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切り取られた言葉  作者: 本郷透
1/7

自分勝手

 神社に呼び出された。理由も告げられず、ただ集まって欲しいとだけ言われた。

 呼び出し主はツバサで、口ぶりから察するに十二人全員が集まるのだろう。

 そういうわけで、俺は今、神社に向かう道の途中に居た。いつもうっとおしく付き纏って来るメアは今は居ない。田畑に囲まれた一本道を歩くのは、俺一人だけだった。

 思えば初めてかも知れない。俺とメアが離れて別行動をしているなんて。あいつは俺が行く所すべてにくっ付いてきた。……いやまあ、流石に風呂やトイレには来ないけれども。


 静かなのは、久しぶりだった。


 *


 神社へと続く石段の前で足を止める。

 家からここまでの方が距離は長いのに、何故だか俺はこれから登る階段の方が長く感じる。

 一度吸った息を吐いて、足を進める。相変わらず不気味な鳥居が連なるその場所は、異世界にでも繋がっているのではないかと時折錯覚してしまう。一つ一つ、鳥居を潜る度に現実から離れていくのではないかという不安に駆られた。

 しかしよく考えてみれば、俺が今生きて居るこの世界が現実なのかすら怪しい所だ。だからと言ってこれが夢という確証も無い。だから俺はこの世界がとりあえず現実という認識で過ごす事にした。


「──あれ……まだ誰も来てないのか……」

「早かったのですね、タクト君。まだ約束の時間までは大分あるというのに」

「は? 何言ってるんだ、美影。お前、幽霊になって時間の感覚狂ったんじゃないのか?」

「馬鹿なことを言わないで下さい。私は少なくとも貴方よりは規則的な生活をしているつもりですよ。貴方は昨日だって徹夜でゲームをしていたじゃないですか」

「……何で知ってるんだよ」

「さあ? どうしてでしょう?」

 いきなり木の上に現れた美影は、俺をからかう様に笑った。何だかその笑みが無性に腹立たしかった。

「つーかお前に時間の概念があったのか」

「ありますよー。幽霊とは言え、ここに居るのですから当然時間の干渉くらい受けます。そこに概念が無いなんて有り得ない事なんですよ」

「そういうものか」

「そういうものです♪」

「でもお前の体内時計も当てにならないな。俺の腕時計は集合時間ぴったりを示してるぜ」

「それはどうでしょう? もう一人に訊ねてみては?」

 美影はそう言って石段の方を見た。それから数秒して、そこに人影が現れた。

 ──俺達をここに呼び出した本人、ツバサの登場だった。

「あれ? タクト君早いね。まだ指定した時間の十五分も前なのに」

「──は? 十五分前? 何言ってるんだ? ツバサ……」

「嘘なんて吐いてないよ。ホラ、見て」

 ツバサはそう言って自身のタッチパネル式の携帯電話の画面に表示されたデジタル時計を俺に見せた。俺は黙ってそれを受け取り、まじまじと見つめる。そして交互に自分の右腕に巻きつけたデジタル時計と照らし合わせた。

 はっきり言えば、俺の腕時計に表示される時間は間違っていたのである。ツバサの携帯に映し出された数字よりも十五分早い時間を示していた。

 自分でずらした覚えなんて無い。誰か他人が弄ったとしか考えられない。

 俺の頭はその犯人の目星をつける為にフル稼動していた。

 まず第一に両親は除外された。仕事で忙しい父は俺が起きる前に出勤して、夜帰ってくるのも遅い。だから俺が顔を合わせるのは休日の昼位だ。だから俺の部屋に入ってくるというのは考えられない。そして母も同じく会社に勤めているから基本的に家には居ない。

 休日返上で働いている両親を、俺は尊敬と呆れとの両方の目で見ていた。

 これで俺の家族が触ったという可能性は否定された。

 それ以外に俺の部屋に居る生命体といえば一人しか居ない。メアだ。アイツは基本的に部屋から出ない。他に考えられる原因は無かった。

 俺は大きく息を吸うと、肺に溜めた空気を声という形に変えて一気に放った。

「出て来い、メア!! 近くで見てるのは分かってるぞ!!」

 俺の発した声に驚いたツバサは咄嗟に耳を塞いでいた。それでも割りと近い距離に立っていたから、聞こえたのだろう。

「あ、バレちゃった?」

 茂みの中からガサガサという音と共にメアが姿を現した。

「お前、何でこんな事するんだよ。良い迷惑だっての」

「だって御主人、時間にルーズ過ぎるの。一回位遅刻しないでちゃんと集まった方が良いと思ったから、時計の時間を早めたの。時間通りに到着出来たでしょ?」

「余計なお世話だって言ってんだろ。俺が遅れようが何しようがお前には関係無いんだよ」

「タクト君、それは言い過ぎだよ。時間にルーズなのは君が悪いし、それを直してくれようとするメアちゃんの好意をどうして素直に受け取れないの?」

「お前も煩いよ。ツバサ、お前は俺の母親か? 違うだろ? 他人の行動にいちいち口出すんじゃねえよ」

「タクト君……」

「何だよ。まだ言いたい事があるのか?」

「──ツバサ、もういいの。勝手な事したウチが悪いの」

「メアちゃん……」

 一連のやり取りが終わった頃に、他の子供達も集まりだした。


 *


「全員集まったね。じゃあ、話を始めるよ」

 集まった俺達は、木の上から動く気のない美影に諦めて、御神木の周りを囲む様に座った。

「今日集まって貰ったのは、聞いて欲しい話が二つあったからだよ」

「……何のお話?」

「まずは一番重要な話からしようか。わたしね、鍵を見つけたの」

 ツバサが発した言葉は、ここら辺一帯の時間を止める魔法の呪文の様だった。たったの一言で、俺たちは驚きのあまりに時を忘れた。

「驚いてるね」

「当然でしょ。こんな早くに鍵を見つけたんだから」

 そんな中で、ツバサと美影だけが冷静に周りを見渡していた。

「まあ、そうだよね……」

 ツバサはナツメの冷静な物言いに苦笑いしている。

「──証拠は?」

「疑うのも無理はないか。美影さん、お願い」

「はーい♪」

 ツバサの声に応じて美影は懐から白い塊を取り出してツバサに向かって投げた。

 ツバサはそれを見事に両手で受け取ると、みんなの前に差し出した。

「これがわたしの鍵。『無臭のアロマキャンドル』だよ。みんなも手に取って見てみてよ」

 そう言ってツバサは隣に居たメアにアロマキャンドルを渡した。メアはそれをまじまじと見ると、更にその隣に居た俺に渡した。

 俺は受け取ったアロマキャンドルを隅々まで見ると、次に匂いを嗅いだ。

「匂いはないよ。わたしも能力を思い切り使って調べたけれども、そのキャンドルにはわたしの能力が通用しないの」

「ふぅん……」

 俺は適当に返事をすると隣に座っていたトウヤにキャンドルを渡した。


 その後、次々に匂いや手触り、様子を確認した後にアロマキャンドルは再びツバサの手中に戻った。

「どう? これが鍵なんだよ」

「──そう言われても……実感湧かないぜ……」

「そうよね。こんな何処にでもありそうなアロマキャンドルが鍵だなんて、信じられないわ」

 マリやランは未だに疑っている。俺も正直言って信じられなかった。

「そもそも、どうしてこれが鍵だって分かるんだよ」

「美影さんがこれは鍵だって言ってたから」

「おい、美影。説明しろ」

「──この世界を抜け出す鍵は、貴方達──つまり私を含めた十二人の能力が効きません。そういう仕組みになっているんです。どうしてかは尋ねないで下さい。感覚的な事を説明するのは、不可能ではありませんが時間が掛かるので」

「そうか。じゃあ、自分の能力を解ってないと鍵は見つけられないって事で良いのか?」

「そういうことになりますね。事実、ツバサさんは自分の能力を知覚して、自分に欠けた物をその能力で掴み取った時に鍵を手に入れました。だから、鍵を手に入れる一番の近道は、自分の能力を知覚し、欠けた物を考えることですね」

「──ツバサ、どうやって自分の能力を知った?」

 今まで黙っているだけだったシンイチローが口を開いた。それは確かに俺も木になっていた事だった。

「わたしは美影さんに教えて貰ったの。わたしの過去を打ち明けて、それで美影さんに尋ねたの」

「ええ、その通りです。ツバサさんの過去をここで話すつもりはありませんが、過去には必ず手掛かりがある、未来へ向かう為のメッセージが残っています。だから困った時は今までに起こった事を思い出してください。私に話して頂ければ微力ながらも力を貸します」

「そうか──」

 シンイチローは納得したのか、再び黙った。

「話したかった事の二つ目に入ってもいい? わたしが鍵を手に入れるまでの経緯なんだけど」

「聞かせてくれ。今後の参考になるかもしれない」

 そして俺たちはツバサが鍵を手に入れるまでの非現実染みた、異常な行動を起こしたという話を聞いた。

 それは現実的ではあったものの、ツバサが起こした行動とは思えない話だった。いつも探し物をしている様な、迷子の子供のような目をしたツバサが、そんな迷いの無い行動を取ったというのは信じ難いものだった。

 ナツメが死にかけた事、人を大量虐殺した事、父親の話──。

 ツバサは包み隠さず総てを話してくれた。自分が犯した罪を告白するというのはどんな気分だったのだろう。


「──そんな……ことが……」

 全てが話されると、俺たちはただただ驚くばかりだった。

 もしかすると自分も過去に美影に干渉されていたかもしれないと思うと、少し恐ろしくなった。

「どうかな。少しはみんなの鍵探しのヒントになった?」

「……解らない。正直言って解らないんだ。ツバサと俺たちは境遇が違いすぎる。生まれながらに別の能力を宿していたお前と、普通に生まれて非日常に巻き込まれた俺たちとではその在り方があまりにも違いすぎる……」

 俺は思っていたことを素直に述べた。ツバサはそれをバカにする事なくちゃんと聞いてくれた。

「そっか、そうだよね。参考にはならないよね……」

「役に立たない知識なんてありません。今は不要でも後々必要になるかも知れないのです。忘れてしまおうなんて思わないで下さい」

 美影は神妙な面持ちで木の下に居る俺たちに言った。

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