔力はかの《天才魔導士》レフィア・シュヴィーリア、ああ、今はアルフィネートか、彼女が1000人集まっても敵うまい』


 シェルキスの言葉の意味を、わたしはすぐには理解できなかった。

 シェルキスは続ける。


『それに、灰の者は同族の平均と比べて脳の演算能力が桁違いだからな。人間程度に知能のある種族であれば、《根底の流れ》に頼らずとも自身の力のみで《式》を構築し、独自の魔法を編み出すこともできる。日常生活でも、思考が加速しすぎて逆に周囲が遅く見えたりといったことはないか?』


 思い当たる節がありすぎる。1時間半も《加速》を使い続けても全然疲れなかったり。周囲が遅く見えるのもそうだ。

 自分の能力の秘密を知って呆気に取られていたわたしに、今度はフォスティアが話しかけてくる。


『空を自在に飛び回ってたあの魔法、あれさー、あたしもやろうと思えば使えると思うんだけど、たぶんもって20分くらいが限界だと思うんだよねー。それを1時間以上続けて平気な顔してるとか、記憶無くてもやっぱイヴィ君だわ、あんた』


 どうやらザールハインへの移動中の様子も見られていたようだが、なんだか物凄く今更感がする。わたしも、フォスティアやシェルキスの無茶さ加減に慣れてきているのだろうか。

 ……まあ、色々と。

 わたしに生殖能力が無いと知ったのはショックではあったが、その代わりに……という訳でもないが、ともかく、人間としては規格外すぎる能力を持っていたことが分かった。というか、それが無かったら、今頃こうして無事ではいられなかっただろう。……できれば、わたしの……黒龍イヴィズアークではなく《わたし》の願いも、女神様には1つくらい聞いてほしいなー、なんて思ったりもするが。


「それじゃあ、何を叶えてほしいのかしら?」


 その声は唐突に聞こえてきた。

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