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教会にて

日は高く昇り、二人は森を抜けた先の丘陵地帯へと足を踏み入れていた。


 そこに、朽ちた石造りの建物がひっそりと佇んでいた。周囲の草木に覆われながらも、その形状からかつては教会だったことがうかがえる。柱には天使の彫刻、扉は崩れ落ちていたが、内部にはわずかに魔力の残滓が漂っていた。


 「ここ……静かだね」


 リーナは辺りを見渡し、呟いた。空気は澄んでいるが、どこか冷たい。ユウは教会跡の周囲を一巡し、警戒しながら口を開いた。


 「魔物の痕跡はない。結界の名残が、まだわずかに作用しているらしい」


 「じゃあ、今夜はここで……?」


 「ああ。夜までに準備を整えろ」


 二人は教会内部へと足を踏み入れた。崩れた祭壇、砕けたステンドグラス。だがその中心には、今もなおかすかに光を宿す聖印が残っていた。リーナはその光に引き寄せられるように、近づいた。


 「綺麗……」


 小さく呟くリーナの横顔を、ユウは黙って見ていた。


 その時だった。 


 ――カサ……。


 かすかな音。外からではない、建物内部からの気配。ユウは即座に反応し、リーナの前に立った。


 「物陰だ。リーナ、後ろへ下がれ」


 「え……だ、誰かいるの……?」


 石の床の影。そこに何かがいる。魔力の気配はない。だが――それは、"息を殺すような意思"を確かに放っていた。


 「これは……盗賊か、それとも……」


 声も気配も発さぬ、だが明確な"敵意"を持つ気配。


 その瞬間、影が動いた。


 布をかぶった影が、床を這うようにこちらへ――!


 「くっ、出ろ、骸骨兵!」


 ユウの詠唱と共に地が裂け、白骨の兵が現れる。即座に剣を構え、突進する影へと刃を振るう。


 ガキンッ!


 刃と何か固い物がぶつかる音。影の正体は、腕に鉄を巻いた痩せた盗賊だった。


 「チィッ、やっぱバレたか!」


 盗賊は叫び、周囲の瓦礫からさらに三人の仲間が飛び出す。完全な待ち伏せだった。


 「おとなしく餌食になってりゃあよかったんだよ!」


 「リーナ、下がってろ。俺がやる」


 ユウの目が細く光る。骸骨兵が一体倒れたが、二体目が盾を構えて前に出る。


 「邪魔だ、死人がァッ!」


 だが次の瞬間、盗賊の腕が切り飛ばされた。


 「……っ、あああああッ!?」


 ユウの視線は冷たいまま、呪文を紡ぐ。


 「骸骨兵では足りぬな……次を出すまでもないが」


 戦いは、始まったばかりだった。

骸骨兵の盾が砕ける音と、盗賊の怒声が交錯する。リーナは身を伏せ、震える手で床の聖印を掴んでいた。


 「死ねやァッ!」


 一人の盗賊が骸骨兵を押し切り、ユウに迫ろうとしたその瞬間。


 「……動け」


 ユウが低く囁いた。先程斬り伏せた盗賊の死体が、ピクリと動く。


 「なっ……!? ジ、ジン……おい、ジン、何で動いて――」


 その盗賊の叫びが終わる前に、「ジン」と呼ばれた死体はゆっくりと立ち上がり、目から虚ろな紫光を放ちつつ、仲間へと手斧を振り下ろした。


 「や、やめっ……ぎゃあああああッ!!」


 肉を裂く音と、悲鳴。混乱した盗賊たちは後ずさり、恐怖に呑まれていく。


 「死人を……操ってる……っ!」


 「そう。"死者はただの素材"。無駄にはしない」


 ユウの声は冷たかった。骸骨兵と即席の屍兵が二手に分かれ、残った盗賊を圧倒する。死者の肉が、生者の喉元に喰らいついた。


 リーナは震えながら、その光景を見ていた。だが彼女の心には、ただの恐怖だけでなく――別の何かが芽生え始めていた。


 (この人は……怖い。けど……わたしを守ってくれてる)


 叫び声が止んだ時には、既に戦場は死と腐臭に満ちていた。


 「立てるか、リーナ」


 ユウが手を差し伸べる。リーナはゆっくりと頷き、その手を取った。


 「……うん、ありがとう……ユウ」


 彼女の声には、震えの中に小さな決意があった。


 ユウは彼女から目を逸らさず、淡々と告げた。


 「ここはもう使えない。次の休息地を探す」


 そして二人は、血の染みた教会跡を後にし、再び夜の森へと歩みを進めた。



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