暁の兆し
静かな夜の森。焚き火の赤い光が、二人の顔を揺らしていた。
リーナはユウの少し離れた位置に腰を下ろし、じっと炎を見つめていた。唇を噛み、何かを言おうとしては、やめる。その動作を何度も繰り返す。
ユウは黙って薪をくべ、火を見つめていた。
やがて、リーナがぽつりと口を開いた。
「……あの時、骸骨が、わたしを……庇ってくれた」
「そうだ」
「それって……ユウが命令したの?」
「いや、してない。だが、あいつは俺の魔力で動いている。俺の意思が、流れたのかもしれない」
リーナは少しだけ目を伏せた。炎が反射して、瞳に揺れる。
「ありがとう、ユウ……あの時、すごく、怖かった。けど……あの骸骨、優しかった」
ユウは何も言わない。ただ、火を見つめ続けた。
リーナは膝を抱えて、焚き火に身を寄せる。冷たい夜風が、木の葉を揺らす。
「ユウって……どうして、あんな力を持ってるの?」
その問いに、ユウは少しだけ目を細めた。
「昔、色々あった。それだけだ」
「……教えてくれないの?」
「今はまだ、な」
それ以上、リーナは何も聞かなかった。ただ、そっと焚き火のそばに座り直し、少しだけ距離を縮めた。
森に、静かな火の音だけが響いていた。
夜が明け始めた。薄明かりが木々の合間から差し込み、森の輪郭を淡く照らす。
リーナはまだ眠っていた。小さく丸くなり、焚き火の残り火のそばで浅く呼吸している。
ユウはすでに目を覚まし、立ち上がっていた。冷えた空気を切り裂くように、彼は周囲を見回す。もうこの森も長くはいられない。
ふと、足元に転がる朽ちた骨に視線を落とす。昨夜倒した盗賊のひとりだ。
ユウは手をかざし、呪文を呟いた。
「――“即席の肉傀儡よ、今一度立ちて己を喰らえ”」
腐臭が立ちこめ、死体が蠢く。骨と肉がぎこちなく動き出し、ゆっくりと起き上がった。
即席のアンデッド――生前の記憶も魂もないただの動く死体。それでも、仲間だった盗賊たちにとっては強烈な恐怖の象徴となる。
ユウはそのまま命じる。
「森の奥で、生者を見つけ次第襲え。ただし、俺たちに近づくな」
腐った瞳が光を失ったまま頷いた。
ユウはリーナのもとに戻る。しばらくして、リーナが目を覚ました。
「……おはよう、ユウ」
「起きたか。出るぞ、ここはもう安全じゃない」
リーナはこくりと頷いた。まだ眠気の残る目で、それでもきちんと歩き出そうとする。
そうして二人は、夜明けの森を静かに抜けていく。背後では、地の底から甦った亡者が、ゆっくりと歩き出していた。
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