焚き火と影、そして白い盾
リーナの目の前に、骨の腕が突き出されたのは一瞬のことだった。
茂みの陰から飛び出してきた盗賊のナイフが、その白骨の腕に深く突き刺さる。火花と共に乾いた音が鳴った。
「……っ!」
思わず目をつむったリーナだったが、痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けると、骸骨兵が盾のように彼女の前に立ち、剣を振るって盗賊を後退させていた。
「ど、どうして……私を……?」
その問いに応える者はいない。骸骨兵は喋らない。ただ命令に従い、主の意志を体現する存在。
だけど――
(守ってくれた。私を、命令じゃなく……)
リーナの胸に、ざらついた不安と、ぽつりと灯る安心が同時に湧いた。
彼女は震える膝を押さえ込み、目の前の骸骨兵の背を見つめる。
その背は、どこか優真の背と重なって見えた。
「せ、戦え! ビビるな、ただの骸骨だろうが!」
盗賊の怒号が木々に響き、仲間たちが剣を振り上げて襲いかかる。
だが骸骨兵たちは数こそ少ないが、まるで生きているかのように息の合った動きで応戦した。
「な、なんでだ、動きが……連携してる!?」
「お前ら、まとめて死ね」
焚き火の向こうから歩いてくる影――優真。
その手には、淡く禍々しい黒い魔力が灯っていた。
盗賊の一人が彼に向かって駆け出すが、その瞬間――
「っがあッ!」
骸骨兵の一体が足払いをかけ、そのまま喉元に剣を突き立てる。
戦況は一気に傾いた。意識のある盗賊たちは顔を青ざめ、残された数名が武器を投げ捨てて逃げ出そうとする。
「……もういい」
優真が片手を上げると、骸骨兵たちは動きを止めた。
まるで糸が切れたように、ただ静かにその場で待機に入る。
森に再び、静寂が戻る。
倒れた盗賊の遺体。怯えたように地に座り込む数人の生き残り。
その中心に、骸骨兵とリーナ。そして、焚き火の光に照らされた優真の姿があった。
リーナは唇を噛みしめながら、ゆっくりと立ち上がる。
「あなた……」
言葉が続かない。どうしてか、胸の奥がざわつく。
優真は彼女に目を向けると、静かに言った。
「怖かったか?」
リーナは少しだけ、首を横に振った。
「……少し、怖かった。でも、あの骸骨……私を、守ってくれたのよ」
「そうか」
その一言だけを返す優真。だが彼の背からは、どこか安堵の気配が漏れていた。
リーナはそっと、骸骨兵の折れた腕に手を伸ばす。
温かさはない。けれど――
(この人も、この骸骨も……冷たいのに、温かい気がする)
そして、彼女は少しだけ微笑んだ。
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