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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第1章 起

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11.5 生きるとは

  ???


 蟻。いや、正確に言えばそれは蟻ではない。今、わたしの目の前に居て、わたしに牙を剥いているモノ。それは、わたしにとっては蟻も同然の、例えば歩いている時にうっかり踏み潰してしまっても気づかないような、そんな小さな存在だった。

 なぜ()()に牙を剥かれているのか。そもそもわたしは今どういう状況に置かれているのか。そのあたりのことは全く分からない。景色もぼやけていて、灰一色の世界に居るようだった。ただ分かっているのは、ソレは今にもわたしの首を刎ねようとしているということだけ。

 そんな危機的状況にあって、わたしは動けない。己の足をソレの上からそっと下ろすだけで、今まさに刎ねられようとしているわたしの首までの接近を、ソレに許すこと無く踏み潰せるはずなのに。まるで手足が全て無くなってしまったかのように動かせない。

 そして、わたしの首はソレに刎ねられ、宙を舞った。


     ●


  6月26日(日) 01:15 由美の部屋


「──っ!?」


 カッと見開いた目に飛び込んできたのは、間接照明の常夜灯に照らされた自室の天井だった。使い込んだPCが発するコイル鳴きの音がやけにうるさく感じる。


「え……夢?」


 呟いてからベッドの上で体を起こし、自分の首へ手をやる。……繋っている。あたりまえだが、そのことに安堵の息を吐く。

 枕元のスマホで時間を確認し、特に意味も無く部屋の中を見回す。寝汗は、そこまでひどくない。


「なんで、あんな夢……」


 昨日、デイラムさんに言われたことが響いているのだろうか。……まあ、どうでもいい。

 夢を見るのは、どちらかといえば嫌いだ。

 わたしは、1度記憶したことは2度と忘れられない。学校の勉強など、これが便利だと感じる時ももちろんあるが、今のように悪い夢を見た時も全て覚えていてしまうからだ。……今年の聖桜高校創立60周年記念式典のことが前日まで頭から抜けていたりと、《覚えてはいるが、そのことを目前の状況と関連付けできていない》ことはあるが。それでも、思い出そうとすれば鮮明に思い出せてしまう。

 さっきの夢の内容を思い出し、


「……取るに足らない相手に殺される?」


 ふと思い出す。手足を奪われ、動けなくなったところで首を刎ねられる。そんな状況を、最近経験した。いや、経験させてやった。……黒龍に。

 だとしても、なぜ黒龍視点の夢をわたしが見るのか。それとも、これを黒龍視点だと思っているのはただのわたしの思い込みで、実際はデイラムさんに言われたことが心にひっかかっているだけなのか。


「……………」


 無言で正面の壁を見詰める。

 夢。ただの記憶のデフラグ作業の結果生ずるだけの現象に、なんらかの意味を見いだそうとすること自体が無意味なのか。もし意味があるのなら、それは例えば、願望、いずれ起こりうる未来、何かの暗示、後は……いや。


 わたしは短く息を吐いた。


 もし、夢に意味があったとしても、それを考えること自体に意味が無い。夢に意味があろうが無かろうが、それで自分の生き方を変えるほど、わたしは夢見る乙女じゃない。

 わたしは再び布団に潜り込んだ。

 PC(パソコン)用語解説


 コイル鳴き:パソコンの内部に使われている《コイル》という部品が、キィーン、とか、キュルルル、のような甲高い音を立てる現象。コイルが鳴いているように聞こえることから《コイル鳴き》という。


 デフラグ:データを記録する部品(ストレージ機器)に保存されているデータを、削除や書き換えを繰り返して並び順がバラバラになった状態を断片化、またはフラグメンテーションという。この断片化した状態を正常な状態に戻す機能(ほぼ自動的に行われる)のことを最適化、またはデフラグメンテーション、略してデフラグという。

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