小さな英雄の話
腰に吊った大剣『Blood of Glory』
俺ら“Blood vessel"のメンバー全員がひと振りずつ持っている大剣。
山ごと切り裂けるその剣で一日の稼ぎのりんご一個を剥く。
昔、誇りだったこの剣を突き立て、王に誓った。
“We give one's blood for one's country"
確か、王の名前はヘラリャ7世、だった。あの優しそうなおじいさんが、俺達を嵌めたのだろうか。
思わず、笑ってしまう。
つくづく人間は仕方のないいきものだ。一日の仕事を終え、馬を引く。知らぬ間に、自分は人間ではないという認識に慣れてしまっている。
そろそろこの街もでなければいけない。年を取らない俺は、ひとつの土地にはいられない。もともと人と接するのが好きだったが、今はそれもなくてただ毎日無為に生きている。
“あの日”、双子のカシャとサシャは言った。
“行こう。”と。俺たちのリーダーだった2人が、戦場に赴くときに言っていた言葉。
つまり、この日々も俺達の戦いであるということだ。いつまで続くかも分からぬ果てし無き流浪の旅路はある意味、最も過酷な戦いだ。
ここまでの気持ちを抱えながら、どこかで頷く自分もいる。
俺達が表舞台から消えるということは、平和だということ。
俺が愛した人と国と、未来があるということ。
これでいい。
幕引きがいささか乱暴だったとしても。
俺は知っている。
大人が言う平和には常に血塗られた歴史があり、命や存在の犠牲が伴うことを。
そして大人は未来を担う子供達にこういうことも。
“英雄(ヒーロー)が、全てを変えましたが残念ながら、英雄(ヒーロー)達は卑しい敵の手に落ち、無念にも命を落としました。みなさんも、彼らのような勇敢な大人になりましょう。”
自分達が手を染めた血のことも、英雄の他にも一生懸命国を守り、命を散らした人がいたことも、自らが英雄を殺したことも、なかったことになる。
英雄になれと、言う。顔も名前も知らぬ、英雄に。
そのくせ英雄になれなればいつか捨て、なれなければ“お前はダメな子だ”“存在の意味がない”と怒る。
なれなかったその子を“その他”のカテゴリーの入れ、いつの日か国のために命を散らしても、“戦士A”という見分けしかせず、その功績すら英雄のものにしてしまう。
それを見ていた英雄になれる子が同じ“人”を見下し、いつしか俺達を捨てた“大人達”になっていく。
それが変えられるものではないことも、とっくに気付いた。
人は人を変えられない。所詮、神はハリボテである。
これでいいのだ。
これが、人間なのだ。元・人間の俺は、今日も世界の行方を見ているだけ。