「焔の灯り、骸の守り」
森の中、焚き火の静かな灯りが、ゆらゆらと草木に揺らめく影を落としていた。
「……眠たそうだな」
ユウの静かな声に、リーナはこくりと頷いた。
彼女の目はとろんとしており、今にも焚き火の温もりに引き寄せられてしまいそうだ。
「寝てもいいが、油断はするな。ここは――まだ安全とは言えない」
「うん……でも、あなたがいるなら……」
リーナの言葉が小さく掠れていく。まぶたが閉じかけては開き、また閉じかける。
その姿を見て、ユウは焚き火に小枝をくべた。
「安心していいと思わせるには、まだ早いな……」
自嘲めいた呟きは風に消える。
そのとき、ユウの耳が僅かな草の擦れる音を捉えた。
焚き火の向こう、暗がりの中から影が複数、にじり寄っている。
「……やはり来たか」
ユウが立ち上がった瞬間、焚き火が風で揺れ、影が伸びる。
その中から、粗末な革鎧を身につけた盗賊風の男たちが現れた。
「よう、えらくのんきに焚き火してんなァ?」
「ちょうど暖を取りたかったところだ。火葬でいいか?」
ユウの声は低く、静かに冷えていた。
リーナが眠気を振り払って目を見開く。そこには、数の上で優勢な盗賊たち――そして、その中央に立ち向かう彼の姿があった。
ユウは指を弾く。地面がかすかに震え、闇から現れたのは、剣と盾を構えた骸骨兵たち。
何体もの骨の戦士が、ギィギィと関節を鳴らしながら盗賊たちの前に立ちふさがる。
「な、なんだこいつら……!」
「が、骸骨だと!? 化け物かよ!」
骸骨兵たちは剣を振るい、盗賊たちに襲いかかる。
最初の数人はその異様な光景と不意打ちで為す術もなく倒れた。
だが、数に勝る盗賊たちは次第に体勢を立て直し、じわじわと押し返し始める。
「チッ……数だけは揃えてきたか」
ユウがそう呟いたとき――リーナの側に回り込んでいた一人の盗賊が、素早く刃を振り上げた。
「ガキを捕まえりゃ、人質に――」
その言葉が終わるより早く、骸骨兵の盾が間に滑り込む。金属と金属がぶつかる音が夜を裂いた。
「ぐっ!? なんだこいつ……!」
「リーナ、動くな」
ユウの声とともに、骸骨兵たちが陣形を再形成する。まるで意思を持つかのように。
彼の命令に忠実に、彼女の前を守る盾となって。
「……なんで、この骸骨、私を……」
リーナの声は震えていたが、どこか不思議な安堵もあった。
彼の背中が、夜の中でゆっくりと歩いていく。恐ろしいほど静かに、しかし確実に――戦場を制していた。
(この人……やっぱり、怖い。でも……目が、離せない)
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