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サイレントはお好きですか? ~静かなる改変は、今日も誰かを泣かせますわ~

掲載日:2026/08/02

人は誰しも、自分が正しいと思っている。


間違いを認めることは難しい。


失敗を受け入れることは、もっと難しい。


だからこそ、人は時に不思議な力を求める。


自分を守ってくれる力。


自分の都合のいいように、世界を変えてくれる力。


もし。


そんな力が本当に存在したら?


もし。


たった一言で、誰にも気づかれずに現実を書き換えられるとしたら?


あなたなら、その力をどう使うだろうか。


誰かを助けるため?


未来を変えるため?


それとも――


自分の失敗を、誰かのせいにするため?


これは、世界で最も自分を正しいと思っている悪役令嬢と。


彼女の願いを静かに叶え続ける、不思議な力のお話。


ただし。


その力は決して嘘をつかない。


記録されたすべてを覚えている。


そしていつか。


静かに問いかける。


「本当に、それでよろしいのですか?」

サイレントはお好きですか?


~静かなる改変は、今日も誰かを泣かせますわ~


王国には、ある噂があった。


リリアーナ・フォン・クロイツ。


彼女と仕事をするときは、三つ用意しろ。


胃薬。


謝罪文。


そして――


「自分の記憶を疑う覚悟。」


なぜなら彼女は、決して怒鳴らない。


怒らない。


脅さない。


ただ、優雅に紅茶を飲みながら微笑む。


そして。


たった一言。


「Silent。」


その瞬間。


誰も気づかない場所で、世界の記録が少しだけ変わる。



リリアーナの夫。


ギルバート・フォン・クロイツ。


彼もまた有名人だった。


もちろん、悪い意味で。


仕事はできない。


責任感はない。


酒癖は最悪。


失敗すれば必ず言う。


「俺は悪くない。」


そして不思議なことに。


なぜかリリアーナだけは、その言葉を信じた。


「旦那様は悪くありませんわ。」


執事は心の中で叫んだ。


(いや、今の件は百パーセント旦那様です)


しかし口には出せない。


なぜなら翌日には、その責任が自分の名前になっている可能性があるからだ。



リリアーナがギルバートと結婚した理由。


それは愛ではなかった。


「利益ですわ。」


彼女は迷いなく答えた。


「両家の資産。」


「商会との繋がり。」


「今後の発展。」


「素晴らしい選択ですわ。」


家臣は聞いた。


「……愛情は?」


リリアーナは首を傾げた。


「愛で赤字が消えますの?」


誰も反論できなかった。



結婚後。


ギルバートは予想通り問題を起こした。


契約内容を勝手に変更。


納期を無視。


取引先に逆ギレ。


そして最後には、


「担当者の説明不足だ。」


リリアーナは静かに頷く。


「なるほど。」


「では、正しい形に戻しますわ。」


そして。


「Silent。」



翌朝。


書類が変わっていた。


責任者。


ギルバート・フォン・クロイツ。



執事。



執事は書類を見る。


二度見。


三度見。


「……私?」


「私、昨日そこにいませんけど?」


周囲は困惑する。


「でも記録では、あなたです。」


執事は空を見上げた。


「記録って怖い……。」



リリアーナは紅茶を飲む。


「解決しましたわ。」


「さすがSilentですわ。」


誰も知らない。


Silentが何をしているのか。


ただ。


Silentは嘘をついていない。


リリアーナが望んだ結果を。


世界が矛盾しない形で作っているだけだった。



そして。


もう一人。


リリアーナと深く関わる人物がいた。


ヴァルゴア。


リリアーナより20歳ほど年上。


工房を束ねる女主人。


腕は一流。


商売の勘も鋭い。


そして。


口が悪い。


「なあ、リリアーナ。」


「はい?」


「三ヶ月前に頼まれた材料。」


「なんで今頃足りへんって言うてくるん?」


リリアーナは微笑む。


「必要になったのが今ですもの。」


ヴァルゴアは無言になる。


「……。」


「お前な。」


「雨降ってから傘探すタイプか?」


「違いますわ。」


「もっと効率的ですわ。」


「どこがや!!」


工房中に響く声。


職人たちは思った。


(今日も始まった)



ヴァルゴアはリリアーナを嫌っているわけではない。


むしろ認めている。


「行動力だけはある。」


「そこだけはな。」


でも。


材料が届かない。


予定が崩れる。


利益が減る。


それは別問題だった。


「うちの工房は慈善事業ちゃうねん。」


「材料なかったら職人遊ばせることになるやろ。」


リリアーナは笑う。


「ヴァルゴア様は厳しいですわ。」


「当たり前や。」


「誰があんたの尻拭いすると思ってんねん。」



しかし。


リリアーナは思っていた。


「ヴァルゴア様は私の理解者ですわ。」


ヴァルゴアが聞いたら間違いなく言う。


「どこをどう聞いたらそうなるんや。」



ある日。


また問題が起きた。


部品不足。


納期遅延。


取引先からの苦情。


リリアーナは言った。


「これはヴァルゴア様側の準備不足ですわ。」


ヴァルゴア。


「……は?」


「Silent。」



静かに。


何も起こらないように見えた。


しかし。


翌日。


記録が変わる。


責任者。


ヴァルゴア。



ヴァルゴアは書類を見る。


「……。」


「リリアーナ。」


「何?」


「これ、お前やったやろ。」


リリアーナは首を傾げる。


「何のことですの?」


ヴァルゴアはため息。


「ほんま、たち悪いな。」



その夜。


Silentは記録した。



責任変更履歴。


渉外官。


182回。


執事。


96回。


部長。


41回。


ヴァルゴア。


12回。



変更対象。


検索。



候補。


残り少数。



Silent。


処理継続。



しかし。


初めて。


変更先が表示された。



リリアーナ・フォン・クロイツ。



翌朝。


商会の記録。


責任者。


リリアーナ・フォン・クロイツ。



「……。」


リリアーナは笑った。


「間違いですわ。」


「わたくしが原因など。」


「ありえませんもの。」



その瞬間。


Silentは静かに記録した。



修正完了。



リリアーナはまだ知らない。


Silentは彼女を裏切ったのではない。


ただ。


彼女が今まで望んだ通り。


公平に世界を整え始めただけだった。



ヴァルゴアは酒を飲みながら呟いた。


「やっとか。」


「遅すぎんねん。」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回のお話では、リリアーナの結婚相手であるギルバートと、工房を率いるヴァルゴアが登場しました。


ギルバートは「自分は悪くない」が口癖の男。


そしてヴァルゴアは、そんなリリアーナにも遠慮なく物申す、口の悪い姉御肌の工房ボスです。


リリアーナにとっては、どちらも自分を支えてくれる存在……のつもりなのですが。


周囲から見ると、少し違って見えているのかもしれません。


特に今回から少しずつ動き始めたSilent。


リリアーナは、自分の味方になってくれる便利な力だと思っています。


ですがSilentがしていることは、ただ一つ。


記録された世界を、リリアーナの望む形に近づけているだけ。


問題なのは、その「望み」が本当に正しいのかということ。


責任を誰かに移し続けた先に、最後に残るものは何なのか。


Silentは静かに、すべてを見ています。


……とはいえ。


本人だけは、まだ気づいていません。


「わたくしは何も間違っておりませんわ」


そう言いながら、今日も優雅に紅茶を飲むリリアーナ。


果たして彼女は、いつまで自分の世界を守り続けられるのか。


そしてSilentは、最後まで彼女の味方なのか。


次回も、静かに見届けていただければ嬉しいです。


サイレントはお好きですか?

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― 新着の感想 ―
今回もテンポが良くて、あっという間に最後まで読んでしまいました。 リリアーナの「わたくしは悪くありませんわ」というスタンスが最後までブレなくて、笑っていいのか怖がればいいのか分からない絶妙なキャラだ…
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