はじまり
僕の住む世界は、大昔にあったと言われる人間同士の戦争もなく、殺人といった犯罪も極めて少ない。
何故かと言われれば、それはおそらく魔物と呼ばれる存在がいたからであろう。村や町を繋ぐ草原や森には人間や動物とは異なる存在である魔物たちが生息している。それらは人間や他の動物を襲うことが少なくない。
魔物たちは大昔のいつの頃からか突然現れ、『魔王』という存在が魔物たちを纏めていた。『魔王』は魔力というものが優れ、他の魔物達よりも一際強く怖ろしい存在だった。
普通の人間は、『魔王』に対抗することはできない。しかし、『魔王』に対抗することができる唯一の一族がいる。その者達は代々『勇者』と呼ばれ、『魔王』と戦ってきた。だが、『魔王』を倒すことができても、十数年経つと必ず新たな『魔王』が人間界を闇に陥れた。それは、『魔王』という存在は死ぬときに必ず子供を産み落とすからである。時期魔王となる子供は生まれた瞬間に目の見えぬ速さでその場から姿を消してしまう。『勇者』たちは次の『魔王』となる存在を捕らえることなく逃してしまうのである。
その歴史が繰り返されて既に何百年と経つとされているが、ただの一般人の僕には関係のない話だ。
そう思っていた。
昨日までは。
昨日、僕は突然の訪問客に見舞われた。その訪問客は、真っ黒なコートに身を包み、顔は見えなかった。
名前を尋ねても名乗らないその人物は、低い声で驚くことを僕に告げた。
「魔王様、お迎えにあがりました」