逆重力の法則
僕も診療してもらおう。
そう思って今来ているのは、”おとぎ話診療所”。
自分の人生を語ると、先生が自分専用の”おとぎ話”に落とし込んでくれるのだ。
受付で渡されたのは、『今までの人生のことを教えてください。』と書かれたワークシートだった。
軽い気持ちで来たのに、書かなければならない欄が多過ぎた。
こんなに自問自答したのは、就活の時の自己分析以来だ。
と、言いつつも、途中で面倒くさくなったので、適当に書いた。
Q・大学時代に頑張ったことはなんですか?
A・あ
Q・大学時代に乗り越えた困難はなんですか?
A・あ
・・・この調子だ。
受付にワークシートを提出し、少し待った後、呼ばれたので診察室へ入った。
椅子に座ると先生が診断結果を言ってくれた。
「あなたのおとぎ話は”あいうえお”です。」
「はあ、それテキトーすぎじゃないですか?」
「私も、テキトーすぎだと思い、何度も考えたのですが、何度考えてもこの結果になりました。」
「とりあえず、話を聞かせてもらえませんか?」
そして先生が語った話は時間にして4秒もかからなかった。
「愛が上に落ちる。」
「はあ。それはどういうことですか?」
「自分で考えてみてください。そこからはあなたの領域です。」
それから10年間、毎日のように「愛が上に落ちる。」を考えていた結果、発見してしまった。
物体に質量があるように、愛にも質量があることに。
物体とは違う質量ではあるが、僕は愛を定量化することに成功した。
そしてどういう訳か、愛は質量が重くなればなるほど、上に引っ張られる力が強くなる。
僕はこれを逆重力の法則と名づけた。
それから10年、毎日のように逆重力の法則のことを突き詰めた結果、発見してしまった。
愛を可視化する方法を。
まだ成功はしていないが、自分で実験することにした。
可視化実験の途中で、僕の心臓部分から風船が生えているように見えた。
そして僕は浮き始めた。
なんと、可視化どころか、愛の物質化に成功した。
そして浮き初めて、上空10mくらいのところで、止まった。
おそらく、その地点で重力と逆重力が釣り合ってるのだ。
まさに、愛が上に落ち、自分自身は下に堕ちようとしている。
思考を巡らせていたが、風に流されて地面に足がついた。
そして自分で実験を続けていくと、愛情を失うと、逆重力の法則は、愛の向きが逆になり、重力が2倍になることを発見した。
僕の実験結果を見て、ベンチャー企業などが「心で浮きませんか?」という謳い文句で営業し、愛の物質化装置を売り始めた。
今や人々は愛の大小には依るが、空中さんぽをすることが当たり前になった。
その光景を見て、僕は満足した。
この世界が愛おしく思えた。
その瞬間僕は愛が強過ぎて、上空どころか月に到達した。
愛は上に落ちる。
もしかしたら、愛の重力を発生させていたのは月なのかもしれない。
というか息が苦しくなってきた。
こんなに僕を苦しくさせるなんて!なんて世界なんだ!
そう思うと、今度は一瞬で地球上にいた。
愛が消えたからだ。
さて、この体験でも貴重な新発見をした。
まだまだ研究は終わらない。
end