第6話 あの方からの手紙
よろしくお願いします(#^.^#)
騒がしい学園の一日が終わり帰宅後、夕食までの間、私は兄の部屋で兄と二人で話をした。
「今日は騒がしい一日だったらしいね。ルシアから聞いたよ」
二人掛けのソファーに兄と私が並んで座った。兄は私の頭をそっと優しく撫でてくれる。今日は学園までルシア様を迎えに行き、お茶をして帰ってきたらしい。
「お兄様。本当に騒がしい一日でした……そして、これが例の箱ですわ。今日頂いたものが入っております。どうしましょう?」
私はドサリと段ボール箱をひっくり返し、中身を目の前にある机の上に広げた。
手紙は十数枚、掌に乗るほどの贈り物は5個、これは多分イヤリングや髪留めなどだろう。それより少し大きめの贈り物は2個。こちらは多分ネックレスなのかもしれない。
彩とりどりのリボンがかかっていると思っていたけれど、半分は私の瞳の色と同じ紫色のリボンだった。
「ああ、大変だったな。こっちで家名を確認しておくよ。しかし……まあ、なんと言うか、こうなることは薄々分かっていたが、思っていた以上に沢山あるな。皆、エミーリアとクリフの婚約取消しを待ってたという事だな……どうだ、この中で気になる男性はいないのか?」
机の上に並べた手紙や贈り物に少し困惑の表情で見つめていた兄は、私をチラリと見て、少し揶揄い気味に聞いてきた。
気になるも何も、今は見る気にもなれない。私は首を横に振った。
「いないと言うより、まだ何も見ておりませんわ。手紙の内容だって中身を見てみないと何が書いてあるか、わからないでしょう? もしかしたら、恨み言でも書いてあるかもしれませんわ」
兄の揶揄いに少し呆れて、私はため息交じりで答えた。
全てのものが好意を寄せ、送ってきているとは限らない。もしかしたら、いつの間にか恨まれていて、封筒の中に刃物類が入っている可能性だってある。
「ははは、もしそんな手紙を我が家に送る家があったら、遠慮なく潰させてもらうよ」
兄は楽しそうに言っていたが、目が笑っていなかった。黒い瞳の奥にはメラメラとしたものが見え隠れしている。我が家は単なる伯爵家じゃないのかしら。
「まあ、手紙の内容については見なくても大体は見当がつくけどな。今、確認するから、父上に『ただいま』を言っておいで、まだなんだろう? 先程、帰ってきたようだったよ」
「はい。お兄様、お願いしますね」
私は兄の部屋を出て、父の執務室に向かう。部屋の前まで来るとトントントンと扉を鳴らすと、低めの声で「どうぞ」と返事が返ってきた。
部屋に入り、「お父様、ただいま」と言うと、難しいしかめっ面をして書類を眺めていた父の顔が、すぐに柔らかい表情になり私の側にくると「おかえり」と優しく抱きしめてくれた。
「学園はどうだったかい? 大丈夫だったかい?」
「はい、お父様。いつもと変わらない……いえ、今日は違ったわ。いろんな方から手紙や贈り物を頂きました。どういたしましょう」
そう父に伝えると、柔らかかった表情がすぐ真顔になり、威圧感を感じた。その一瞬で背中にゾクッと寒気が走る。
「誰だ!? どこの令息だ!? 私の可愛いエミーリアにちょっかい出そうとしている者は?」
あの物腰の柔らかい父の言葉と思えない口調だった。思わず顔が引き攣る。もしや、お父様の素もこちらなのかしら?
「お、お父様?」
父は私の声にハッと気づくと、慌てていつもの優しい父に戻った。
「ああ、すまない。エミーリア……手紙は内容を確認して、お返事をしなさい。贈り物は今は婚約者がいないから、一応頂いても問題ないとは思うが、その気が無いのなら失礼の無いようにお返しした方が良いだろう」
「はい。分りました。そうしますね。お父様」
そんな会話を父としていると、メイドがお茶を持ってきてくれた。父は、ソファーに座るように私に言うと、メイドがテーブルの上にお茶を置いていく。
私は座ると、父も向い側に座る。私はカップを持って一口飲む。
温かいお茶に、ふうっと安堵の溜息が漏れる。一日の疲れが取れそうだ。
「エミーリア、ルピナス家の婚約取消しの話は王家の承諾が取れたよ。本当に申し訳なかった。こんな事なら、もっと早くにこうすれば……先代の想いなどに気をかけなければ良かったのだ。王家に振り回されてせれて、あんなくだらない約束など……」
やっぱりこの婚約には王家の企みのようなものがあったようだ。けれど無事、ルピナス家との婚約が白紙に戻ったと聞いて、私はほっとした。
「お父様。おじい様も良かれと思っての事だったのでしょう? もう、いいですわ。これからはの時間は私自身のために使いますわ。暫く婚約とか考えないわ」
「エミーリア、ずっとずっとこの家にいておくれ」
何とも情けない声を出している父を私はクスクスと笑うと、父もホッとしたようだった。そんな、和んだ雰囲気の中、突然、兄が慌てて「父上! エミーリア!」と執務室に入ってきた。
「どうしたんだい、ラルス。ノックもせずにそんなに慌てて」
「エミーリアの持って帰って来た手紙の中に、こんな物が入っておりました」
兄のラルスが持っていきた封筒を父が見る。私には普通の封筒の手紙にしか見えない。あれが『こんな物』って、どういう事かしら。
父はその封筒の裏を確認すると、みるみるうちに顔色が変わった。父と兄の慌てぶりからして、よからぬ人物からの手紙らしい。
誰だろう。差出人までは私もまだ確認していなかった。
「まったく……予想外だな」
父は苦虫を潰したような顔をした。
「はい。俺もまさか学園に持ってくるとは……あいつは確か、エミーリアとクラスは違うけれど同じ学年です。こういうものは我が家より格上のお家柄なのだから、正式に我が家に直接持ってくると思っていたのですが……ああ、俺の落ち度です」
険しい顔つきで兄は何か失敗をしたかのように、下唇を噛みしめていた。
「しかし、正式に封蝋のあるものを持ってこられても困るのだが……」
父は腕を組んで苦虫を嚙み潰したような表情になる。
二人でとても大きな溜息を吐き、深刻そうな顔をした。
封蝋?
我が家より格上?
そんな方からの手紙を『こんな物』って言ってしまって良いのかしら?
でも、どちら様からの手紙なのでしょうか?
この国では、友達同士のやり取りの簡単な手紙には封蝋は使わない。使う事があるとすれば、家同士の大切な事が書かれている時だけだ。
私は誰からなのか訊かない方がいいと思いながらも、私宛の手紙なので訊かない訳にはいかない。
「お父様……その手紙はどちら様からの?」
恐る恐る、父に訊ねる。
父は片手で頭を押さえながら、はあ、と大きな溜息を吐いた。
溜息が出るほどのややこしい所からの手紙?
兄は持っていた手紙を私に渡してくれた。私はその手紙を手に取る。
表には私の名前が書いてある事を確認する。そしてゆっくりと恐る恐るひっくり返し、裏面を見た。
「メイナード・ドルーニア?」
はて? どこかで聞いた事があるお名前。国の名前が付いている所を見ると、王家からの手紙のようだった。どちら様だったかしら……?
私は、小首を傾げた。今度は兄が大きな溜息を吐く。
「第二……王子だ……」
「だい、に……おうじ、……?」
なにそれ? 誰? 第二王子って……。一瞬思考が止まった。
「え? ええ!? 第二王子って、え? 王家の? あの第二王子殿下!?」
「ああ、そうだ……王家のあの第二王子だ……」
兄はオウム返しのように答え頷く。
え? 何故? 第二王子殿下が、伯爵令嬢ごときの私に手紙を……?
もしかしたら私は知らないうちに失礼な事をしたのかもしれない。緊張の余り、手紙を持っている手と足が震える。
「お兄様! 私、知らないうちに何か失礼な事をしたのかもしれません!!」
必死で訴える私を横に兄は頭を抱え込み、しゃがみ込んだ。
兄の慌てぶりに、私は大変な事をしてしまったんだわ、と血の気が引く。
「ああ、くそっ! 何であいつが『こんな物』を!」
え? あいつ?
「エミーリア! 見なかったことにしよう! 燃やせ!」
『こんな物』と言われる手紙を私から取り上げると、兄がパキッ、パキッと薪が燃える暖炉の中に投げ捨てようとした。
「あわわわ! お兄様。ダメです!」
慌てて私は兄の手を止める。
兄は「止めるな!」と叫ぶ。
いやいや、そんな高貴な方からの手紙を内容も確認せずに燃やしたら不敬罪になる可能性が……いえ、確実に不敬罪になるわ。
「お、お父様! お兄様を止めて!」
私は必死に兄の腕にしがみついて、血相を変えた父に助けを求めた。けれど……父から出た言葉は。
「そ、そんな手紙! 早く燃やしてしまえーー!」
真っ赤な顔をして、父は叫ぶ。
いやー、お父様までそんなこと言わないでー、と私は心の中で叫んだ。
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次回更新は3月28日22時頃の更新予定をしております。
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