ある空想上の世界-6
一人、また一人と拉致された少女たちが運ばれて来る。
「皆人間か。能力者はいないみたいね。警察が紛れ込んでいる様子もない、そしてこの場には十人の女の子。あいつらからしたらこの人数で充分でしょうね。というか心を読んだら言ってたしね。充分だって。これから何されるか分かったもんじゃないし、絶望的な状況なんだけど。なぁんで貴方はそんなに冷静なのかしらねぇ?」
「僕のことですか?」
「そうよ、この状況で表情一つ変えないし、心の声も不安そうな声は聞こえないし。ていうか貴方の心の声聞こえないんだけど」
「貴方が自分の能力を言わなければ僕の心の声は読めてたと思いますよ」
「どういう事? 人間誰しも何か考えているものでしょう?」
「じゃあ、僕にはそれが無かったって事ですね」
「貴方、そういう能力を持ってたりするの?」
「どうでしょう」
「ここから抜け出す方法があるんでしょ?」
「まぁ、あるにはありますけど・・・・・・」
「じゃあその方法ってなんなの?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ。僕が犯人たちを倒してハッピーエンドですよ」
「何を言ってるの? 能力者に人間は太刀打ちができない。それだけ能力っていうのはヤバいものなの。人間と能力者は別物なの。能力者に人間が勝てる道理なんてないの。分かってるでしょう? ・・・・・・なのにどうして貴方はそんなにも自信満々なの?」
「だから言ってるじゃないですか。少なくとも・・・・・・今は能力者じゃないと。でも」
俺は拳を握りしめて
「え?」
その瞬間、目の前にいる少女は目を見開いた。いや、彼女だけじゃない。周りの少女たちも同じように目を見開いた。まぁ、そりゃそうか。少女が突然、少年になったのだから。
「え? あれ? だって貴方、女の子じゃ、あれ? 急に身体や顔つきが変わった? もしかしてそういう能力だったりする? じゃあ、なんでさっきは能力者じゃないって」
「言いましたよね、今は能力者じゃないと」
「まぁ、俺の能力について話そうとも思いませんし勝手に考えといて下さい。とりあえず、こっちに手を寄せてください。ロープ断ち切るんで」
「え、あ、うん」
「まぁ、安心しておいて下さい。俺が犯人たちに負けるわけがないですし、弱点だって貴方に教えて貰ったので。正直、教えて貰わなくても余裕でしょうけど」
「本当に、貴方何者?」
「ただの人間ですよ。能力者ですけど」
「ちょっと待って、貴方私と会ったことない?」
「いや、無いですけど」
と俺が言うと
「私も、貴方の事知ってるような・・・・・・」
と同じく捕まっていた少女が声を上げた。
「そうだ! 思い出した。貴方、テレビで最強だって放送されてたあの――」
そう叫びかけた少女の口元にそっと人差し指を当てて、
「シー、ですよ。俺は正体がバレたくないんです。平穏な日々を送りたいと考えてます。ですから皆さん、助けてあげますので俺のことは口外しないようにお願いします」
「有名になったら何か嫌なの?」
「まぁ、嫌ですね普通に」
「貴方は、警察って訳じゃないのよね?」
「警察じゃないですよ。俺は警察アンチなんで」
「貴方、警察に何かされたの?」
「ま、適当に考えといてください。俺は警察のように正義の味方じゃないですし今回はあくまでついでですので」
「違う」
「え?」
「ついでなんかじゃない。貴方は助けに来た」
「なんでそんなこと言い切れるんですか? 俺は心の中ですら呟いたつもりないですけど」
「なんか、そんな気がして」
「それは見当違いですよ。あくまで俺は歩いていたら拉致されただけ。警察と違って俺は正義のヒーローをしたいわけじゃないので」
「けど、助けてたじゃない? テレビでしか見てないけど、暴走する能力者を・・・・・・たった一人で止めてた。それって、やってる事正義の味方じゃないの? 違うの?」
その言葉に、俺はため息をついて、
「ご想像におまかせします。っと」
その瞬間、足音がこちらに近づいてきた。どうやら、犯人たちがこっちに来ようとしているらしい。それに気づいた俺は拳を握り締めて、
「ロープを解くのは少し待っていただけますか? ・・・・・・大丈夫ですよ。十秒以内に終わらせますので」
そうして、俺らはあの妙な空間から出ることができた。
「本当に、十秒で終わった」
「まぁ、能力も把握してましたし当然だと思いますよ。 それに、俺の能力は誰にも止められないものですし」
「見ててもどんな能力か全然分からなかった。気になるんだけど、多分教えてくれないわよね?」
「よく分かってるじゃないですか。教えませんよ、絶対に」
「謎な男ね」
「謎で生きたい人間ですから」
「それで、貴方はどうするの?」
「帰りますよ、家に」
「ここにいる意味は無いですしね。けど、貴方は少し警察の人間にあった方がいいかもしれませんね」
「警察の人間に?」
「多分、この周辺で捜索してる警察がいるはずです。そいつに会って、犯人たちはここで気絶してるって伝えてください」
「貴方がやれば・・・・・・いや、貴方は警察と関わりたくないんだったわね」
「そういうわけです。なので、後処理をお願いしたいんですよ」
「けど、警察にどう説明したらいいのよ。私が捕まえた、じゃ説明つかないと思うんだけど」
「そうですね、どうせ犯人たちが白状するでしょうし普通に白髪の男性が犯人たちを捕まえたって言えばいいですよ。もちろん、俺が女になれるってこともばらさないでくださいね」
「わかったわ。任せて頂戴」
「それじゃ俺は警察に見つかる前にさっさと帰って」
「待って。どうして有名になろうとしないの? それだけ最強の能力があるんだったら何もかも手に入ると思うんだけど。そういうのがあるから有名になりたいだとか出てくるもんだと思うのだけど。なのに、どうして貴方はそんなにも無欲なの?」
「俺が今更正義の味方として有名になっても意味が無いからですよ。この世界の正義の味方はあくまで警察、俺じゃない。そして、俺は警察のことが苦手です。だから警察に入ろうとも思わないし警察と似たようなことをしようとも思わない。だからもしかすると、俺はいつか世界を敵にまわすかも知れませんね。・・・・・・最強の、悪役として」
「それはないでしょ」
「なんでそんな事が言えるんですか?」
「だって、貴方が本当の悪だったら私たちを見捨てるもの。今回、貴方のやったことはデメリットにしかならない。自分だけ脱出すれば身バレする危険もなかった。けど今回、貴方はその危険性を知っておきながら私たちを助けた。助けなかった方が貴方に利点があったのにもかかわらずよ、だから貴方は本当の悪にはなれないと思う」
「そうですか」
俺はそう言って、
「確かに、今回やったことは危険でしたね、気づきませんでしたよ」
「白々しいわね」
「いやいや、ほんとですよ? あ〜あ〜今心の底から後悔してますよ。放置しとけばよかったって」
「じゃあ、今から私を殺して口を封じれば? 私が警察に言うかもしれないわよ? その危険があるんだから始末しておくべきだと思わないの?」
「生憎と、殺して警察に付き纏われる方が面倒だって分かってるんで」
「・・・・・・言い逃げ道があったもんね」
「さぁ、なんの事やら。そういうことですから後は頼みましたよ」
「・・・・・・貴方、名前は?」
「言うと思います?」
そう言い残して俺は帰路を辿った。それにしても、
「心が読める能力、かぁ。普通に警察が欲しがりそうな能力だよな」
とそんな事を呟きながら、俺は夜の道を歩くのだった。
「これが、犯人たち」
「そうです、犯人たちです。一人が空間を作る系の能力だったので見つけようと思っても見つけられませんでしたよ」
「もしかして、君が解決したの?」
「まさか、生憎とそういう能力は持ち合わせていないので。とある、白髪の男性が私たちを救ってくれたんですよ」
「白髪の、男性」
僕はそれを聞いた瞬間、とある少年を思い出した。あの、能力者を圧倒した最強の能力者。もしかしてあの少年がこの子たちを救ったのだろうか?
「とりあえず、署に来ていろいろ聞かせてくれるかな?」
「いいですけど、話せることそんなにないですよ?」
そんなことを言う少女を連れて、僕は署に向かうのだった。本当にあの少年は何者なんだろう、とそんなことを考えながら。