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#8 五人の『聖女』

▼五人の『聖女』


 その頃の金太達は次から次に現れて来る怪物相手に苦戦していた。

 薫のモーションフォービットに対し、利き目がない怪物が出現していたのである。

「何なんだ……この怪物は!」

 金太が切りにかかる。しかし、そのダメージはないに等しかった。巨大な火の玉のような物体。

 同じ属性の金太の剣では切れ味が悪いというわけだ。

「このままでは、レオナールの弓だけが頼みだ!」

 しかし、十本に一本当れば良いなんて……なんとも確率が悪い。

 薫は苦しんでいた。

「水魔法が使えれば、こんな敵一網打尽に出来るのに!」

 そう思えば思う程、薫は焦るだけであった。

「薫!何とかしろよ!」

 とは、金太も焼きが回って来たらしい。そう簡単に魔法が思う通りに生み出せるなら苦労はしない。

「ちょっと待ってよ!何とか出来るくらいなら、もうやっているわよ!」

 そうやけっぱちに叫びながら、色々と悩んでいた。

 そんな時、すぐ横に来た朗が、

「大丈夫!落ち着いてやれば、自ずと道は開かれるから!」

 と、援護してくれる。

「はい!」

 少し心に余裕が出来た蕪は、一心に心を落ち着かせる事に集中したのである。

『バタバタ』している周りをよそに、薫は無心になろうと努力する。

 そして、ついに光を感じ取った。

「我が守護精霊ウンディーネの王よ!私に力を貸して下さい。行け!ウォータードライバー!」

 スクリューのような水が、火の玉目掛け突き刺さる。

「ぐお!!!」

 けたたましい妖魔の叫び声。鎮火して行く火の玉を金太達は見届けていた。蒸発する妖魔。ふわふわと気体になって、そして消えた。

 薫を振り返る一同。そして、

「やったしゃないか!なんだかわかんないけど、攻撃魔法使えるようになったんじゃん!」

 金太が、目を見開いてそう言う。

「ほ……本当だ……」

 薫は何が起こったか分からないとでもいうように眩く。意外に簡単に出来てしまった。

「これで、もっと応用を利かせれば、もっと多くの魔法が使えるようになるよ」

 とは、朗の言葉。

「はい!」

 元気よく素直に答える薫。

 こうして一行に、新しい戦力が加わったようである。

「さて、引き続いて、このままの調子で進もうぜ!」

 はやし立てる金太。俄然とやる気になる一行。そして、この場を早足で歩いて行くのであった。


 バルバスが泉のほとりの小屋に着いたのは、夕暮れ時であった。

 今までの道程とは違う、花畑が広がっている。

「不思議だ、心が和む」

 そんな事を考えながらバルバスは小屋の戸を叩いた。

「はい」

 出て来たのは、まぎれもなくシスティーナであった。

 忍者の格好こそしてはいないが、長い黒髪を後ろで三つ編みしている。

「バルバス。ようこそいらっしゃいました」

 出迎えるシスティーナ。そして、

「あっ、おじさん来たの?」

 システィーナの肩口であの時の妖精が『ヒョコッ』と顔を出す。

「この子、ルーティーっていうのよ。今回の事は分かっていたわ。だからルーティーを、あなたの元にやったの」

 システィーナは何もかもお見通しのように語る。

「今回の事とは?」

「あなたが、『トリナ』を攻略するために、そしてあの『リザード』を倒すためにやって来るという事よ」

「何故、我だと?」

「それについては……とにかく此処ではなんだから、小屋の中に入って下さいな……それから話を致します」

 そう言われ、バルバスは、言われた通りに、小屋の中に入って行った。

 簡素な部屋。しかし綺麗に片付けられていて可憐な花がテーブルのまん中に飾られている。 そのテーブルにある椅子に腰を掛け二人は向き合った。

「何から説明すれば良いかしら?」

 システィーナは、少し考え込むように肘を付く。

「私が、あの村を出た事から始めましょうか?」

 一区切り付けてからシスティーナは、語り始めた。

「私には、二人の妹が居たのは知っていたかしら?」

 懐かしむようにバルバスに問いかける。

「ああ、確か……魔法使いになるために村を出た子達だな?」

「そう。ティアラと、メイジ。あの村では珍しく魔法使いになるために村を出たわ。そんなあの子たちは、よく手紙をくれたの……でもある時を境に手紙をよこさなくなった」

 システィーナの顔に、不安な影が宿った。

「それもそのはず。二人は『リザード』に寝返っていたの。私はそれを知り、この地に赴いた」

「それで、抜け忍になったのか……」

 バルバスは、そんなシスティーナの顔色を窺って判断した。

「しかし、よく生き延びて来れたな」

 バルバスは続ける。

「ええ。この森を彷徨ってたら、ルーティーに助けられたのよ。この森のトラップにかかって困っていた時に……」

 システィーナの右肩に腰を掛けているルーティーが、頷く。

「だって、お姉ちゃんの心が余りにも澄んでいたからいたたまれなかったの!」

 ルーティーは、満足気であった。その様子に、かすかに微笑んでいるシスティーナ。話を続ける。

「そして、妹達の消息がこの地のどこかで失われている事が分かったの。バルバス、申し訳ないんだけど、妹達には……手を出さないでいて欲しいの……」

 黙って聴き入るバルバス。

「こんな我が儘、許される事はないとは思うんだけれど……あの子達は、まだ判っていないの。『リザード』の命令で、動いているに過ぎない。私はそう確信しているわ」

「しかし、攻撃されたら……我は立ち向かわなければならない」

「そこを何とか……手荒な事は控えて欲しいの」

 今まで肘を付いていた手を、『ギュッ』と握りしめて懇願する。

「しかし、何故、我だと判ったのだ?」

 システィーナの言葉は一先ずおいて、バルバスは自分が不思議に思っている事を問いかけた。

「勇者様の一行の事は、もう、街中に噂が流れているの。その中に、あなたがいる事は私の耳にも届いてきた」

 この旅で派手な事はいっさいしていない。差し詰め、『リザード』に会った事くらいである。

 ならば、噂をばらまいたのはそいつである事は確かなのだ。もしかしたら『聖女』としての薫の身を補完するために、怪物を送りだしている可能性だって高い。いや、『ミルトン』の方より伝令が回っているのかもしれない。

「私は、戦力に加われない。この場を離れる訳には行かないの……この邪悪な森で、唯一、神聖な場所を崩されたくはないから……この泉は、『聖女』の泉と言って、如何なる暗黒魔法も通じはしない」

 つまり、安らげる場所なのである。

「昔、この地に来た『聖女様』が使用して浄められたらしいの……ねえ、ルーティー?」

 ルーティーを手の平に乗せて訊き返す。

「もう、なん百年経つかな?一人の『聖女様』が、一人でこの泉にやって来たの。そしてあたし達を生んでくれた」

「『聖女様』が、お前達を?」

「そう、語り継がれているの……実際、生んだと言うには大袈裟かもしれないけれど。ルーティー達を造り出したの。『聖女様』はまるでこれから先の事を見通していたのかもしれない。この地を守るがごとく」

 その『聖女』に、感謝の言葉を投げかけるようにシスティーナは遠い目をした。

「で、話を元に戻そう。システィーナ。お前の気持ちは分かった。しかし、我の任務を妨げるようであれば黙って見過ごす事は出来ない。その事は肝に命じておいて欲しい。もちろん努力はする」

 バルバスは、シスチィーナにそう言い残すと立ち上がった。

 しかし、システィーナはそのバルバスを言葉で止めた。

「今日は遅いわ。今夜は、此処に泊まって行きなさいな。部屋はこちらにもう一つあるの」

 とその部屋の扉の前に足を向け、開く。

「いや……だが……」

 焦るように躊躇するバルバス。

「そんなに逮慮する事はないわ。自由に使ってもらって結構よ」

「そう言われても……」

 と、システィーナの顔を見る。

「ねっ?」

 撫邪気に微笑んでいるシスティーナ。

 その笑顔に吊られて、

「ありがとう。そうさせてもらおうか?」

 なんとも言えない表情をするバルバス。


―果たしてこんな事で上手く睡眠をとれるんだろうか……―


 バルバスの心の中は複雑であった。そんな事をよそに、部屋の就寝の準備をするシスティーナ。そして、そんなバルバスを横目に、ルーティーは、『クスクス』と笑っている。


―妖精は、勘が鋭いのか?―


 ちょっと後ろめたさがあるバルバスであった。


 その頃の金太達一行は、暗くなる道で話し合いを持っていた。

「今日の所はこれまでだな、それにしても、どのくらい進んだかな?」

 金太は道のまん中に『ドカッ』と腰を下ろし話を持ちかけた。

「そうですね、思ったより、進んだのではないでしょうか?あと、三分の二はある所でしょう」

 セリエは冷静に判断してそう答える。

「それじゃあ、あと、二日はかかるのか?……それでも始めは、五日はかかると言っていたのだから良い方ではないかな?」

 朗は付け足すように言った。

「そうですよ!この分だと僕達のレベルも結構上がっているハズです」

 拳を振り上げて元気なレオナール。それが、みんなの心に負けないぞと闘志を燃やす。

「私も攻撃魔法が使えるようになったし」

 薫は自分自身に少しだけ自信が付いたようである。その顔は、輝くような笑みを浮かべていた。

「それじゃ、後の事は頼む。時間になったら起こしてくれ」

 金太は近くの木にもたれ掛かり、薄いが温かい布をひっかぶる。そして睡眠を取る格好をしていた。

 同じく朗と、薫も近くの木にもたれ掛かり始める。

 今夜の番は、セリエとレオナールが先であった。

「おやすみなさい……」

 静かに答えるセリエ。

 ただ、『パチパチ』と、薪が燃える音だけが辺りに響いていた。


 夜半、月も西に傾き始めた頃、交代の合図をレオナールと、セリエはする。

 起き上がる三人。

「どうだ?不審な事はなかったか?」

 金太の言葉に頷く二人。

「そうか。まあ何かあった時は起こしてくれるだろうとは思うけれど……それじゃ変わろうか?」

 と薪の側に行く三人。

「それじゃあ、休ませて頂きます」

 セリエは、金太がいた木にもたれ掛かる。レオナールも朗がいた木にもたれ掛かる。

 その後、二人は疲れもあるのか、すぐに寝息を立てていた。

 それを静かに見守る金太達。

『チラチラ』と揺らめく三人の影が、辺りに長く伸びていた。三人は、お互いを背にして、黙り込んでいる。何時襲ってくるか分からない敵を確認するためであった。そんな時が暫く流れ、突然金太が話し始めた。

「敵。だんだんと強くなる一方だな……」

 金太は、本当の所弱音を吐きたかったのである。自分の未熟さが、時々分かるからだ。

 そんな金太に、

「お前だってレベル上がってるよ。そう思い悩むな……今はまだ成長期なんだ。オレ達は誰もが、目の前に立ちはだかる壁を乗り越えて行こうとしている。その段階は、果てしなく続くんだ……オレだって、もっとこう出来れば良いのにって悩む。だけど、そう簡単には、出来たりしない」

 背中を向けたまま、朗はそう語った。

「ほんと、悟ってんだな……」

 金太は、天を仰ぐかのように手を伸ばした。そしてその手を頭の後ろで組む。

「片桐さん……」

 薫は何か言いたかった。が、言葉にならなかった。

「なあ、薫。片桐さんじゃ、どっちを言ってるのか分からないぜ!名前で呼べよ!」

 と、突然の事に、驚く薫。

「えっ?」

 振り返る薫。しかしすぐに元の姿勢に戻る。

「才レは金太。呼び捨てが嫌なら、先輩でも付けとけ!」

 そう照れくさそうに言うと、首を『コキコキ』と鳴らしながら金太は薫を見た。

 実の所、もう金太は、薫のことを認めていたのである。今までは、足手纏いにしか思っていなかったのであるが、今はもうそうではない。その事が背中越しではあるが、気付いたから薫の心が揺れた。

「き……金太先輩」

 ぎこちなくて、か細い震えるような声。

「ハッキリ腹から言葉に出す!」

「金太先輩!」

 言葉に吊られて薫は、お腹から声を出した。

「よし!これからも宜しく頼むな!?」

 金太は、落ち着いた態度でそう言った。

「それじゃ、オレも……朗先輩だな?」

 にこやかに話に入り込む朗。

「はい。朗先輩!」

 薫は嬉しかった。こんな事くらいかと思われるかもしれない。しかし、自分の事を必要としてくれる仲間がちゃんと此処にいる事。それが嬉しくてたまらなかったのである。

 こうして一日は過ぎていった。


 結局、眠る事が適わなかったバルバスは、朝早くから身支度を始めていた。

『ギーッ』と扉を開ける。

 システィーナは、未だ寝息を立てている。その布団の側にルーティーがちょこんと腰を掛けていた。

「あっ、おじさん。もう出かけるの?」

 ヒラヒラと舞ながら問いかけて来た。システィーナに気付かれないように、出かけようとしていたのに、このルーティーに足止めをくうとは計算外だった。

「お前は寝なくて平気なのか?」

 システィーナを起こさないように静かに問いかける。

「うん。平気。もう十分の睡眠は取ったんだ。所でおじさん。あたしを連れて行く気はない?旅を一緒にしたいんだ!」

 という言葉に驚くバルバス。

「お前が?じゃあシスティーナを一人残して行く事になるぞ。それは……」

「その事は、もうシスティーナに話して了承を得ているよ。だから後はおじさんの意志を訊きたかったんだ。一応、こんなあたしでもちょっとした戦力になるよ。この森を熟知しているし!?」

 確かにいてくれた方が心強いのかもしれない。とバルバスは思った。

「承知した。付いて来るのは許そう。ただし遅れるなよ!?」

 そう言い付け加えると小屋の扉を開き外に出た。

 外はまだ暗い。しかしバルバスは目的地の『トリナ』を目指し駆け出した。振り返る事もなく。

 きっと、この戦いを終えてこの小屋に、二人の少女を連れて帰る事を誓いながら。

 そう、システィーナの笑顔をもう一度見たかったのである。


 太陽が昇り、五人は荷物を背負い先に続く道をただ見詰めた。

「さあ、出発だ!」

 金太は、一歩足を踏み出す。

 結局昨日の夜は一匹も敵は現れなかった。

 そのため実の所拍子抜けな感じを覚えていた。しかしどんなに先に進んで行っても敵は現れない。

「なんだ?この静けさは……」

 朗は異様に静かなこの有り様に驚いていた。

「何故敵は出てこないのでしょうか?」

 セリエは、歩きながら金太に問いかける。

「何かある……この先には」

 勘ってやつなのかもしれない。嵐の前の静けさ。そう、そんな感じだ。

「取りあえず、進もう!」

 五人は、足早にこの道を歩いていった。

 しかし、太陽が真上にきても敵は現れなかった。

 そして、泉が見えて来たのである。その脇に、小さい小屋があるのに気付いた薫が、

「あそこに小屋が!」

 直ぐさま指をさした。周りに綺麗な花が広がるその中心にある小屋。

「こんな所に誰か住んでいるというのか?」

 金太は意外な感じを隠さずにはいられなかった。

「とりあえず、訪ねてみましょう!」

 レオナールはそう持ちかけた。

 五人は、その小屋を訪れる事に一致の答えを出し、そして小屋を目指し歩き始めた。


『コンコン』扉を叩く音が響く。

「ごめん下さい」

 金太は、小屋の主の応答を待ったがその返事は返ってこなかった。

「留守なのかな?」

 薫が『ポソリ』と眩く。

 そんな時、後ろから透き通った声がかかった。

「あの?何かご用ですか?」

 女性の声だった。

 気配を感じさせなかったこの者に振り返る一同。

 その表情は驚きの表情であった。

「もしかして、勇者様?」

 その聡明な瞳の女性はそう問いかけて来た。

「あ…はい……そうですが」

 美人を目の前にして何だか落ち着かない金太。威厳が皆無だったりもする。

「バルバスなら、早朝に『トリナ』へと旅立ちましたよ」

 金太は静かな徴笑みを返して来るその顔に見とれてしまう。

「バルバス殿が此処を訪れたのですか?……というよりバルバス殿をご存知なのですね?」

「あ、名乗るのが遅れました。私の名前は、システィーナと申します。バルバスとは幼馴染みなのですよ」

 そう言いながら薪を抱えて、小屋の扉へと近づいた。

 その両手では開きづらいだろうと朗は、扉を開いてあげる。

「ありがとうございます」

 一礼してその施しを受け入れていた。

「此処では何ですから中にお入り下さい」

 システィーナは、五人を中に招き入れた。

 狭い小屋の中、五人もの人間が入ると、なおさら、狭く感じられた。椅子は二つしかないので、金太以外の者は立って話を聴く事になった。

「この辺りは怪物が出ないんですねね?」

 金太は、姿勢を正して質問した。

「ええ、この辺りは『聖女の泉』がありますから、平和です」

「『聖女の泉』?」

 関心をもって問い返す金太。

「バルバスにも話した事なんですが、数百年もの昔、一人の『聖女様』がこの地の泉を訪問されたのです」

 そう話し始めたシスティーナの話に耳を傾ける金太達。

 

 話が終わると、

「実は、此処にいる、薫という者が、『聖女』だと、『リザード』が言ったのです。では生まれ変わりなのでしようか?」

 金太は全ての事を開き終わった時、そう訊き返した。薫はその事で、システィーナは『ビクリ』と、身構えた。

「『リザード』が?そう言ったのですか?……ならばその可能性がありますね……」

 意味ありげに、ちょっと暗い表情をしたシスティーナ。

「バルバスには、黙っていたのですが、私達。つまり、私そして、二人の妹もその『聖女』の可能性があると、言われています……私は否定したのです。案の定、歳をとり、実際、私は違った……」

「『五人の聖女』……?しかし、歳をとってとはどういう事ですか?」

 金太は困惑していた。

「十五歳の誕生日になった時、その証が出ると言われています」

 手の平を指し出してみせた。

「手の平に紋章が出るとされています。しかし、私の妹達はまだ十五歳になっていません。あの子達のどちらかがそうだとすると……身の危険が迫る事になる」

「つまり『リザード』の目論みに合う者を手中におさめる事になると言う事ですね?」

 朗が一歩前に踏み出して訊き返した。

「私はあの子達に幸せになって欲しい……しかし、ティアラも、メイジも、自分が『聖女』であって欲しいと願い自ら、『リザード』の元へと走った。あの子達にとって『聖女』は只の憧れなのです」

 手の平で、顔を覆った。

 そんなシスティーナを思って朗は薫に問いかける。

「薫?お前いくつだ?」

「……十四です」

 戸惑いながら薫は『ボソリ』と答える。

「ほらっ、システィーナさん。ここにも、まだ、可能性がある者がいますよ。そう嘆かないで下さい」

 と、優しく朗は語りかけた。

 顔を覆った手の平を、静かに退けて、システィーナは薫の方を見た。

「しかし、なんで、そんなにも候補がいるんだ?変な話だよな……」

 金太は腕組をしてのけ反る。

「分かりません……それも生かしている事事態、変な話なんです……何かを待っている。そんな感じがします」

「待ってる?」

 セリエが問いかけた。

「聖女の心の臓を食らう事で、永連の命を得る事ができるという話はお聞きになっていますか?」

「はい、聞いてますよ。そのために、街中の少女の魂を献上している事も知っています」

 実際妹の事があったレオナールが答えた。

「そうです。しかし実際『聖女様』だと見込まれた者には手を出していない……つまり『聖女の証』がない事が盲点なんだと思います」

 システィーナは、喉の奥から絞り出すように答える。

「しかし、殺されていった者たちの中にその『聖女』がいたらどうするんだ?困るのは、『リザード』自身では?」

「殺された者たちからは『リザード』のエネルギーに。そして、『聖女様』の特徴は、額にほくろがある者なのです……」

 そういうとシスティーナは、前髪を手の平で分けた。

「あっ……」

 驚く五人。

 システィーナの額の中央には一つのほくろがあった。

「薫……お前は?」

 静かに問いかける金太。

 すると短い前髪をかきあげてみせる薫。

 その額には確かにほくろがあった。

「ビンゴだな……」

 金太は振り返っていたその身体をシスティーナの方に向ける。

「システィーナさんの妹さんにもほくろが?」

 問いかける金太。

「そうです。私達三人とも同じ所にほくろがあるんです。そして、明日、妹達は十五歳になります……だからその前にこの地に呼び戻したいのです。これ以上『リザード』の思い通りにはさせたくない」

 目を瞑るシスティーナ、それは紛れもなく、妹の事を思う姉の姿。

「しかし、私はこの場所を離れる事は出来ません。それは『聖女様』の聖なる力が尽きて来たからです。前はもっと広範囲に渡って抗力があったのですが、もう大分その力も弱まって来たのです。この地を守る事。それが私に架せられた『聖女様』からの神託なのです……勇者様?」

「はい」

「この事は、バルバスには言っていません。できれば秘密にしていて下さい……彼にこれ以上迷惑をかけたくはないのです」

「承知致しました。この事は決して口外致しませんよ。安心して下さい」

 微笑んでみせる金太。

「妹さん達は『リザード』側に付いているんですよね?」

 薫が浮かび上がるかも知れない紋章を打ち消したくて手の平を『ぎゅっ』と握りしめながら問いかける。

「残念ながら……その通りです」

「ならこの先、私達の前にあらわれるはず!」

 薫が勘を働かせて断言した。

「そう言う事になります」

 伏し目がちにシスティーナは語る。

「そうなった時、必ず妹さん達の思いを改めさせるように努力してみますよ」

 そう心に誓う薫。そして頷く一同。

「ありがとうございます」

 システィーナは頭を下げた。

「それじゃあ、この辺でおいとまさせて頂きます。バルバスに追い付く事は適わなくても少しでも距離を近付けるために」

『ギシリ』と金太の腰をあげる音が響く。

「さて、締まって行こうぜ!」

 システィーナに礼をし扉に向かって歩き始める一同。

「安心していて下さい。必ずあなたの元に、妹さん達は戻って来てくれますから」

 一同はそう言い残すと逆光の中、姿を消して行った。

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