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#10 果てしなく長い夜

▼果てしなく長い夜


 七人と一匹は、繁華街を抜け出し『トリナ』の中枢部へと足を運んでいた。そしてこの賑わい立つ街を後に今、その目指していた中枢部の裾野まで辿り着いていたのである。

 そこで、ティアラが入り口に設置されてある機械に手を差し伸べた。

「確認致しました。後の六名は?」

 ガサついた機械音が流れて来る。

「私の連れです」

「承知致しました、中にお入り下さい」

 その言葉が流れると今まで閉まっていたドアが『シュン』と開かれた。

「なんだか、未来にでも来たみたいだね」

 薫は、この地の何処にも無かった人工的なものを初めて見て素直にそう言葉に出した。

「本当だな……でも、中はいたってシンプルなんだな。というか、有機的だ」

 金太は中に入った感想を言った。

 それから、一行はティアラの後に続き階段を上り始めた。

「この階段は一本道です。ただし、かなりの距離が有りますので、頑張って下さい」

 ティアラは、そのまま静かに後ろも振り返る事なくただ足を進める。黙々と歩く一行。

「おい……本当に辿り着くのか?なんとも一時間は歩いているような気がするぜ」

 ティアラのすぐ後を着いて歩いている勇者金太は、『ボソリ』と後ろを歩く朗に愚痴る。

「黙って歩け。確かに結構歩いてはいるけど、ティアラが始めに言っただろう。その内着くさ」

 朗は、呆れたかのようにそんな金太を、一瞥する。

「今、半分の道のりくらいですよ。頑張って下さい」

 またしても後ろも振り返る事なく、ティアラが語る。

 後、この道のりの半分……と思うだけで金太はガクッと肩を落とした。

「ほらっ!早く歩け!お前だけじゃないんだぞ!」

 朗が金太の背中を後押しする。

「ヘーい」

 頭垂れながらも、金太は足を動かした。

 そして再び、黙々と歩き始めたのである。


 それから数時間経って、外から吹き込んで来る風が、身体に感じ始めた時、

「この先です」

 ティアラが一声かける。そして、螺旋階段をひとまわりした所でティアラが足を止めた。

 少し踊り場のようになっている行き止まりの地点。眼前には、岩肌がむき出しのまま立ちふさがってあった。

「ここで私が、暗黒魔法を使います。もちろん、貴方達を連れていけるように、術を使いますから、何もしなくて結構です。ただし、絶対に変な意識を飛ばさないで下さい。もしもの時を考えての術じゃ有りませんから」

 振り返りそう言い残すと、ティアラは魔法を使うために念を込め始めた。

 次第にティアラの身体から放出し始めた青白い光。

 その光が金太達を包む頃、眼前にあった岩肌が『ズシッ』と重い力が加わったかのように開き始めた。

 眩い光。

 白色のその光が金太達を捕らえた時、その岩肌のドアの中に引きずり込まれた。まるで、『ポーン』と投げ込まれたかのようなその先には、宇宙が広がっていた。そして、その光の帯に導かれ宇宙を進んで行く金太達は、不思議な感覚に身をゆだねるしかなかった。

 巨大な宇宙。そして、光り輝く星。

 今、『リザード』の元へと向かう中、気を乱す訳には行かない。と、察した六人は、必死に自分を取り戻そうとこの彷佛とする入り乱れた感覚を自らの物にしようと頭を働かせる。

「御覧なさい。あの赤く光っている星が『リザード』様が住まわれている所です。

 先頭に立って導いているティアラが遥か向こうに光っている星を指さして、そう告げた。

 光の速度で進んでいる金太達はその星に辿り着くまで、今のこの状況をキープしなければならない。

 しかし、遥か先のその星は事もなく近づいて来る。

「もう少しの辛抱です」

 ティアラは、目の前に近づいて来るその星に何やら呪文を唱えていた。すると、その星の大地が切り開かれ、その中に誘われるかのように入って行った。

「ただいま戻りました」

 ティアラが術を解き放った先には暗闇の中に蠕燭の炎が揺らいでる一室へと誘われていた。

 まだ暗闇に目が慣れていない金太達は此処がどういう所なのか良く判っていなかった。

「そうか、御苦労…で、どうだ?ティアラ?」

 どこかで聴いた事の有る声に『ハッ』とした金太達は、声の主の居場所を捜した。

「残念ながら私では……」

 跪いているティアラは手袋を脱ぎ捨て、掌を『リザード』に翳す。

「そうか、分かった」

 腰をあげる音が、周りに広がる頃、金太達はやっと暗闇に目が慣れて来ていたのである。部屋は四角に区切られており、その部屋の中央に一つの椅子が有る。その前に、黒ずくめの男が立ちはだかっている。それが、『リザード』だと気付くのに時間は掛からなかった。

「……メイジは如何でしたか?」

 少し震えるかのような声でティアラは『リザード』に問いかけ始めた。

「お前に訊いたのだぞ。判るであろう?」

『リザード』は、悠然な態度で『コツリ、コツリ』と階段を下り始めた。

「……失礼致しました……では、ここに勇者の一行を連れて参りましたので、話をして頂けませんでしょうか?」

 ティアラは右手を差し出し、金太達を促した。

「……時聞も無い事だ……承知した」

 驚くべきことに、金太達の前へと歩み寄ったのである。

「良く参られた。勇者殿。初めてお目にかかる」

 金太達の前に跪く『リザード』

 その発言と行動に一隣驚いた金太は、

「これ、何かの冗談だろう?オレ達とは『アイン』の街で出会っているだろうが!」

 金太はその『リザード』の前で突っ立ったまま唖然と見下ろしていた。

「ああ……そうかもしれないな……最近の記憶はまどろみの中なので……許して欲しい……」

 顔を上げて、再び立ち上がった。

「それはどういう……」

 金太が話し掛けようとした時、爆発的な音が金太や他の六人と一匹の頭に響いた。

「なんだ……これは!?」

 地腸りが直接頭に響き不快感が後を立たない。頭を抱え座り込む金太達。

「我は、『リザード』この国を治める者」

 急に声のトーンが変わった『リザード』がいつの間にか金太の前に立ちはだかっていた。

「話し合いだ?冗談じゃない!この世界を治めるのは、この『リザード』だ!戦わずして、何が国王ぞ!」

 先程までとは一風変わった人絡がむき出しになっている。

「勇者殿!こうなっては、もう手が付けられません……戦って下さい!」

 ティアラが突然叫び声を上げた。

「ちょっと待て!?どういう事か、説明くらいしてくれないか!?」

 訳が分からない金太は、ティアラに訊き返す。そりゃそうだ。まるで話が繋がらない。

「この方は、『リザード』様であって、『リザード』様ではない人格!本釆の人格を取り戻して頂かなければ、意味が無いのです!」

「つまり、こう言う事か?こいつは二重人格者だといいたいのか!?」

 金太に変わって、朗は落ち着いて問いかけた。

「然り『リザード』様の負の人格なのです!」

 と、頭を抱えているティアラ。

「……はっ!メイジは?メイジはどうしたの!?」

 ティアラは突然、思い出したかのように、メイジの事を問いかけ始めた。

「あやつはもう死んでおる。今では我のエネルギーとして有効に働いておるわ!!」

『リザード』は大声で笑いながらそう言った。そして、椅子の方へと歩いて行く。

「なんですって!?」

 必死の思いで立ち上がり、ティアラは『リザード』を追って駆け寄った。そして、『リザード』の、腕を掴む。

「お前も、我のエネルギーとなりたいようだな……?」

 掴まれた腕に絡むティアラの腕を引っ張り、振り払ったため、壁に激突するティアラ。

 その様子を見た金太が、

「おいっ!いい加減にしろよな!!……わかったよ、もう話し合いで片付くってのは無しなんだな……いくそ!!」

 鳴り止まない頭痛を我慢して立ち上がった金太は、懐から『サラディン』を取り出し、念を込める。すると剣先から青白い炎が沸き起こり、鍔が飛び出すと、一段と大きな炎が立ちのぼったのである。

「承知した!!」

 セリエが立ち上がり拳に力を込める。

「我も後に続く!」

 バルバスがクナイを取り出し、『ジリジリ』と、足先を滑らせる。

 その様子に、ルーティーは、バルバスの懐から顔を出した。

「何時でも!」

 レオナールは背中にしょったボーガンを構え、『リザード』目掛け狙いをつけている。

「つまりはこう言う事なんですね……」

 朗は戦う羽目に有る運命の糸が紡がれたとでも言うかのように悟った目で杖を振り下ろす。

「許せないのは、この『リザード』!」

 薫は杖を握りしめた。そして、

「我が守護精霊ウンディーネの王よ!私に力を貸して下さい。行け!モーションフォービット!!」

『リザード』目掛けて放った光るリングが辺りの暗闇に炸裂する。

 こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのである。

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