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#4 夢見る少女

▼夢見る少女


 夜は、昼間との気候とは打って変わって肌寒かった。東京とはかなり違う。夜空はやけに冴え渡って、普段見る事が出来ない程の星の数を目の当たりにし、三人は神秘さに酔いしれていた。

 きっと、東京で見る星とは違う星座が有るのであろう。そんな事を考えていた。

 静かな海。

 寄せては返えす波の音が辺りに響き渡っているのみで、他には何も聴こえない。時折、石英の砂が擦れる音が『キユッ』と鳴るくらいだ。

 三人は薪を囲み、しばしの夜に寝ずの番をしていた。

 バルバスと落ち合ったあと、二手に分かれて交代制で朝まで見張りをする事に決まった。

「…静かだね。えっと……一之瀬薫くんだったっけ?」

 と、朗が話し掛けてくる。

「薫で良いです…その方が聞き慣れてますから」

 薫は、今さらながらにそう答える。

「じゃあ、薫さん……訊いて良いかな?何故、今になっても男の子に成りすましてるの?」

 問われて薫は驚きの余りに咳き込んだ。

「気付いてたんですか?」

 薫が慌てて訊き返す。

「えっ?こいつが女?」

 金太が身を乗り出す。

 一瞬、顔を引きつらせた薫だったが、何事もなかったかのように再び朗の方へと視線を流した。

「うん。初めて占いの館に入って来た時には気付いていたんだ。何て言うのかな?勘なんだけど、女の子の匂いがしたというか……きっと、男子高に入るための変装だろうなと思ったんだ……にしても、もう、良いんじゃないかな?」

 クスリと朗は優しく笑った。

「……すみません。私の友達と、変装して来たんです。来年度から、城東高校が共学になるって聞いてたから、興味津々で行こうって話になって……実は、私の学校女子校なんです。だから、もしこの世界から抜け出す事が出来たら……と思うと、バレちゃ不味いかなとか思って誤魔化してたんです」

 伏し目がちに答える薫。バレたからと言う照れじゃ無く、ただ芝居していた自身を恥じた。

「へえ……そうだったんだ……でも、オレ達はそんな事ばらしたりはしないよ。安心してくれて良い。それより、危険な目に合う事の方が心配なんだ」

 語る朗に、薫は紳士的なイメージを抱いた。

「それだったら、セリエさんだって女性ですよ……」

「彼女はこの世界の人問で、鍛練を積んでいるはずだ。でも君は……薫さんはそうではないだろう?」

 もっともな意見であった。

「気づかって頂いて……本当に有り難うございます。だけどここにいる以上、そうも言ってはいられないんじゃないでしょうか?危険とは隣り合わせ。この条件は、他の人たちと同じ事です」

 そう答える薫の目は真剣だった。

「朗兄、こいつの言う事は筋が通ってるぜ。オレ達だってここが何処でどうしてこうなったのか未知の事なんだ。つまりは自分自身の事で頭が一杯ってことだ……これ以上の巻き添えなんてたまらないぞ?」

 不護慎にも自分の事ばかりの金太。

「金太。おまえなあ……もう少し広い心で接せられないのか?オレ達にしてみれば、いつもの事なんだから……」

 金太の頭を小突く。

「痛っ!」

 金太は、小突かれた額を撫でながら、

「じゃあ、兄貴!?こいつの面倒見ろよ!オレは知らないからな!」

 そう言うと、ふて腐れたかのようにうつ伏せにその場に寝っ転がってしまった。

「本当に……オレは知らないからな!」

 念を押すと、番をする事も忘れたのか眠りに入る。

 その様子を呆れながら、朗は見届けていた。そして、

「薫さんの言い分は良く分かった。だけど、なるべく一人では行動しないように……特に君の場合、攻撃魔法が使える訳ではないんだ。その点を考えておいて行動しなさい……分かった?」

 言い聞かせるように朗は薫に話し掛ける。

「はい、判りました。必ず生きて、私達の住む東京に戻るつもりで、これからは行動します……」

「判ってくれて嬉しいよ」

 微笑む朗。その朗の顔をまじまじと眺めながら薫は問う。

「所で、片桐さんは、こういう事に慣れてるんですか?」

「こういうこと?」

「……あの、何だか、会話の中でそう言うニェアンスの事を言われているから……」

 そう、気になってた事はそれだった。

「ああ、金太とのやり取りでの事か……そうなんだ、オレ達兄弟は、よく、こんな風に別の次元に迷い込む事が有るんだ。探し物を要求されたり……探偵じみた事やったり。今までもいろいろな事をして来た……でも、こんな風に危険な旅に他の誰かを巻き込んだ事はなかったんだ。こんな事は初めてだ。だから、金太の奴、混乱してるんだと思う。悪い奴じゃないんだ。許してやってね?」

 困った事なんだけど、それが金太というキャラクターなんだと告げるように朗の瞳は優しかった。

「いえ……その事は気にしてないですよ。ただ……何て言うか……こんな体験初めてだから、未だに信じられなくて……取りあえず足手纏いになる事だけは避けるようにします……」

 ボソボソと話すべき事を話した後、薫は夜空を見上げた。満天に輝く星。その星の中に流れ星を見付けた。

 

 ―どうか、生きて、みんな戻れますように……―


 その星に薫は祈ってみたのである。

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