死者の谷にて
朝靄の森を、ふたりの影が進む。
少女はまだ眠たげに目をこすりながら、それでも優真の少し後ろを、必死についてくる。
「……今日は、どこに向かうの?」
問いかけに、優真は一瞬だけ足を止め、そして答えた。
「死者が多く捨てられる谷がある。あそこには使える素材が残ってるかもしれん」
「死者……?」
言葉の響きに、少女――リーナはごくりと唾をのんだ。
やがて、森が開け、視界の先に沈んだ谷が広がった。湿った風が、鼻をつく腐臭を運んでくる。
そこには、無数の人骨や朽ちた死体が転がっていた。
「ひ……ッ!」
少女は目をそむける。しかし優真は、そんな彼女を一瞥しただけで、淡々と谷へと降りていく。
「慣れろ。死はこの世に溢れている。俺の力は、それを拾うことで成り立っている」
そう呟き、彼は片膝をついて一体の死体に手を伸ばした。
「こいつは……まだ使えるな。骨格が崩れていない」
黒い魔力が彼の掌から流れ出す。次の瞬間、死体の眼窩に赤い光が灯り、ゆっくりと立ち上がる。
骸骨兵――。
それを、リーナは言葉も出せずに見つめていた。
「……お前が怖がろうが、拒もうが、俺はこれをやる。それでも、ついてくるなら、勝手にしろ」
背を向けて言い放つその背中に、少女は震えながらも一歩、また一歩と足を踏み出した。
(この人は……やっぱり、怖い。でも)
(それでも、あのとき、私を……)
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