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#7 新たなる旅立ち

▼新たなる旅立ち


 この日は、新たなる旅立ちにもかかわらず、朝から雨が『しとしと』と降っていた。

 六人はルカの遺体を箱に詰め、小高い丘のある所まで運んだ。

 そには、この聖地『アイン』を見渡す事ができる場所であった。

「ルカ……出来れば、ヴァイスのいるお墓に葬ってあげたかったけれど、あなたがいなくなった今、それを訊ける者がいなくなってしまった……でも、あなたが守ろうとしたこの地が一望出来る場所を選んだの。許してね」

 粗末ながらも、その箱の中には、摘み取って来たばかりの花が綺麗に優しくルカを包み込んでいた。

 今、穴を掘っている金太と朗は降り注ぐ雨に打たれながら事を進めていた。そして、無事にルカを埋葬したのである。

「セリエには悪いけど……昨日決めた事なんだ。此処から先は、修行を兼ねて自らの足で『トリナ』へと向かう事にした」

 金太ははっきりとそう告げた。

「承知致しました。勇者様」

 セリエは、事の経緯を理解してそう答える。

「ところで、此処から足で進むとなると、どのくらいの日数が掛るのか?それを訊いておきたい」

 朗は、念のために問う。

「そうですね。何事もなければ五日もあれば着く事でしょう……バルバス殿であれば、三日……」

 セリエは、少し考える様子を見せて答える。

「五日か……分かった。バルバスには、先に進んでもらい、敵の本拠地を探ってもらおう。オレ達は、後を追う形を取る」

 朗がその場を仕切る。

「承知致しました」

 バルバスは直ちに、『トリナ』へと旅立った。

「ボク達も行きましょうか?」

 レオナールはその姿に意欲を燃やしたのかそう先走る。

「では行こう!途中、どんな敵に遭遇するか判らないいが、絶対気を抜くなよ!」

 金太が締めくくった。

 そして更に西へと足を伸ばしたのである。


 敵は案の定、薫を目掛けて襲い掛かって来る者が後を立たなかった。

 それに対し、

「我が守護精霊ウンヂィーネの王よ!私に力を貸して下さい。行け!モーシションフォービット!」

 薫が叫ぶ。

 すると、敵の攻撃は一時的に止まる。

 その間に、金太は『サラディン』を操り敵をなぎ払う。

 また朗の攻撃魔法、レオナールの弓。セリエの拳が冴え渡った。

 そんな感じでやっと『アイン』の街から進み出ようとしていた。

 その頃には雨も止んでいた。全てを洗い流してくれた雨。セリエはそう感じていた。


 夕刻、渓谷に出る。

 それは、この聖なる『アイン』の街を守るかのように、ある谷。

 その眼前に有る吊り橋に、五人は、

「こんな橋で、大丈夫か?」

 余りにもお粗末な吊り橋に金太は、下を覗き込みながら呟いた。

 それもそのはず、なんとも目が眩むような高さであった。

「何をびくついてるんですか?片桐さん。もしかして、高所恐怖症?」

 薫は、面白半分にそんな金太に葉っぱをかけた。

「てやんでい!別に恐くなんてないぞ!ただ、みんながこの橋を無事渡る事ができるかなあ……なんて思っただけさ!」

 慌ててそんな言い訳じみたことを言う。

「それじゃ。行きますか!」

 先頭に立ったのは、意外にもレオナールであった。

 歩く度に揺れる橋。心の中で『ひ〜っ』と、金太はその様子を眺めていた。

「心配いりませんよ!?丈夫に出来ていますから!」

 更にレオナールは、吊り橋のひもをわざと揺すってみせる。

「ははは……」

 今にもへたり込みそうな金太をよそに、後の三人もその吊り橘に足を踏み入れた。仕方なく、その四人の後に続く金太。

 そして、何だかんだで上手く渡り終える五人。その先には、鬱蒼と茂った森への道が続いていた。いかにもこの先、怪物が潜んでいるであろうと思える。

 覆い茂った森の先に光は感じられない。鳥の鳴き声さえ聴こえなかった。

「この先は全て『トリナ』の支配領と化していますね……」

 セリエは静かにそう語った。

「暗黒魔法が至る所に仕掛けられているな……」

 朗は感じ取ったその事を口にする。

「暗黒魔法?」

 薫は、その言葉の意味が分からなかった。

「トラップに気を付けましょう!どう言う物かは分かりませんが……」

 朗はそう言うと、

「我が守護精霊シルフの王よ!我に力を貸して下さい!ライトニングワンド!」

 そう叫ぶと杖のサファイアの宝石から放たれた眩い光が、更に暖かいそよ風を招き入れ辺りの暗さをなぎ払った。

「これで少しは安心して前に進めるでしょう?」

 そうは言うものの、安心し切って進む事は出来ない。だけど、五人は前へと足を踏み出したのである。

「何?この、所々まだらに浮かんでる黒い物体は?」

 薫は不思議そうにその物体に触ろうとした。すると吸い込まれるように、その物体が大きくなる。それはまるで、プラックホールのようであった。その行動を垣間見た朗が、

「それに触るな!トラップだ!」

 薫の肩を引き寄せて大声で叫ぶ。

 間一髪その罠から逃れる事が出来た薫は、朗の前で尻餅をついていた。

「これが、トラップ?」

 薫は未だ腰をぬかして、その場に腰を落ち着けている。

「ああ、間違ったら異次元へと運び込まれていただろう」

 それを聴き、『ゾッ』とした薫は朗の背後へと『シャカシャカ』と移動した。

「脅かしっこ無しですよ!片桐さん!」

 身体の震えはまだ止まらない。

「冗談じゃないよ、薫。これからは無闇に何にでも手を触れるんじゃない!」

 朗は肩越しに振り返り忠告らしく声を掛けた。

「また迷惑を掛けてしまいましたね……」

 言われた事が判って黙り込む薫。

「ったく……薫のドジさにはほとほと迷惑!ちゃんと後着いてこいよ〜朗兄貴もそんな奴の面倒を見なくちゃいけないんだから、大変だよな!?」

 金太は腕組みをしながらそんな二人に声をかける。

「すみません……気を付けます」

『しゅん』とへこんだ薫は、そう言うと立ち上がり再び歩き出した。

 しかし行けども、行けども、黒い物体は増えるばかり。最後にはそそり立った壁が立ちはだかった。

「何だよ、この壁は!?」

 その壁を前に、金太はあんぐりと口を開けていた。後の四人も、立ち尽くしている。

「朗兄貴!どうにか出来ないのか?これも何かの罠なんだろう?」

 朗の方を振り向き、金太は言いよどむ。

 その事で気を持ち直した朗は、『翼の杖』を握りしめ、その壁に向かって一か八か、

「我が守護精霊シルフの王よ!我に力を貸して下さい!!ディバイドクラッシュ!」

あらゆる光を引き集めて、杖は眩い光を放つ。その光が、白色に輝いた時壁に向かって放出された。すると、黒い壁は『ドロドロ』と溶けていく。光が消えると、その先には再び続く道。

「やった〜!何とかなるもんだな!?」

 金太とレオナールは手を取りながら喜びあった。

『ホッ』と息を着く朗。

「目には目を。魔法には魔法だ……ところでバルバスは大丈夫なんだろうか?こんなに罠がたくさんあったのでは身が保たないはずだ……」

 先に続く道を見詰めて語る朗。

 何処までも続くその道は、果てがないもののように感じていた五人であった。


 その頃バルバスは、この果てしもなく広がる森を駆けずり回っていた。

「おかしい……先程から同じ所を走っている気がする……」

 どうやら、この森の罠に掛っているようであった。

 そして、ついには走る事を放棄した。

「迷路か?これも何かの術……」

 そう判断したバルバスは近くの木に目印を残したクナイで傷を付けたのである。

 そしてまた歩き始める。

「思った通りだ……同じ所を回っている」

 確信したバルバスは木に登り、西がどちらであるのかを確認した。しかし、自分が進んで来た道は、間違いなく西であった。

 この先、どうすれば良いのかを考えるために、はたまた体力を温存するために、取りあえずその場に腰を降ろして考え込みはじめたのである。

 そんな時であった。小さな光り輝く光が、バルバスの元に『フワフワ』と飛んで来たのである。

「おじさん、道に迷った?」

 そう言いながら『クスクス』と、笑う妖精が舞い込んで来たのであった。

「おじさん……」

 その言葉に『ピクリ』と反応する。実はまだ二十歳のバルバスであった。自分では、見かけより若い気分でいたのであるから厄介である。

「この迷路から抜け出したいんじゃないの?」

 可愛く小首をかしげて、バルバスを覗き込む人見知りしない妖精。

「その通りだ……しかし、抜け出す事など出来るのか?」

 小刻みに揺れている羽を不思議そうに見詰めながら問いかけた。

「うん。出来るよ!あたしに着いてくれば!」

 光に包まれたその妖精は楽しそうに来た道を引き返して行く。

 それに着いて行くバルバス。

「こんな所に妖精など……何かの悪戯か?……」

 そんな事を考えながら。しかし他に方法が無くて早足でその妖精の後に着いて行った。すると、開けた道に出た。

「此処まで来ると、もう平気だよ!」

 にっこり笑う妖精。

「ここから、真直ぐ行ったら『トリナ』の街に出るから。それじゃあ!」

 それだけ言うと飛び立とうとする。

「あっ。そうだった……」

 何か言い忘れた事を思い出したかのように、妖精は空中で止まった。

「何だ?」

 聞き返すバルバス。

「ある人に頼まれてやって来たんだったんだ、あたし……もし『リザード』に刃向かうつもりだったら、この先にある泉のほとりの小屋に来て欲しい。ってさ!」

「ある人?」

「システィーナって言う女の人。言えば分かるからって言ってた」

「システィーナ……」

「それじゃあ、確かに伝えたからね!バイバイ、おじさん!」

 そう言うと再び飛び立つ妖精。そこには呆然と立ち尽くすバルバスがいた。


 どれだけの時間が経ったであろうか?実際バルバスの心は揺れていた。

「生きていたのか……システィーナ……」

 頭の中に蘇る、記憶。

 それは、同じ村で生まれ育ち、同じ忍者として訓練を共にしていた仲問。

「しかし抜け忍として処罰されたのでは?」

 そう抜け忍は、死を意味する。掟やぶりは重罪であった。

「我が此処にいる事を知っているとはどう言う事なんだ?」

 考えれば考える程、バルバスは途方に暮れることになる。

 一瞬、自分の使命がなんであったのかを忘れかけたバルバスであったが、何とか足を進める事が出来た。

「少し道草をする事になるが……顔を見せるくらいは勇者様もお許し下さるであろう……『トリナ』への道もこれで何とかなった訳だし」

 そう決心すると、バルバスシスティーナのいる泉のほとりへと駆け出していた。

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