とある空想上の世界-5
それには、俺が舞冬の家からの帰り道に出会った。
「へっ、どうして君がここに?」
「貴方こそなんでここにいるんですか」
「僕はまぁ、警察としての仕事でここにいる訳だけど。なぁんでまた君はこんな夜更けに外にいるのかなぁ。言ったでしょ?夜は危ないって」
「いやまぁ、用事があったんで」
「こんな時間まで用事ってなに?」
「まぁただ友人の家に遊びに行ってただけですよ」
「へぇ、怪しいねぇ」
「またそうやって僕のことを疑うんですか」
「いやだって、警察としての勘が・・・・・・」
「その勘、1度外れちゃってますから当てにならないですよ」
いやまぁ、正直当たってるわけだが。実際俺は能力者だし、その能力も能力だからなぁ。
「いやまぁ、そうなんだけどさぁ・・・・・・。けどなんかなぁ・・・・・・。まぁ、今はいっか。とりあえず早く帰宅するようにね?」
「今帰宅途中ですからこのままいけば帰れますよ」
「そうなんだ。じゃあ気をつけてね」
「もしかして、なにかあったんですか?」
「そうだね、最近なんかあったらしくて」
「教えてくれないんですか?」
「いやまぁいいんだけど言ったら怖がらせちゃうかなって」
「別になにかあったからって怖がりませんよ」
「そっかじゃあ言うけど、最近ここで拉致があったっぽいんだよね」
「拉致?」
「うん、可愛い女の子が拉致にあったらしくてさ。それを今探してるんだよね」
「で、まだ居所は掴めてないと」
「そうなんだよね。この辺だって睨んでるんだけど。ホント、どこにいるんだろ」
「捜索に長けてる能力者とかはいないんですか?」
「いるよ。いつもならすぐに犯人を見つけられるんだけど、今回はアバウトなんだよね。だから僕が直接探しにきてるわけ。けどこの辺って言われてもこの辺のどこなのか分からないんだよねぇ。だから、気をつけて帰ってってこと」
「気をつけても拉致されるものは拉致されると思いますけどね。僕無能力者ですからね? 流石に能力者に拉致されたら抵抗できないですよ」
「だから、夜になる前に帰宅しなさいって言ってるんだよ。昼間なら人がいるし拉致されてもなんとか対応できるけど。この時間だと目撃者を作るのすら難しいし。だから気をつけてね、危ないから」
「わかりました。気をつけて帰ればいいんですよね?」
「うん、あ! それとさ」
「なんですか?」
「責任、どうするの?」
「あぁ、そんなこと言ってましたね。まだ特に考えてないので大丈夫ですよ」
もともと責任なんて取らせるつもりなかったしな。保留ということにしておこう。
「そう、けど次いつ会うのか分かんないよ?」
「いいですよ、別に。まぁ、捜索頑張ってください。傍から応援しときますので」
「君絶対応援してないでしょ」
「いやしてますよ??」
「その眼で分かるよ」
眼だけでわかるもんなのか? まぁ、応援なんて一ミリもしてないし彼の言っていることは事実なんだけどな。
「なんか、可愛いけど可愛くないよね君」
「なんですか? 口説いてるんですか? やめてください気持ち悪いですごめんなさい」
「・・・・・・」
「じゃ、じゃあ僕はこれで失礼しますね。早く帰りたいので」
「君、名前は?」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「だって、君って呼ぶのもアレじゃん」
「別にいいですよ。どうせそんなに会わないですし。というかこれで最後って可能性もありますからね」
「多分僕たちはまた会うよ」
「なんでそんなこと分かるんですか?」
「警察としての勘、かな」
「それ外れてるじゃないですか」
「けどそんな気がするんだよ、だから教えて」
「言う必要ないし、言いません。次会った時に教えますよ」
「言ったからね? 次会った時に教えてもらうね。じゃあ、気をつけて帰ってね」
「わかりました。頑張ってくださいね」
と思ってもない言葉を呟いて俺はその場を後にした。そして、俺は人気のなさそうな路地裏を歩いていた。・・・・・・やがて、
「君、一人?」
と突然誰かに声をかけられた。その言葉を聞いた時にはもう遅かった。その誰かに口元を抑えられて、・・・・・・そして。気がつけば俺は見知らぬ場所にいた。どうやら手を何かで縛られているらしい。・・・・・・拉致、か。
「・・・・・・そう、拉致されてるのよ」
「ひゃいっ!! びっくりした」
隣に、俺と同じく手を縛られている少女を見つけた。えっと、誰だこの人。
「私は遠月瑠菜、貴方と同じく拉致された人間よ」
「・・・・・・え?」
俺はその言葉に違和感を覚えた。俺は今何も口に出てないのに、何でこいつは自己紹介をしたんだと考えていると
「・・・・・・私、心読めるから」
「なるほど、そうですか」
どうやらこいつは能力者らしい。心を読む、か。それなら拉致されても抵抗できないな。
「ほんっとそうなのよねぇ、戦闘系じゃないから抵抗なんて出来たもんじゃないわ。貴方は? 能力者じゃないの?」
「生憎と無能力者です」
「・・・・・・でしょうね。能力者だったら抵抗できてるもの。しっかしまぁ・・・・・・貴方がわざと捕まってきた警察とかなら良かったんだけど、ただの一般人だとは。期待するだけ無駄だったわね」
「勝手に期待されても困るんですけど。僕も貴方と同じで拉致された被害者なんですよ?」
「それは知ってるわよ。でも、それくらい許してよ。私だってこんな状況なんだから少しでも期待しちゃうわよ。だって・・・・・・希望がないもの」
「希望が、ない?」
「えぇ多分私たち奴隷として売られるわよ。拉致した男の心を読んだの。そしたらね、私たちを弄んだあと奴隷として売ることを目論んでたわ。・・・・・・最悪よね。日常から気づけば非日常よ。多分、あいつらはまた新しい子たちを拉致してくるわ。たしか、十人くらいを目安にしてたわね。その中に警察の人間がいることを祈るのみね」
「でも、警察も捜索してるみたいだけど。だから来るんじゃない?」
「主犯は三人で全員能力者。そのうちの一人が空間を創り出す能力で残りの二人が戦闘系の能力なの。つまりこの場所は創られた場所だということ。だから私たちの場所は分からないの絶対にね。この場所に連れてこれるのはその能力者だけだから。警察が来るのを待つしかないの。まぁ、望みは薄いけどね。それでも縋りたくなるのよね。けど、貴方なにか策があるの?」
「・・・・・・特に無いですけど」
「じゃあなんでそんなに落ち着いてるの? 心の中も静か。・・・・・・冷静すぎるの。もしかして貴方、能力者なの?」
「・・・・・・少なくとも今は能力者じゃないですよ」
「じゃあ、どうにかなる可能性があるのね」
「・・・・・・あるとも言えますが今はなんとも。あと、お願いがあるんですけど・・・・・・」
「なに?」
「これから起きることは口外しないでください。そしたら僕は貴方を助けます」
「無能力者なのに? 貴方ただの人間なんでしょ?」
「普通の人間ですよ」
「じゃあなんで・・・・・・」
「・・・・・・その二人の能力を教えて貰えますか?」
「いいけど、一つ聞いていい?」
「なんですか?」
「貴方、何を考えてるの? 貴方の心が読めない、どうして?」
「何も考えてないから何も聞こえないんでしょう? つまり僕はなにも考えてないってことですよ」
「分からない、貴方という人間が分からないわ」
「分からなくていいですよ。待てばいいんです。時間が経過するのを。時間が経てば貴方はいつも通りの日常に戻れますから」
「貴方、何者なの?」
「言ってるじゃないですか」
俺は笑いながら、
「人間ですよ、少なくとも・・・・・・今は」