プロローグ
災害、それは多くの者を絶望のどん底に陥れる、自然による生命の淘汰にほかならない。
あらゆる種族にとっての脅威、それは人類にとっても同じことだった。『人間では自然の摂理に敵わない』 いつの間にやらそんな共通の見解が生まれていた。
しかし、それでも人間は諦めなかった。足掻きにあがき、醜く泥水を啜るような思いをしながらも、研究に研究を重ね、やっとの思いで新たな境地に到達した。
すなわち、災害の視覚化に成功したのだ。平たく言えば、災害の元凶となるモノを観測したのだ。
災害の元凶、それは異界から空間を歪ませ、こちら側へと侵入してくるバケモノだった。災害研究機関《CSI》の第一責任者である、研究員の時枝玄翠はこのバケモノを後に《災害の幻獣》と名づけた。
これが西暦二〇六七年、人類による自然への叛逆の始まりのきっかけとなった出来事だった。
そして月日は激流のように過ぎ去り、現在西暦二〇九七年。
ここ二十年の間に起きた災害による死者数は九割減という、偉業の快挙を成し遂げるにまで至った。
十年の歳月をかけ作り上げた人類の最高傑作とも呼べる技術《魔法》。これを駆使した人間達は災害を発生させるバケモノ、カラミティアを殺すことに成功していた。
災害とカラミティアについてもう少しだけ補足しておこう。
カラミティアとは、通常肉眼では認知できず、投影光学魔法を搭載した最新のゴーグルを介して無理矢理引きずり出すように視覚化するこどができる。
カラミティアの姿形は、レベルに応じて犬や猫から恐竜や空想上の生物だと言われていた麒麟や天馬など様々だ。
災害が起きる原因はこのバケモノ達が三十六時間経過するとことにより、そのまま災害という事象に変化することである。つまり、カラミティアが変化して災害が発生していたというわけだ。
だから、カラミティアさえ殺してしまえば災害は起こらないのだ。
そのカラミティアを殺す手段として開発されたのが魔法。とはいえ、元となったのはあちら側の技術なわけだが……。
こうして、人々が幾多と夢想し恋い焦がれた魔法が、実現不可能と思われていた幻想が、数々の困難の末にようやく、現実となって体現したのだった。
ここから始まるのだ。いつ来るともわからぬ恐怖に脅え、苦しめられてきた人類が、魔法を使って災害を殺す、そんな物語が。
––––だからこれは叛逆の物語だ。かつてはなす術がないと云われてきた災害を未然に防ぎ、世界の平和を陰で支えている高校生たちの物語。