五里霧中②
怜夏と二人でバスに乗り
白鳥の泳ぐ公園へ
怜夏の通う障害者施設幼稚部は、土日が休み僕の人工透析も土日は休みだ。
朝から子供達のところへ顔を出す。
サンドイッチと釜飯のおにぎり、水筒を持ってきた。
長女彩音は友達と待ち合わせがある。と言う…
次女の詩織は家から出たがらない。
詩織は車椅子なのだ。
是非とも一緒に行きたいところだが…
何故か外へ出るのを嫌がる。
親が子供の面倒をしっかり看なかったせいなのか?
それは…
自分のせいでもあり心か痛む。
一人づつにサンドイッチを分けてお昼に食べなさい。と伝え怜夏の手を取り玄関を出る。
まだ僕を受け入れてない…当然といえば当然なのだが …
怜夏はうつむき加減で絶対にこちらを見ない…
手は僕に預けてはいるが…体全体から僕を拒否している。
だけど…最初はそんなもんさ。
徐々に慣れていけば良い。
君にとって僕は知らないオジサンなんだから…
焦らないよ…
じっくり君と向き合うことにしたんだ。
さあ…バスが来た。
乗り込むと…物珍しいのか?椅子の上で足をバタバタしている。
この子が感情らしきものを表に出すのを初めて見た。だけど…人の迷惑になるからやめようね?と優しく諭したつもりだが。
またも…うつむき体から僕を拒否するオーラを出す。まだ怜夏の事は何も知らないに等しい。
知っている情報は極僅かだ。
バスセンターに着いてもまだ、俯いている。
こちらのペースに引き込めない。
大人と子供のファーストコンタクトはとても大事だ。
決して子供にペースを取られてはいけない。
必ず大人は子供に対してガキ大将でなければならない。
子供の発想や積極性を邪魔せず。そっと手助けも必要な時には手を差しのべる。危ない事はやらせないのではなく、その子に応じて
遣らせてみる。
このスタンスには絶対的な信頼関係が必要だ。
少しずつ築き上げていこうね。怜夏…
バスセンターで徳用のポップコーンを二袋買い求める。
ポップコーンを怜夏に持たせ…自主性を見てみるが、両手で抱えるように歩く
任せて貰うことなど無かったのだろう?
バスを降りて初めて顔をあげた。
公園にたどり着く。
怜夏を取り巻くオーラが変わった気がする。
早速ポップコーンの袋を開けて池に数個投げ込んでみる。
最初に反応したのは、
マ鴨達だ…
水面を静かに滑り寄ってきた。
クチバシで一つ摘まんでは水につけ喉の奥に流し込んでいる。
周りに鴨が集まってきた。れいかの右手が忙しくなってきた。
それを見つけた白鳥が優雅に泳いでくる。
鴨や鯉を蹴散らしポップコーンを一人締めし始めた。
はい…どうぞ…
ここで…初めて怜夏の声を聞いた。
まだ…表情が緩む事はない。
根気よく此処へ来て
白鳥や鴨…鯉や鳩達まで
力になって貰えるものには全てのものに力を借りよう
例え…アニマルセラピーには劇的な変化は認められないと言われようが…
ほんの…小さな変化で良い…
怜夏が心さえ開けば…
そこに素晴らしい世界が待っていることをいつか理解出来るまで…
僕は君の側にいるからね。
出来れば早く君の笑顔が見たいな。
次回は怜夏がトイレに籠城します。