心の整理完了。少し町へ
「ステータスオープン!!」
はい。何も起きませんでした。恥ずかしいです。
ゲームの世界に入ったとかじゃないですね。ザ、異世界! って感じです。納得しました。チートなし! 平和な日本に帰りたい! いや今の山賊脳じゃ犯罪者になるから駄目ですね。
「お嬢! 叫び声が聞こえやしたがどうしました!」
「なんでもないよランドル。後は入るときはノックしてね」
「本当にどうしやした!? なんだかお嬢がしおらしい!」
なんか疲れるから男勝りな口調をやめる事にしただけ。
ついさっきまで、今の私なのか前の私のなのか。私は誰でどこへ行くのかとか、哲学みたいにやばい悩みのラビリンスに入ってたので。
もう私らしく生きる事に決めた! なんかイケメンのハーレム作る!
私は桐谷日向の記憶を持ってる山賊娘。アズリアだ!
そう決意してまずは目先の危険を回避するのが目標とします。
冒険者に洞窟の場所バレてるわけでしょ。ヤバイからねそれ。
まずはそれを何とかする!
「ランドル。お父さんはまだ帰ってきてないの?」
「お、おと!? へ、へい。親分はまだ帰ってきてません」
「そう。じゃあ私も町に出掛けるから、洞窟が冒険者にバレてるからどうする? とか伝言しといて」
山賊の親分だし、いい知恵をくれるでしょ。
「へい! 町には何しに行くんすか?」
「うん? ちょっと調べたい事があるから」
冒険者の動きとか他にも少し。
「あっしも行きやすぜ!」
「伝言しろって言っただろ! バカ!」
「へい! よっしゃあ! いつものお嬢だ! ヒャッホー!」
このおっさん怖い。テンションがいつも高いし。
「……じゃあ行ってくるからレイル君も見て上げてね」
ハーレム一号だからさ。
「へい! 行ってらっしゃい! お嬢!」
徒歩四十分で洞窟から東にある町に到着。
前世だったら息切れする距離でした。
町の名前はゲルニカ。
そこそこ広い町です。門番がいる入り口から入らずに、裏の商品を取り扱っている通りにでる抜け道を使います。
「アズリアちゃんじゃん。遊んでかない?」
町に入ってすぐに声を掛けられました。
奴隷を売ってる店の主人です。顔見知りですね。
「いや。急ぎなんで。ちょっと洞窟が冒険者に襲われまして。表通りのほうに用があるんです」
簡単に説明をしました。
「その事なら知ってるよ。おじさんの話を聞く?」
マジですか。ご都合主義ですか。
「聞きます」
「じゃあ言うよ。ふざけんなって話だけど。クソ馬鹿が、山賊がいるから人の流れが悪い。町に客が来ないとか言いだして。テメーが取り扱ってんの君達から買い取ってる装備品が多数だろうって話なんだけどね。頭が悪い意味わかんねえ馬鹿が意味わかんねえ事を思って、冒険者に山賊団の大まかな場所を教えちゃったのが原因だね」
なるほど。
「ああ。そうそう。それで冒険者達がその情報を利用して、気に入らない冒険者をまとめて向かわせたんだってさ。えっと貴族グループと調子に乗ってる中級冒険者、イケメンだったね。アズリアちゃんとこにきたのはこいつらだね。殺した?」
「イケメンは生かしてます」
ふむふむ。弱い冒険者がきたわけが分かりました。
普通は中級冒険者六人ぐらいでぼこぼこにするものですからね。山賊退治は。
「はは。災難だったねそのイケメン君も。生かされても山賊の仲間になったとか口実をつけられて殺されるだろうし。明日一気に冒険者が君達のアジトに攻め込むみたい。逃げたほうがいいと思うよ」
「なんか……詳しい情報ありがとうございます」
楽に欲しい情報が全部手に入ってしまいました。なんか逆に不気味です。
「いえいえ。君達との取り引きがなくなるのは残念だけどね。遊びに来てよ。ほとぼりが冷めて生きてたら」
冷たい笑顔を最後に向けて奴隷屋の主人は去って行きました。
それを見送って私はとりあえず洞窟に帰る事にしました。
すぐに終わってまだ四十分歩くのか……