2 とある空想上の世界-1
この世界には能力というものがある。所謂異能の力だ。それを使えるやつがいれば、使えない奴もいる。と言うよりも使えない人間がほとんどだ。故に、能力者は貴重だ。だが、問題がある。もしも、能力を得た人間がどうしようもない人間だったなら。そして、その人間が暴れたりしたら、その時はもう、能力者しか止めることはできない。そんな、2種類の人間が入り交じるこの世界で・・・・・・俺こと如月奏音は今を生きている。
「何で金を増やす能力が私にはないのかなぁ〜」
「そんなんあったら色々と終わるぞ」
と俺は友達の柊舞冬とそんな会話をしながら街を歩いていた。
「どう考えてもこんな妙な能力があっても金にならないんだからさぁ、そういう能力が欲しかったわ」
「また今月ピンチなのか?」
「そうじゃないならこんな話してないわよ」
「そうだな。少なくとも金があるやつの発言じゃないことは確かだ」
「でしょ? つまりそういうことよ」
「なんで私には空を飛ぶくらいの能力しかないわけ? 意味わかんないでしょ」
「能力があるだけ感謝だろ。この世界には能力を持たない人間がザラにいるわけだからな」
「けど、アンタだって口癖のように愚痴を言ってるじゃない。こんな能力いらなかったってさ」
「いやお前、俺の能力ならそう考えたって当然だろ」
「それでも、能力貰えてるんだったらグチグチ言わない方がいいんじゃないの?」
「お前は空を飛べるという利点のある能力だからいいじゃないか。それに対して俺なんて・・・・・・」
はぁ、とため息をつきながら、
「確かに能力としてはめちゃくちゃ強いけどさぁ・・・・・・」
「強いんだったらいいじゃない、能力を使えばアンタが最強なんだから。まぁ、そんなこと言ってたって意味ないしこの辺にしときましょうか」
「だな、無駄な議論だしな」
「というかさ、なんか中途半端よね?」
「何がだ?」
「能力者ってさ、それなりに少ないわけじゃん? けど、全然いないわけじゃない。千人に1人程度じゃん?」
「まぁ、割合的に見たらそのくらいか」
「なんか、それじゃあ特別感ないわよねぇ」
「お前、そんなのも求めてたのか」
「当たり前じゃない、10万人に1人程度ならまだしも千人に1人はねぇ・・・・・・。なんか、結構希少価値が失われてるわけじゃない?」
「そうか?千人に1人でも希少価値は充分に高いと思うぞ?」
「アンタはそう思っても私は思わないのよ。つまり、アンタはその程度の人間だったってこと」
「あれ? なんで俺馬鹿にされてんの?」
流れるように馬鹿にされてしまった、なぜだ?
「子供の頃はテレビとかに出てチヤホヤされてたけどさぁ。今となっては私の能力も薄れてきちゃってチヤホヤされなくなったのよねぇ」
「所謂過去の栄光ってやつだな」
「悔しいけどそういう事なのよねぇ。私の能力なんてただ空飛べるだけだし、それにありがちな能力だしね」
「だが、俺からしたらめっちゃ便利な能力だと思うぞ? だって空飛べるんだぞ? ロマンしかないじゃないか」
「アンタだって同じことできるじゃない」
「いや、できねぇよ流石に。空飛ぶのは絶対無理だ」
「そうかしらねぇ、私は案外いけると思うけど、それにアンタってテレビとか出てないしチヤホヤもされてないし認知すらされてないわよね」
「まぁ、俺がそういうのバラしてないからな」
「アンタの能力がバレたら確実に引っ張りだこでしょうね。そんなヤバい能力、正直羨ましいわぁ」
「じゃあお前、俺の能力が欲しいってのか?」
「正直いらないわねぇ、1日貸してくれる程度でいいかも」
「はぁ、な〜んで俺はこういう能力になったんだろうなぁ」
と俺が肩を落としながら歩いていると、その瞬間・・・・・・甲高い絶叫と共に轟音が響き渡った。
「おっとややこしいことが起きちゃってるみたいねぇ」
音がした方向に顔を向けると何故かいくつかの建物が倒壊していた
普通の人間だったらこんなことをできるはずないし・・・・・・
「能力者が暴れてるっぽいなぁ」
「んじゃ、アンタ頑張りなさいねぇ」
「何で俺に任せるんだ」
「だって私は空を飛ぶくらいしかできない能力よ? 戦闘ってよりサポート的な能力なんだから勝てるわけないじゃない。それに対して、アンタは完全に攻撃に特化してるんだから、どう考えてもここはアンタが対処するべきでしょ」
「そう、なんだけどなぁ。わかるだろ? 俺は能力を使いたくないんだ」
「知ってるけど、じゃあ、この騒ぎをそのままほっとくって言うの? そんな事したら被害がもっと出るんじゃないかしらねぇ」
「・・・・・・痛いとこついてくるな、お前」
「当たり前の正論を述べているだけよ。・・・・・・少なくとも、私が強かったら対処してるけど私弱いもの。だから私もアンタを頼るしかないってこと、・・・・・・やってくれるわよね?」
「・・・・・・はぁ、分かったよ対処してくればいいんだろ? まぁ、大事になる前にパパっと終わらせるさ。・・・・・・後の始末的なのは頼んだぞ?」
「まぁ、そのくらいならしてあげるわよ。ほら、さっさと止めてきなさいって。能力者は能力者にしか止められないんだからね。けど、アンタの能力は・・・・・・能力者でも止められないほどのヤバい能力なんだから」
「止められるやつは止められるだろ。ま、これまでの人生の中で・・・・・・俺を止められたやつなんていなかったけどな」
予め宣言しておくと俺の能力は多分最強だ。最強だし、誰にも手が付けられない、そういうもんだと思う。だから、能力者が暴れていても俺は自信満々に介入することができる。故に俺はその暴れている能力者に告げた。
「こんばんは。少し手合わせお願いしてもよろしいですか?」
とそっと一言。笑みを浮かべながら、俺は能力を発動するのだった。
「・・・・・・ふぅ」
結局なんの能力使いか分からないまま10秒くらいでコテンパンにしてしまった。能力者はそこでノビてるし、多分駆けつけてきた誰かが捕まえるだろう。大事になる前にさっさと身を隠さないとな。これがバレるとやや面倒な事になるからなぁ、と。俺はそんなことを思いつつ、現場から離れようとして・・・・・・
「ちょっと待って、何者?」
と誰かから声を掛けられた。そちらを見てみると見知らぬ少年が立っていた。極力時間を使いたくない俺はそれを無視して立ち去ろうとしたが
「逃げないで」
と言われるもんだから立ち止まってしまった。
「なんだ? 俺になんか用でもあるのか?」
「いや、ちょっと君のことが気になって。だってさっき暴れてた男、どう考えても普通に強い能力者だったわけじゃん?」
「確かに、それもそうだな」
一瞬で終わったから俺はよく分からなかったのだが、
「それを一瞬で倒して、君、どんな能力持ってるの?」
「言いたくない。じゃあな」
「駄目! 絶対に逃がさない!」
するとその少年は俺の手を掴んできた。
「確かに君は今回能力者を倒したのかもしれない、正義を執行したのかもしれない。でも、能力は1つ間違えれば」
「色んなやつに迷惑がかかる、だろ? 分かってる。だから俺はこれまでこの能力を使ってこなかったんだ」
「使ってこなかったって証拠はないでしょ? 立ち話もなんだしついてきて」
「何処に連れて行く気だ?」
「警察署だけど?」
「幼い顔してお前、そっち側の人間かよ」
能力者が何か問題を起こした時、それを止めるのが警察の役目だ。最近じゃ、能力者のおかげで普通の人間の犯罪は減り、逆に言えば、能力者しか犯罪を犯さなくなってしまった。最近じゃ、警察は能力者を取り締まる立場にある。・・・・・・故に警察からしたら俺みたいなヤバいやつはマークしておきたいのだろう。だが、警察がマークしようが、俺を倒すのはほぼほぼ不可能だと思うが・・・・・・。
「ちなみに言うと、警察署には行かないぞ、絶対に」
「別に、君が悪いことをしたわけじゃないんだし、悪く扱うつもりはないよ。というか、今回は逆に正義を執行してるわけだからね」
「だとしても、だ。お前が俺を警察署に連れていこうとしてるのは俺の能力が危なそうだから、だろ? そんな誘いに乗るつもりは無いし、生憎と用事があるもんでな」
「駄目だよ、君をここで逃がす訳にはいかない。何としてでも僕は君から事情を聞くし、能力を聞き出す。だって君は、それだけヤバい能力を持ってるんだから」
「結局、俺の能力が危険視されてるから連行されそうになってんだろ? はぁ、人助けをしたつもりがまさかこんな面倒な事になるなんてな」
「正直、それは悪いと思ってる。君は善の行動をしてくれたのにこうやって疑ったりして。けど、少しでも危険があるようならその危険を未然に防ぐのが僕たちなの、だから僕たちのことを少しでも考えて色々と話を聞かせて欲しい。絶対に悪いようにはしないから」
「しつこいやつだな、お前も」
俺はため息をついて俺の手を掴んでいたその手を強制的に振りほどいた。
「嘘、何でこんなあっさりと!」
「知るかよ」
というかコイツよくよく考えたら警察の手先なんだったら間違いなく能力者だよな。ま、どんな能力でも俺には関係ない、か。そろそろ時間だし、立ち去らないとまずい。だから俺は苦笑をして、
「悪いな、また今度会えたら会おう」
そう言って俺は全力で走り去った。10分程度走り続けてようやくあの少年の気配がなくなったところで俺は足をとめた。
「こうやって危険視されるから俺の能力は誰にも言えないんだよ」
あまりにも強すぎるから、だからこれを隠し続けないといけない。だが、警察に見つかったとなれば面倒になりそうだ。だがまぁ、
「人生、なるようになれってやつだな」
と空を見上げながら俺はそう呟くのだった。