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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第4章 結

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102/116

1 バートラス建国記念祭(1)

 レギウス王国の崩壊から10年後。由美29歳。


※第4章では、1~数話ごとに作中での年月が大きく動きます。そのため、《前話から年月が大きく動く話》の前書きに、その時点での由美の年齢を表記します。

【分体の視点】


  7月6日(木) 16:00 バートラス家 通用門


 カイン、イリスと共に熊車を降りた時、わたしたちは数人の兵士に出迎えられた。


「お待ちしておりました、《黒龍騎士》のお2人、そして、《龍殺し》竜之宮由美様。(わたくし)はバートラス王国軍兵士長、ギアルド・シェイディと申します」


 整列する兵士たちの中央に立っていた指揮官と(おぼ)しき人物が、そう声を掛けてきた。


 フォーデルの件でレギウス王国が崩壊してから10年。バートラス王国の建国からは5年。その5年目の今年、バートラス王国では建国5周年を記念して、王家主催の大々的な祭りを行うこととなった。

 建国の英雄であるカインとイリスはもちろん、わたしも、《アルフィネート兄妹に力を貸した陰の功労者》として、記念祭に招かれたのだ。

 ……力を貸したと言うのなら、わたしよりも黒龍ベイスニールのほうがふさわしいと思うのだが。当の本龍(ほんにん)は《暴れられる事》以外には興味が無いようで、情勢がとりあえず安定してからはバートラスを去った。


 わたしの本体は第1子の出産のために入院中だ。分体(こっち)で出勤することもできるが、分体能力のことを家族や親しい相手以外に知られるのはまずい。

 結局、産休を取ったため、わたしは自由に動けるにもかかわらず、日本でやれることは殆ど無い。

 そんな訳で、先月、女王からイリスを通して記念祭に招かれた時、わたしはそれに(こころよ)く応じた。

 とはいえ、わたしはレギウス王国時代のバートラス領を訪れたことは1度も無いし、女王アイネア・ツェア・ヘル・バートラスとの面識も無い。だから、まずカインたちに現地入りしてもらい、そのカインを目標に転移する、という方法を採った。

 カインたちと合流後は普通に熊車で招かれることになり、今に至る。


     ●


  16:30 謁見の間


 わたしたちの案内役はギアルド兵士長から近衛兵に引き継がれ、そのままわたしたちは謁見の間へ通された。そして、カインとイリスが女王に(ひざまず)く。

 女王を前にして膝を折るどころか仁王立ちのままのわたしに、近衛兵や侍従たちがにわかにざわめきだした。


 女王に対して跪かない。これはわたしの判断だ。

 かつて、わたしはビザイン共和国に《手を貸す》という姿勢を取った。対外的には、《龍殺し》という1個人のほうがビザイン1国より立場が上、あるいは、少なくとも対等ではあると見えたことだろう。

 そのわたしが、建国からたった5年の若い国、その女王に跪いてしまうと、ビザイン共和国の立場が無いように思えたからだ。

 その判断を肯定するかのように、女王が玉座を立ち、わたしの(もと)へゆったりと歩いてくる。

 そして、カインとイリスがわたしの後ろへ下がり、その後、女王がわたしの前で床に膝を突いた。

 腰の剣に手を掛けた近衛兵が居たが、彼は隣の兵に止められた。


「頭を上げて、女王」


 わたしが静かに言うと、女王はどことなく硬い動作でそれに従う。


「この度は我らの招待をお受けくださり、ありがとうございます」

「まあ、わたしもちょうど暇だったからね。……ところで、さっきわたしに斬りかかろうとした者が居たみたいだけど?」


 わたしがわざと棘のある言い方をすると、さっき剣を抜こうとした近衛兵と、女王も体が強張(こわば)る。


「……我が臣下が失礼致しました。後で処罰しておきます」


 女王は震えを隠しきれていない声でそう答えた。……なるほど。


     ●


  17:00 客間


「由美……今、何て?」


 イリスが聞き返してくる。


「あの女王、《龍殺し》の庇護を受けたがってるんじゃないか、って言ったのよ。……祖国が無くなって、つらい思いをしてるであろうあんたたちに、こんなことを言いたくはないけどね」


 わたしは、思うところをイリスとカインに説明した。

 謁見の間で、女王はやたらと、わたしの機嫌を損ねないよう気を遣っていたように見えた。剣を抜きかけた近衛兵について、あの程度のことで《処罰する》とまで申し出たことからも、それが窺える。

 今までのわたしの活動を知っていれば、あの程度のことをわたしがいちいち気にしないことは分かるはずだろうに。

 建国の陰の功労者として記念祭に招くというのは表向きの事情。本心は、わたしにこの国(バートラス)を気に入ってもらい、自分の意思でバートラスを守ろうと思わせること。といったあたりか。


 ベイスニールが国を去り、《黒龍騎士》の対外的な抑止力はほぼ無くなった。カインとイリスが弱いという訳ではないが、黒龍と比べれば人間の強い弱いなんて殆ど誤差だ。

 元レギウスの北半分は多くの小国として独立した。その騒乱も今はほぼ落ち着き、特にバートラス建国以降は大きな戦争は起きていない。だが、それは情勢が安定しているというより、各国の力が均衡していて、互いに攻めるに攻められないというだけだろう。


 だからこそ、バートラスは万が一その均衡が崩れた時のための、《黒龍騎士》に代わる抑止力が欲しいのではないか。そして、女王が公的に《龍殺し》に自国の保護を要請したとなれば、その均衡を自ら崩しかねない。

 自国保護の要請自体は非公式で行ったとしても、わたしがそれを公表すれば、事は同じだ。

 女王がわたしを、本当に《陰の功労者》として(ねぎら)いたいと思ってくれているだけならそれでいい。だが、もし、女王の意図がそれだけではないとしたら?


「由美の考えすぎ……とは言いきれないかもしれないね」


 カインが呟くように言う。

 わたしも、守れるものはできる限り守りたい。だが、その守る対象に《守らせる》ために利用されるのは癪だ。

 いずれにしろ、明日の女王の出方を見るしかない、ということか。


 余談だが、ついさっき本体に陣痛が始まった。我が第1子は、バートラス王国と同じ誕生日になるかもしれない。


     ●


  7月7日(金) 08:30 客間


 本体が分娩台で頑張っている時も、分体(わたし)はぐっすり眠ることができた。1度は諦めざるを得なかった《我が子を産む》という願いが叶っ……あ、ほんとに今生まれた……それはともかく。

 願いが叶って本体が興奮していても、分体(わたし)が冷静で居られるのなら。もし本体が脳内お花畑(マタニティハイ)に陥っても、自分で自分を抑えることができそうだ。分体能力の意外な活用法だ。

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされて、バートラス家の使用人が、朝食の準備が調った旨を伝えてくる。

 わたしは彼に了解の返事をして、おもむろに椅子から立ち上がった。


     ●


  10:00 王都アルナ・バセウス 中央広場


 すぐそばに建設中のバートラス王城を見上げる、この町最大の広場。王城が完成した暁には、王家主催の様々な催し物の会場として使われることだろう。

 今回の記念祭は、文字どおり、その記念すべき第1回目の催しと言える。


 王城はまだ建設中ではあるが、謁見台というかバルコニーというか、王家の人間が国民の前に姿を見せる場であろう舞台だけは完成しているようだ。

 わたしとカイン、イリスの3人が乗った熊車は、既に大勢の人が集まっている中央広場を大きく迂回し、その舞台の裏手へ到着した。バートラス家の屋敷からここまで、熊車で約10分。

 熊車を降りたわたしたちは、女王とその護衛の近衛兵たちに出迎えられる。女王とわたしたちとで記念祭の段取りを簡単に確認してから、女王が舞台に上がった。


     ●


  10:15


 人々の歓声に迎えられる女王。彼女はそれに(こた)える挨拶と、その後、声高らかに記念祭の始まりを告げる。

 そして、一旦わたしたちの方へ振り返る。事前の打ち合わせでは、その仕草が、わたしたちが舞台に出る合図だ。

 わたしとカイン、イリスは互いに目で合図し合ってから舞台へ出て、わたしは女王の左、カインたちは右へ、それぞれ立った。


「こちらの2人は皆も知っているでしょう、《黒龍騎──」


 女王が人々にわたしたちを紹介している、まさにその最中の、銃声。

 術者が自力で魔法を発動した時とは違い、魔石による魔法の発動は、事前の《雑音》を殆ど感知できない。術者の《これから魔法を使う》という意思が無く、魔石に刻まれた《式》を起動させるだけだからだ。

 魔石銃。標的は誰なのか。どこから撃たれたのか。

 発砲する瞬間の《爆裂》の《雑音》がどこで生じたのかは、大勢の人々──生物が生命活動をするだけで発される生理的な《雑音》──にかき消されて特定できない。


 仕方ない。少なくとも、今この舞台に上がっている誰かを狙ったものであることは確実だろう。

 わたしは、舞台をまるごと覆うように《光壁》を発動した。

 ぢぃん!

 銃弾が魔力の壁に弾かれて、明後日(あさって)の方へ飛んでいく。波が引くように、一気に静まる会場。

 わたしは《光壁》を解き、改めて会場全体を《光壁》で包んでから、人々に呼びかけるために通信魔法を広域発信で発動する。


「慌てるな! たった今、舞台上の誰かを狙って狙撃が行われた。()()()()()()()()()、諸君ではない! 慌てず、落ち着いて行動するように」


 この呼びかけで、ざわめき始めていた会場はとりあえず鎮まった。

 龍が人々から恐れられるように。

 その龍を殺した者の称号を持つわたしは、《恐れられる者》の風格というか、存在感のようなモノを身に着けてしまっていたらしい。

 今、初めてそれがありがたいと思える。


 とにかく、人々がパニックに陥るのを抑えることはできた。これで、混乱に乗じて逃げ出すつもりでいただろう狙撃手の動きを、短時間でも止めることができただろう。加えて、会場の外へ逃げられないようにするための《光壁》も張った。

 わたしは、舞台上で張った《光壁》に銃弾が触れた位置、そこからおおまかに狙撃元と思われる地点を推測し、その方向へ顔を向けた。

 狙撃手には、わたしに、あるいはわたしの関係者に銃を向けたことを後悔させてやる。

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