#5 ニケの村
▼ニケの村
次の日、海沿いのこの場所を後にした六人は、次に目指すニケの村を約束し、この場を旅立った。
航行は、何の変哲もないただの飛行に留まり、無事目的地へと辿り着く事が出来た。
「ここから、『トリナ』まで三日程掛ります……その『トリナ』は未知の領域で、中央に塔が有るそうです……目指すはその塔と言う所でしょうか?」
簡単にセリへは告げる。
「今日は、この『ニケ』の村で一休みしましょう……宿は取りました。まだ日暮れまで時間が有ります。この後、自由行動にしましょう」
落ち合ったバルバスがそう金太に持ちかけた。
「そりゃいいや。そうしよう……オレはここら辺を探索に行くけど、お前達はどうする?」
好奇心旺盛な金太は他の者に訊く。集まった六八はそれぞれ考えている事が有るのか?
「私は、武器屋にちょっと顔を出して来ます。昨日の邪龍との戦いで、小剣を一部破損したようですので」
セリエはいう。
「僕は、この村に知人が住んでいるので、会いに行きたく思ってます」
レオナールはちょっと照れながらそう言う。
「ふーん。何?恋人か何かか?」
にやりと笑いながら急に腕組みをしてみせる金太。
「えっ……そ、そんなのとは違いますよ!」
赤面して慌てる辺り怪しいものだと思い、みんな笑いが込み上げる。
「我は、武具屋に用が有りますのでこれにて失礼致します」
そう言うと、素早く立ち去るバルバス。結局残ったのは、金太、朗、薫であった。
「つまりは、オレ達だけがお残りさんと言う事か……じゃあ、有言実行!情報収集といきますか?」
金太は後の二人を連れだって、人通りの有る所へと足を運んだ。少し歩くと、高い建物に挟まれた狭い通りに、上を見上げると洗濯物がなびいている道に出た。どうやら裏通りのようで有る。
「何だか、暗い通りだね……」
不安になった薫はボソリと話し掛けた。
「高い建物に挟まれた所だから……」
朗がその言葉に太陽が射さないんだよと付け加えた。
さっきまで、太陽がさんさんと照っていたのに、ちょっと道を外れると、この有り様である。そんな小さい村であった。
すると、その通りの先に人の群れを見付けた。何やら一悶着があったようで有る。その事にまるで野次馬のように駆け出す三人。
「どうやら、『トリナ』の野党が出たらしいぜ……」
と言う言葉が幽かに耳に入って来た。
「なんて惨い……」
「このような事するとは、絶対許せないな!」
そんな言葉がちらほら聴こえて来た。そんな中、金太は人込みを潜るかのように足をその中心へと運んだ。そして見たものは……
「げっ……」
一言漏らしその場に立ちすくんだ。後から来た二人もその場で目を伏せた。
一人の、籠を左腕に抱えた少女が、心臓を挟り取られるかのようにして、その場に倒れ込んでいた。その籠から一つ、りんごが転がり落ちているのが印象に残った。
そして辺りにはそのりんごを踏み散らかした後が転々としていた。そして、滴る血が『ボタボタ』と腕に滴り落ちている様子から、そう時が経っていない事を知らしめていた。
「……これはひでー!」
金太はその少女を抱き起こすかのように、腕を取り上げた。その様子に朗も金太に手を貸す。
「おい!誰かこの子の事を知っている者はいないか?」
抱き上げた金太は周りで囁きあっている者達に尋ねた。
「いや?オレは知らない……お前知ってるか?」
それを合図に、辺りは騒然とし始める。
「これからは外もおちおちと歩けないな……」
とか話している者達もいる中、
「あっ、もしかしたら……ほらっ!リーベルングさんとこの……」
一人の髭をはやした男が、その子の顔に心当たりが有る様子で前のめりに顔を突き出して来た。
「そのお宅は?」
朗が問う。
「この通りを、真直ぐ行って、その角を東に百メーターほど行った先に郵便屋が有るんだが、その角を右にまがった先のお宅がそうだ」
「案内してくれるか?」
「いいぜ?案内してやる」
「ありがとう」
そう言うと、素早く金太は少女を抱きかかえて歩き始めた。
「すみません!どなたか、現場を御覧になった方はいらっしゃいませんか?」
歩き出した金太の後を追い掛けながら、振り返り薫は問いかけた。しかし、誰一人として見た者はいなかったと言う。
ただ、この辺りを、脅かすようになったこの出来事は、今日が初めてではないらしい。そして、決まって黒装束を身に纏った、四つん這いの物陰を見た者がいるらしい……と言う事が判った。
「『トリナ』の者……か」
と、朗は心で繰り返していた言葉を思わず口に出していた。
「ここがリーべルングさん家だ。それじゃあこれで。ワシは用が有るから……」
道案内してくれたお爺さんに礼をして金太達は、その家のドアを叩いた。暫くすると、そのドアを開けて一人の女惟が顔を覗かせた。
「はい。どちらさま……」
と、言いかけた時、その顔は引きつるかのように変化した。
「オオ……何てこと……サラ!」
その女性は、金太が抱きかかえているその少女に覆いかぶさるように腕を伸ばして来た。
その様子に、
「どうしたんですか……叔母さん?」
その奥で聴き覚えの有る声が聴こえてきた。そしてテーブルに手を付き、腰を上げた少年を見て驚いた。
「レオナール?!」
金太が叫んでいた。
「あれっ?どうしたんですか。勇者様?」
何も知らないで歩いてこちらにやって来るレオナール。そして、戸口に来た時その表情が険しいものに変わった。
「これは……」
眉間に雛がより、怒りと悲しみを露にするレオナール。わなわなと口元が震えている。
「先程この先の通りで発見したんだ。どうやら『トリナ』の野党がこの子を殺したらしい。この子を見知った者がこの家を教えてくれたんだ」
朗が落ち着いて説明した。
「まさか……レオナールくんの知り合いだとは……」
薫も沈んだ表情に変わった。一先ずこの戸口ではなんだ……と言う事で家の中に入ってこの子を寝かせるベッドまで足を踏み入れることになった。
「この子。サラが何をしたって言うの……この子は私の看病をしながら、りんごを売りに出かけたのよ!」
ベッドに寝かされたその、サラと言う子に覆いかぶさりながら泣きじゃくるその女性。
「残念な事です……」
朗は、御悔やみの言葉をのべる。
「まだ……小さい子なのに……」
その様子に、女性の涙にもらい泣きをして幽かに涙声の薫、たった今まで穏やかな空気が流れていたであろう部屋に鳴咽が響いていた。
「レオナ―ル……大丈夫か?」
朗がレオナールの肩に手を置く。その手にレオナールの手が重ねられ、
「すみません。賢者様……もう大丈夫です。それより、サラの事どうもありがとうございました……そのまま放置されている事になっていたらと思うと……」
背中を向けたまま涙声で語る。
「明日の葬儀までここに滞在して今日はお通夜に出て行け……その方が良いだろう?みんなにもこの事は伝えておいてやるから」
気を利かせるかのように、金太が血まみれになった服を身に纏ったままそう言い残す。
「いいえっ!すぐにでも……『トリナ』に旅立ちましょう!そして、妹の……サラの仇を取ります!」
レオナールは決意したように顔を上げる。
「妹?」
朗が聞き返す、
「……小さい時、家の事情でこの地にサラは引き取られたんです……時々こうやって顔を覗きに来ていたんですが、このような事に遭っているなんて…」
振り返るレオナールは近くの壁に歩いて行き、拳を叩き付けた。その音が虚しく辺りに響く。
「気持ちは痛い程分かる……だけど、妹ならなおさら遺体をこのままにしておく訳には行かないだろう?実の兄ならば、その自覚を持って行動をしろよ」
金太は気持ちが判らない訳ではないがそう言った。
「そうですよ。今はその方が大切ですよ?」
薫もレオナールの気持ちを思い遣ってそう言う。
「敵討ちは、その後だ……」
そう言う三人の顔を振り返り頷くレオナールは、泣きじゃくっている女性の側に寄り添って、
「叔母さん。泣いていてももうサラは戻って来ません……今夜はお通夜にしましょう。そして明日は葬儀です。それについては僕が全て手配しますから……叔父さんも戻られたら今後の事を話し合いましょう」
レオナールはその女性の小さな肩を抱き寄せながらそう語った。
「勇者様。それではセリエさんやバルバスさんにお伝え下さい。必ず葬儀が終わり次第、旅立ちますからと……」
毅然と振る舞うレオナールを思い遣り、
「わかった。オレ達も今日の通夜と明日の葬儀に出るか、その時はみんな引き連れて来るけど良いか?それに、お前の事待っててやる……そしたら、サラさんの敵討ちしに行こうな!」
金太は心の中で励ます。
「……ありがとうございます!」
と、深々と頭を下げるレオナール。
「よせよ!仲間だろう?それじゃあ、夜に来るから……」
そう言うと三人はこの家を後にした。
未だ聴こえる鳴咽。その声を背中に感じながら宿へと足を向け始めたのであった。
宿に戻った金太達は、事の成りゆきをセリエとバルバスに語った。
「分かりました。そう言う事なら、私達もお通夜に参列致します」
セリエもバルバスも賛成した。
「それにしてもお気の毒ですね……」
セリエはレオナールの事を思いそう語った。
「『トリナ』の輩の噂は、各地でも絶えません。我が辿って来た街や村でもそう言う話を耳にして来ました。しかし、白昼堂々と行われたケースは初めてですな」
あからさまな攻撃がここに来て顕著に現れているとバルバスは静かに語る。
「各地でも被害が出ているのか?」
金太が事情を訊こうと問う。
「そうです。一律に伝えられているのは、『ミルトン』での王女をさらって行ったような黒装束を身に纏っていると言う事で、後はまるで亡霊のような騎士の群れだったり、甲殻虫の巨大化した怪物だったり……いろいろな説が取り上げられているようです。しかもその被害を受けた者は、全て、心の臓を奪い取られているとか」
「化け物の一団って事か?それとも異形な死に方に恐怖の余り……そう言う噂になっているのか?」
朗は手を額に持って行きながら考えるかのようにそう答える。
「化け物だろうが、亡霊だろうが何だって来いってもんだ!何の罪もない者の命を易々と奪うなんて、許せないぜ!」
金太はここにきて熱くなっていた。
「今夜辺り、また出るかも知れませんね……レオナールのお通夜が終わったら、一度この辺りを見回りましょう」
セリエは一案を出した。
「そうするか」
金太はその意見に同意し、この村の地図をテーブルに広げた。
「それじゃあ、この北方面をバルバスが担当してくれ」
と指示を出す。
「それでは東方面は、私が受け持ちましょう」
進んで言うセリエ。
「気をつけろよ。オレは南方面を……」
金太が言う。
「それじゃ……西はオレと薫さんが受け持つ事にしよう」
朗がそう言ってくれた事で話は纏まった。
「えっ?私達は二人ですか?」
薫は朗に問う。
「攻撃魔法が使えるまでは、オレと行動する事!いいね?」
その言葉で、昨夜の事を思い出していた。
「そうですね……分かりました」
素直に薫は朗の言葉に従った。
「それじゃそろそろお通夜に行きましょうか?」
時間を確認したセリエは問いかけた。
「こんな服装で申し訳ないけど、仕方ないか……」
先程付いた血を拭った服を着たままでも、その後の巡回の為に致し方なく金太は、静かに席を立つ。
そして宿を後に五人はリーベルングさん宅へと足を運んだ。
通夜は厳かに行われていた。
それは、ごく一部の近所の者や、金太運の参列で簡単な挨拶を交わすだけのものであった。
そんな通夜も、程なくして終わった頃。金太達は一度レオナールに声を掛ける。礼を言う彼を静かに受け入れその後合図のように目配せをして、家を出た。
「それじゃ、みんな。後の事は任せたぜ?」
金太のその一言で、四方に散って行った。
薫達が巡回したのは村の西の方。レオナールの妹、サラが殺害された地域であった。
建ち並ぶ家々は、次々と寝静まろうと家の明かりが消されて行く。その家の間の暗い道を、目を見張りながら静かに巡回していた。
「この先の路地でしたよね?」
恐る恐る薫は朗に問いかける。
「そう。この道の突き当たりだった」
あのサラの惨劇の様子を思い出していた。
「心臓を奪い取るなんて……」
考えただけでも鳥肌が立つ。
「奴らは、心臓を集めているのであろうか?それともそれを活力にしているのか?」
疑問だと、冷静沈着な朗は考えていた。
「もっと、敵の事を知っておく必要が有りますね?」
薫はそう思った。
歩き続ける二人。もう人通りは無くなっていた。
きっと、夜中に出歩かないようにしているのであろう……ただ、二人の足音だけが辺りに木霊していた。その後、二人はその路地を抜け、西南へと足を運ぶことにした。そこは、家並みの少ない広々とした道に、木が立ち並ぶ街道であった。
「見かけませんね。この辺りにはいないのかも知れませんよ」
そんなことを薫が話し掛けた時であった。
一瞬『キラリ』と光る一本の針が、薫の横顔に飛んで来た。
紙一重。その針を運良く交わした薫は、『カツーン』と、横に有る木に当るその針の音を聞き逃さなかった。
「何者だ!?」
朗はその事に気付き、とっさに薫をかばうかのようにその前に立ちふさがる。
「運が良かったな?」
それは、枝から『スルスル』と降りて来る、黒装束に身を固めた一匹の蛇の怪物であった。
「貴様が、サラさんを殺したのか!」
朗は、異形な姿のその怪物に向かって驚く気配も無しにそう叫んでいた。
「ん?サラ……ああ、昼間の小娘か」
『チロチロ』と舌を覗かせながら、木に纏わり付くその怪物は答えた。
「片桐さん……こいつが!」
薫は胸を掴まれる思いで声のトーンを落として叫んでいた。
「貴様達の狙いは何だ!人を傷つけそして何を願う!?」
その問いかけに、
「それを知って、お前達に何の利益が有る?それにしても、こんな夜更けにまた次の獲物に出会えるとは、オレはついているな。我が主の良い手土産ができるというもの!」
瞬間再び『シュッ』と、口から針を飛ばして来る。それを朗は『翼の杖』で払い除ける。
「薫!才レを補助してくれ!」
叫ぶと同時に杖に念を送る朗。
「我が守護糀霊シルフの王よ。我に力を貸して下さい!受けよ、ウィンドトルネード!」
突然の竃巻きが、眩い光を伴い怪物目掛けて放たれた。唸る風の音。
「我が守護精霊ウンディーネの王よ!私に力を貸して下さい。行け!モーション、フォービット!」
薫は言われたとおり補助魔法で怪物の動きを封じ込める。
木の葉が舞い散る中、動きを封じ込められた怪物はその竜巻きの中もがいている。
次第にその竜巻きは勢力を強められて行き、終いには一本の木ごと吹き飛ばしていた。
軽々と舞い上がる怪物。そこに、三本の矢が放たれた。それは見事怪物に命中したのである。
「うぎゃ〜!!」
怪物のうめき声。そして血飛沫が辺りに飛び散ってくる。次第に風が静まり落ちて来る巨体の怪物の地響き。
「水臭いですよ。こういう事だったら僕も呼んで欲しかったですね!」
背後からレオナールがボーガンを抱えて薫達の元にやって来た。
「!」
振り返る薫と朗。
「賢者様達が、帰り際何かを隠している事は気付いていました。申し訳なかったのですが、後をつけさせて項きましたよ」
レオナールは倒れ込んでいる怪物の真横に屈み込むように足をついた。
そして、その怪物の黒装束の懐から一つの七色に輝く透き通った手の平サイズの珠を見付けて手に取るレオナール。
その珠の中には無数の脈打つ心の臓が閉じ込められていた。
近寄ってそれを確認する薫と朗。
「これは……?」
呆然と眺める三人。
「こんな物の為に、サラは……」
その珠を叩き割ろうとレオナールが行動を移した時、それを朗がレオナールの腕を掴んで止めた。
「レオナール……その珠を貸して下さい。そして、今一度、サラさんの所に戻りましょう……もしかしたら……」
と、何かを思いついたかのように立ち上がった。
「賢者様……?」
レオナールの手の平からその珠を取り上げた朗は、リーベルングさんの家へと足を運こぼうと思い立っていた。
傍らにはもう動かない怪物の死体が転がっている。
「片桐さん……?」
その不可思議な行動に、思わず薫も立ち上がり、後を追い掛けたのである。
「薫さんの力で、サラさんを生き返らせる事ができるかも知れません」
リーベルングさん家のサラの遺体の安置されている部屋に上がり込んだ時、朗はそう言った。
「私の力で?」
薫は驚いたように問いかけた。そんな事出来るなんて考えた事も無い。いや、出来るはず無いだろう?
「そう……君の魔法は補助するだけではなく、回復する力も兼ね備えてるはず……っていうのもこう行った世界での常識なんですけどね?」
と、杖を指差してそう語る。
「でも……どうすれば良いんだか、判りません」
薫はサラの遺体を眺めつつそう語った。
すると、朗は先程手にした珠を薫に手渡した。
「念じて御覧なさい……きっと上手くいきますよ」
朗は薫を励ました。朗と、レオナールはその場に立ち尽くしてその事の成りゆきを見守っている。
「分かりました……やってみます」
左手に珠を、そして、右手に杖を構え言われるまま薫は念じた。その念を遮らないように朗とレオナールは呼吸を鎮めていた。
「我が守護精霊ウンディーネの王よ!私に力を貸して下さい。そしてこの者にもう一度の生をお与え下さい!……リバイブ!」
そう唱える薫。すると、その左手の珠が輝き始めた。そして杖のパールにその珠の像が浮かび上がり、真っ直ぐにサラの遺体目掛けて一筋の光が射す。
「おお……」
『ドクンドクン』という鼓動が辺りを包んだ。そして遺体は青白い光に包まれて宙に浮かび上がっていた。
逆光の中、薫は瞳を閉じて念を送っていた。その光が収まるまでずっと念じ続ける薫。そして、命の脈動を感じた時眩かった光は落ち着いた。
ベッドに静かに降りて来るサラの身体。暫くすると静かな寝息が聴こえて来る。
「ふう……」
その場にへたりこみ一息つく薫。その薫の肩に朗は手を掛けた。
「やったな。薫?」
薫は、何時の間にか『さん』付けをしない朗に何となく親近感を感じていた。
「これは……」
先程まで青白かったサラの顔に赤みがさしていた。
「お礼なんて良いですよ。それよりも精のつく物でも食べさせてあげて下さい。今まで遺体として放置されていたんです。その事を考えると体力の方が心配ですから」
薫が考えつつそう言うと、レオナールは台所へと足を運んだ。
疲れ切った薫は近くの椅子に腰をかける。
「まさか出来るとは思っていませんでした。何と言うか……私には癒しの術が使えるようですね?」
自らの両掌を見詰めながら朗に語りかけた。
「薫が持っている『生命の杖』にはその力が有ると睨んだだけの事はあったな?」
朗は思っていた事を打ち明けた。しかし、薫の左手に有る珠はまだ多くの魂の叫び声を止めない。
「この珠……どうしましょうか?」
その珠を眺めながら薫は朗に問いかけた。
「それは薫が持っていなさい。もうこの世に戻る事が適わない魂。何処の誰のものか分からない以上、生き返らせる事は適わない……なら、これ以上の犠牲が出ない事を願いつつ、この先の旅を意識するのだよ?」
朗はそう薫に聞かせるように言った。
「そうですね……供養の為に、この私が持っておきます」
そう言う薫は、一つの決意を持って朗にそう語った。
「もう大丈夫ですよ……サラさんは生き返りました。良かったですね。レオナール?」
薫はレオナールの手を取り微笑んでいた。
「ありがとうございます。何とお礼を言って良いか……」
レオナールの瞳にうっすらと涙が滲んでいた。
こうして、リーベルングさんの家を後にした薫と朗は、宿屋に戻った。暫くすると、金太と、セリエ、バルバスが戻って来た。
そして、事の経緯を話し合ったのである。
「そうか、レオナールの妹が生き返ったのか」
安心と驚きが入り混じったように金太はまとめた。
「明日には元気な姿を見せてくれるでしょう。それに、今日の所、レオナールは妹さんに付き添うらしいのでここには帰って来れないのですが、明日予定通り次の街『アイン』へ旅立つ事ができるそうですよ」
一通りの事を話して聞かせた。
「そうか、身かった。それにしても良くやったな〜薫!」
金太が一発背中を『バンッ』と叩く。一瞬、戸惑った薫ではあったが、
「自分に新しい力が有る事が判って嬉しい限りですよ?」
薫は慢心の笑みを浮かべてそう言った。
「ところで、他のみんなはどうだった?」
話を四方に散った後の事に戻した。
「オレの方は収穫無し……」
金太は、腕組みをしながらそう答えた。バルバスも然り。
しかし、セリエは違った。
「そう、お伝えしておかなければなりません。私の方では、二匹の怪物を目撃しました」
沈着冷静に話すセリエ。
「やはり黒装束を纏った蜘蛛の怪物を、何とか退治しました。そしてその輩がこの珠を所持しておりました」
二つの珠を取り出して後の五人に見せる。
「これは……」
覗き込んだ薫と、朗はその珠を眺めて呟いた。そして、薫は懐に入れていたその同じ珠を取り出す。
「同じ物ですね……一体これは何でしょうか?」
それらの珠を見詰めながらセリエは呟く。
「どうやら、心の臓と思われますな……」
脈打っているその珠を覗き込みながらバルバスが答える。
「そうなんです。こうやって多くの魂をこの珠に封じ込め、怪物達を統治している。主に献上している物だと思われる物ですよ」
朗は、あの蛇の怪物が言った事を思い出しながらそう答える。
ざわめく一同。
「それは『トリナ』の主君だと思われます。この珠を献上する変わりに、安息を約束でもされているのでしょう?」
できる範囲分かる事を薫は答える。
「しかし、何故狙われるのは全て女性なんでしょうね?」
バルバスは疑問をロにした。
「えっ?」
初めて判別した事項に薫は驚きの表惰を見せる。
「実際、これまでの経緯を見ても少女だったり、薫だったり、セリエだったりしてるじゃないか?」
金太はそうバルバスの意見に賛同する。
「確かに言われてみればそうですね。あの時も、オレではなく、確かに薫を狙っていた」
朗は思い出す風に視線を泳がせた。
「じゃあ『ミルトン』の王女様たちはもう……?」
考えたくは無いが、セリエは静かな絶望を感じていた。
「まだ、そうとは限らないさ……未知数の多い事だ。きっと、もっと何か重大な事が有るのではないか?」
金太はそうであって欲しくはない。という素振りでこの場をうち止めるかのように席を立ち上がった。
「今日はもう遅い。明日の準備をしておこう」
もう夜中である。宿屋の迷惑にならない内に、ここは各自部屋に戻る事を提案した。
「それじゃ、明日」
みんなが、金太の部屋を後にした。
明日はレオナールと、この宿屋の裏で落ち合う約束をしている。今は休息の時を各自迎えていたのであった。




