第14話 婚約の本当の理由
よろしくお願いします(#^.^#)
重苦しい雰囲気の中、兄と二人で恐る恐るドレスの箱を開け、目に飛び込んできたのはあの赤いドレスだった。
先日、卒業パーティーで着るドレスを選びに行って、真っ先に目に留まり試着をしたドレスだった。兄にはとても似合っていると言われていたけれど、値段を見て購入を辞めてしまったドレス。赤と言ってもワインレッドでド派手と言う訳でもなく、好みのドレスだった。
「え? 何故あのドレスが我が家に? どうして此処にあるのですか?」
血の気が引いていく感じがした。きっと私の顔は青褪めているだろう。兄の顔を見れば、兄の顔色も悪かった。
本来の淑女なら、感激して嬉しがるのかもしれない。しかもこの国の第二王子からの贈り物だ。けれど私には恐怖でしかなかった。兄と二人だけで見に行ったドレスで、それも試着までしたものだ。そんなドレスをメイナード殿下が私の好みだろうと贈ってきたことにゾクゾクと背筋が凍る思いをした。これには兄も言葉が出ないらしい。
「…………」
私は、無言でもう一つの小さい箱も開けてみた。
「ひいっ……!」
こちらの中身を見て一瞬息が詰まり、思わず一歩、箱から後退った。
その箱にはネックレス、イヤリング、髪飾りが入っていた。ネックレスとイヤリングは、兄に買ってもらった物とほぼ同じデザインで、違いがあると言えば値段を考慮して私が敢えて『銀』を選んだ部分が『金』になっていたのだ。
ここまで来ると髪飾りの予想がつく。私は小花の髪飾りが好み。やっぱり予想通りの髪飾りだった。小花のモチーフとパールビーズ、ゴールドのリーフチャームが使われワイヤーで綺麗にそれも凝った造りになっていた。
本来の淑女なら「凄く素敵ー!」と感激して喜ぶだろう。けれど、喜ぶ気になれなかった。
「なんとも世にも恐ろしいことだ……」
そう呟いたのは兄だった。そして、私は最後の箱の蓋を開ける。ドレスと同じ色の靴。ヒールの高さも高くもなく低くもなく。こちらも金色のビーズとパールが飾りをあしらっていて、とても華やかだった。
私はその靴を床の上に置き、恐る恐る右足を入れる。すんなりと入った。
ま、まさか……。
左足も入れて履いてみる。サアっと血の気が引いた。大きくもなく小さくもなく、サイズがピッタリだった。
「お兄様、怖い! 怖すぎます! 恐ろしすぎます!!」
体全身に鳥肌が立ち寒気が走る。この部屋の温度が急激に下がっているような、そんな感覚になった。私は父の顔を見ると、血色の無い白い顔をしていた。兄は、頭を抱え込んで「アイツは一体何を考えているんだ」と呟く。
「どれだけアイツはエミーリアに執着しているんだ?」
「私、どうしたら良いのでしょう?」
父は表情なく「返してしまおう……」と力ない言葉が漏れる。
父もどうしたら良いのかも分からなくなっているようだった。そして、父の無表情で呟いた「返してしまおう」という言葉に母は先程からの表情を変えず真顔で、「捨ててしまいなさい」と。
『返す』ならともかく『捨てる』は不敬になるのではないのか。
そして……お母様、真顔怖いです。真顔はやめてください! と心の中で叫んだ。
しかし、そんな母よりももっと怖いのがメイナード殿下だ。これでは、本当に四六時中、見張られているような気がしてきた。
もうメイナード殿下はストーカーだわ!
「返したところで、また同じだろう……アイツなら同じことを繰り返すかもしれない」
兄の言葉にまた背筋が凍った。
いつ、どこで見られているか分からない。ドレスにしても、装飾品にしても。靴に関してはサイズまでもがピッタリ。どうやって調べたのだろうか、私の個人情報がどこかでメイナード殿下に流れているような気がする。実際は流れているのだろうけれど。
それにしても、どうしてもここまで私に執着するのだろうか?
「お父様。なぜ、メイナード殿下は私に執着なさるのでしょうか?」
父は暫く考える。言おうか言わないか、迷っているようだった。けれど軽く溜息を吐いてから、答えてくれた。
「王太子殿下とメイナード殿下が、お忍びでお前達と遊んだことがあると言ったろう? あの時から王太子殿下とメイナード殿下は、エミーリアをとても気に入っていたようだった」
「はあああああ?」
あ、また素っ頓狂な声が……。私は慌てて口を両手で塞ぎ、チラリと母を見た。母はジロリと私を睨む。温和な性格の母はどこに行ってしまったのかしら。
そんなことを思いながら父の話に戻す。私の記憶では、王太子殿下に対してはどう接していたかあまり覚えていないけれど、メイナード殿下には好かれるような接し方はしていない。従者のように命令していたような覚えがある。けっして気に入られるような要素はなかったはずだ。
「幼い子供ながら、結婚するならエミーリアが良いと二人とも言うようになった。王家としては王太子妃、王子妃は公爵家、もしくは侯爵家と考えていた現国王は焦りだした」
それは、当然だわ。伯爵家の小娘よりそっちの方が、品格もありそうだし良いわよね。
「丁度その時に、ルピナス領の大雨の災害だ。あの災害には王家も支援に悩んでいたのは間違いない。そしてお前の祖父も資金提供に名乗りを上げたのも本当のことだ」
父の話では祖父が資金提供をし、ルピナス家の縁談を持ち掛ける。それは、私が王太子妃、王子妃になることを避けるためで、これらは王家からの要望でもあった。それは王太子殿下やメイナード殿下が私を気に入っていたからだと。
案の定、私の学園入学前に二人そろって私と婚約したいと言ってきたようだった。婚姻は侯爵家以上の貴族からと決めていた現国王は、伯爵家の私を認めたくなかった。だから、早々に私に婚約者が決まれば、彼らは諦めて侯爵家以上の方と婚約を望むだろうと思っていたらしい。
この王家といい、ルピナス家といい、碌なことを考えていないのね、と私は思った。
以前、父が王家に振り回されたというのは、こういう事だったのだろう。
しかし、父と母の思いは違った。王家との婚姻は望んでいなかったけれど、現国王が勝手にルピナス家との縁談を言ってきたのだ。幸せな結婚をさせてやりたいと思っていた両親は、これを機に王家を目の敵にするようになった。
一方祖父は、ルピナス家は一応侯爵家で、自分たちの交流もあり、知らない仲ではないのだから、大丈夫だろうと思っていたようだった。まあ、その割には抜かりなくちゃんと条件を付けて資金提供をしてくれたので、これはこれで良かった。
そして私の婚約が決まり、王太子殿下とメイナード殿下は侯爵家以上の家柄から婚約者を選ぶだろうと、現国王は思った。
王太子殿下はいつまででも婚約者を決めないわけにもいかず、かなり渋りはしていたらしいが、公爵家から婚約者を決めた。
けれど第二王子のメイナード殿下は王家が用意した縁談をのらりくらりとかわし、未だに婚約者を決めずにいた。そしてメイナード殿下の側近の話だと、私とルピナス家の縁談が破談になるだろうから、彼は破談になるまで待つということだった。
一通り話を聞いた私は、唖然とした。祖父も勝手だけれど、王家も本当にどうかと思う。両親があんなに王家を嫌うのもわかる気がした。
そして……確証はないけれど、もしかすると私とルピナス家の婚約が決まったころから、メイナード殿下のストーカー行為が始まったのかもしれない。
「エミーリア……これ、どうする? アイツに返すか?」
私の顔色を窺いながら、兄は言った。
私は贈られてきたドレスを見ながら暫く考える。
返したところで、先程、兄が言ったようにメイナード殿下のストーカー行為はきっと止まらないだろう。下手をするとストーカー行為がエスカレートしていく可能性もある。ならば、思い切ってこのドレスと装飾品一式を身に着けて卒業パーティーに出た方がいいのかもしれない。
「お兄様、メイナード殿下の贈り物で卒業パーティーに出ます。エスコートはお兄様がして下さるんですよね?」
「ああ。それは、もちろんだよ」
「じゃあ、これを着ていきます。お兄様のエスコートなら、他の方もこのドレスがメイナート殿下からの贈り物とは分からないはずですから」
兄に向って微笑むと、兄は安堵した様子だった。もしかすると、どう言ってメイナード殿下に返そうか考えていたのかもしれない。
そして私は、卒業後についての自分の考えを両親と兄に話した。
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次回更新は4月20日22時頃の更新予定をしております。
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