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不信の村と燃える倉庫

村に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 周囲の視線が突き刺さる。子どもたちは親の背に隠れ、年寄りは口を真一文字に結んだまま、眉をひそめている。


 リーナは俯き、ユウの背に隠れるように歩く。だが、ユウの歩調は変わらない。まるで、こういう視線には慣れていると言わんばかりだった。


 「……あの男、何か背負ってるな」


 「隣の子供も、どこか普通じゃない」


 ひそひそと交わされる言葉が耳に入る。だが、ユウは一瞥もくれなかった。


 唯一、声をかけてきたのは、小さな宿の老女主人だった。


 「泊まりたいのかい。……誰も歓迎はせんよ。でも、ベッドは空いてる。泊まるだけなら、銀貨一枚でいい」


 「助かる」


 そうだけ言って、ユウは宿の鍵を受け取る。


 部屋に入ると、リーナは静かに呟いた。


 「……怖い、みんな、こっちを見てくる。あんな目、初めて……」


 「当たり前だ。よそ者は常に敵だと疑われる。それが、こういう閉じた土地ではなおさらだ」


 「でも……ユウは、平気なの?」


 彼は一瞬だけ目を細めたが、すぐに表情を戻す。


 「平気じゃない。ただ、慣れたんだ。見られることにも、疑われることにも」


 リーナはその背を見つめた。どこか、寂しそうで――それでも強く、折れない背中。


 (この人は、きっと何度もこうして、一人で……)


 彼女は拳を握った。


 「……私、頑張る。ユウの邪魔にならないように」


 ユウは何も言わずに、それでもわずかにうなずいた。

翌朝、村に騒ぎが起こった。


 「火事だ! 倉庫が燃えてるぞ!」


 叫び声と共に、村人たちが走り出す。黒煙が空に昇り、乾いた木のはぜる音が村の静寂を破った。


 ユウは窓からそれを一瞥しただけで立ち上がる。


 「……行くぞ、リーナ」


 「えっ、火事なのに?」


 「だからだ。おれたちは、ただの『よそ者』じゃないと知らしめる機会だ」


 二人が現場に駆けつけたとき、村人たちは呆然としていた。消火に慣れておらず、火の回りは早い。下手に手を出せば巻き込まれる火勢だった。


 「どけ」


 ユウは躊躇なく倉庫へと歩み寄り、手を翳す。彼の足元に魔法陣が浮かび、氷の槍が瞬時に現れて火の根を刺すように突き刺さる。


 「霧氷展開――囲め」


 冷気が一気に広がり、炎を包み込んだ。


 蒸気が立ちこめた数秒後、火は見るも無残に凍結していた。


 「……魔法だ……!」


 「よそ者の男が……火を止めた……!」


 どよめきの中、ユウはくるりと背を向けた。


 「礼はいらん。だが、これで少しは話せる気になったか?」


 誰も言葉を返せなかった。ただ、その中でひとり、火事場に駆けつけていた若者が前に出た。


 「倉庫には、今度の祭りの供物があった……助かった。ありがとう」


 ユウは無言で頷く。


 その横で、リーナは村人の視線がほんの少し変わったことに気づいていた。


 (……この人、ただの冷たい人じゃない。ちゃんと、見てくれてる)


 その背中が、今度は少しだけ温かく見えた。



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