死霊使いと生き残りの少女
焦げた空気と血の匂いが、静かに広がっていた。
焼け落ちた村の中、瓦礫の山を踏み越えながら、佐倉優真は無表情に死体を見下ろしていた。
「……やっぱり、死者の方が素直でいい」
骸骨の兵士が彼の周囲に並び、命令を待っている。優真はそのうちの一体を軽く指で弾いた。
「あと三体は使えそうだな。無駄死にしなくてよかったじゃねぇか」
そのときだった。
「……あなた、何者?」
焦げ跡の残る小屋の影から、少女が現れた。
髪はすすけ、服は破れ、瞳だけが異様に澄んでいた。年の頃は十かそこらだろう。だが、その表情に恐怖はなかった。
「人間? それとも死霊か?」
「どちらでもないさ。俺は――ネクロマンサー。死を操る者」
優真は少女をちらと見た。体は小さい。弱そうだ。けど、使えるかもしれない。
(……こいつは、生かしておいても損はないな。荷物持ちにでもして、死んだら死霊兵にでもするか)
少女はしばらく優真を見つめたあと、小さく口を開いた。
「私、行くところがないの。だから……ついていってもいい?」
「俺についてくる? 俺はまともな人間じゃないぞ。死体と共に歩く、化け物だ」
「……あなたは、他の人みたいに、私を見捨てなかった。だからそれでいい」
「ふーん。じゃあ、勝手にしろ。死んでも知らねぇぞ」
「うん、わかった。死んでもいい」
その言葉に、優真の心が、ほんのわずかに波打った。
(……死んでもいい、ね。ガキのくせに、言うじゃねぇか)
優真は背を向けたまま歩き出す。少女は黙ってその背を追う。
こうして、冷徹な死霊術師と、無垢な少女の奇妙な旅が始まった。
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