Charlotte ⅩⅡ|その虚構、崩壊につき
「この世界の真実を話すよ」
ラプラスは俺に、いや俺たちにそう言った。この世界の真実。それは所謂仕組みとか先程言っていた神がどうこうとかだろう。
そう思い、
「教えてくれラプラス、どういう意味なのか」
と問うと
「それは俺から説明するぜ」
と別の人物の声がする。
「え、なん、で」
天ともかが驚愕し、声をもらす。何故そのような声をもらしたのか、謎の声の正体を見てようやく理解した。白く、長い髪。所々見える黒髪。光を失った紺碧の瞳。そしてその身に纏う禍々しいオーラ。
「もしや、お前は、、、」
信じ難い。だがそれしか考えられない。俺は直感に従い、その言葉を絞り出す。
「俺、なのか?」
「あぁ、そうだ。俺の名前は如月奏音。そして、全てを絶望へと導く神だ。そうだな、2人奏音がいるのも分かりずらいか。なら俺のことは、『絶』。そう呼ぶといい」
と目の前に降り立った男は自らを『絶』とそう呼ぶように言い、
「言った通り、俺は絶望を司る神だ。ここへ来た目的は2つ。真実を話すため、そして」
続けてそいつはその言葉を告げる。
「お前らに絶望をプレゼントしに来たぜ」
「ふざけんな、誰がお前なんかに絶望するかよ!」
俺は能力で時を止め、初撃を入れようとした。
「奏音!!だめ!そいつには!」
とラプラスの叫びを途中で遮り、能力を発動する。そして『絶』にその手が触れると、その瞬間だった。俺は、気づけば岩壁に叩きつけられていた。
『おいおい!いくらなんでも弱すぎだろ。これじゃあすぐに絶望しちまって面白くないだろ?もっと頑張ってくれよ!』
そう言って俺に迫る『絶』。それを
「まて!何故!お前が能力を行使できる!」
とラプラスが叫び、謎の光で『絶』を拘束する。だが、
『何故?簡単だ。そんなの、代償を払えば良いだけだからな』
何を言っているんだこいつらは。俺の能力を完全に無効化できるような力を持つ『絶』。ラプラスは本来あるはずの能力とはまた違う力を使った。そして話を聞く限り本来『絶』は能力を行使できない状態にある。このくらいか。と状況を軽く整理しながらゆっくりと身体を起こす。
『ほぅ?立つか。腐っても、人類最後の希望ってか?笑えるぜ』
「俺が人類最後の希望だって?おいおい、冗談は俺と同じ顔だけにしといてくれよ」
そう返してから俺は構えを取る。完全な戦闘態勢。相手が相手だ。こっちは向こうのことをまだ知らない。だが、恐らくこちらの手札は全て割れてるだろう。ならば、
「それなら、神にどこまで通用するのか、なぁ『絶』。俺と、ガチ対決やろうぜ」
と互いに戦闘態勢に入った途端。
「『神の権能』」
ラプラスが横から力を使い、俺たち2人の動きは止まる。
「ラプラス!何してんだ!」
「落ち着け!奏音が勝てるような相手じゃない!今の君では!勝てない!」
とラプラスが言う。それを聞き俺は
「おい、そろそろ説明してくれよ。ラプラスも、『絶』、お前も。お前らは何者で、この世界の真実ってなんなんだよ!」
と抑えきれない感情に任せて言葉を吐いた。
「そう、だね先に話すべきだね。『絶』、ここは引いてくれないか?元々君も話す予定なんだろ?」
『ふっ、そうだな。先に話した方が絶望が深くなる』
そうしてラプラスは話し始める。
「皆、よく聞いてほしい。この世界の真実を」
「教えて、ピーちゃん」
「僕も知りたい」
と天、もかもやってくる。
「この世界の真実。それは、」
全員に緊張が走る。そして1拍おいて、
「この世界は存在しない世界なんだ」
とラプラスはそう告げた。
「どういうことだ、存在しないだって?ならどうして、俺達は確かに今ここに存在している。矛盾が発生してるだろ」
と俺はラプラスへ問いかける。
「そう、正しくはこの世界はある1人の力によって作られ、存在していて、存在していない。そんな曖昧かつ明確な世界。1種の並行世界、パラレルワールドなんだ。そして僕とそこにいる奏音、『絶』は君たちの言う神様。僕は観測者、全てを見届ける者。そして、この世界の真実を唯一知る者の1人。観測者の僕にはもう1つ、仕事がある。並行世界の出来事は選択肢の数だけ世界がわかれる。僕の仕事は、その世界を渡って力をまだ持っていない神を、正確には不完全な神に記憶を与えることで本来のあるべき形に戻すこと」
そう言って天の方へと足を運ぶラプラス。
「天ちゃん。目をつぶって」
と優しく声をかけるラプラス。少し戸惑いながら目をつぶる天。そして
「『神の権能発動』ラプラス神が命ずる。今、彼の者の真の力を目覚めさせんことを」
次の瞬間、天は淡い光に包まれた。その光の奥からおぞましい闇の力が湧き上がっている。それは、『絶』だった。
『ラプラス!何のつもりだ!真実を話すために俺は手を出してないんだ!それをするなら俺はこいつらを殺すぞ!』
と『絶』はラプラスと天目掛けて腰にかけていたナイフを投げつける。そのナイフが天とラプラスに当たり、一瞬、世界が反転した。変な感覚を覚え、天とラプラスがいた方をみると、
「嘘、だろ?おい、ラプラス、天!」
そこには誰もいなかった。
「お前、、、このクソ野郎!殺す、お前だけは絶対に!」
と俺は殺意をむき出しにし、『絶』の方を向く。そして全力をぶつけようと能力を発動しようとしたその時、
「まったく、君は僕の事になると前が見えなくなるのはどの世界でも変わらないんだね、安心したよ」
と後ろから聞こえるはずのない声が聞こえる。
「なん、で、よかった、、」
俺は声のする方へと振り返り、安堵し、涙を零す。
「大丈夫だよ、僕は死なない。君がいる限り、絶対に」
そう言って俺の手をとる天の目にはいつもとは違う色が混じっていた。
「まさ、か。天、お前は、」
「うん、そうだよ。僕は」
「神様になっちゃったみたい」
と軽々しくそう言うのだった。
『今のを、どう生き延びた?そして、ラプラス。お前はなぜ、そいつを蘇らせた!』
「焦ってるの?『絶』」
そう、ラプラスが、、、
「ラプラス、お前っ、その光は」
ラプラスの身体から光の粒子が溢れていた。
「あちゃーごめんね奏音。僕はこの世界ではもう存在できないみたい。役目を終えたからね、まぁ後のことは天ちゃんが教えてくれるよ。それじゃまたねっ」
そうしてラプラスは空へと消えていった。
「またね、か。二度と会いたくねぇよ。またな、、、」
「奏音、あとは任せて。僕があいつを、偽物を消す」
天は俺を背に立つ。
『どいつもこいつも!邪魔なんだよ!全部!全部ぶち壊す!』
「そうは、させないよ」
そう言って天が片手を『絶』へと向ける。一瞬眩い閃光が放たれ、気がつけば目の前から『絶』は消えていた。
「天、なにが起こったんだ」
戸惑う俺に
「僕の本来の力でこの世界から消したんだ。僕は神様、奇跡と偶然を司る神だよ」
そう答えを返した。
「僕の能力は『創造』じゃなくて『奇跡』。創造は僕の奇跡の反転だったんだ。僕の奇跡の能力は確かに強いけど上手く発動する事が少ない。だから反転をよく使ってたんだけどなんで忘れてたんだろう、それに。多分今まで数回、奇跡を使ってる。対抗戦の時とおじいちゃんの時、そして今。その全ての奇跡が成功している。今考えると奏音、君がいる時に全て発動してるんだよ。何故かはわからない、でも元の世界での関係が反映されてるのかもね」
天曰く、今俺たちのいる世界は誰かによって作られた想像上の空想世界。元の世界ではもっと普通の生活を送っていたらしい。だが、同じく能力が神によって与えられた。恐らく、ここは誰かの空想上の世界。俺たちはそこに生まれた存在。または、元の世界である意識、記憶を失って新しい記憶を植え付けられている。だが、1つ疑問が生まれる。
「もし、元の世界のやつがこの世界での記憶を見たらどうなる?」
「心配ない、あくまで記憶として残るだけ、能力は元の世界と同じものだからね」
と天が言い終わった時、身体から淡い光が舞い始めた。
「これ、は」
「世界が崩壊し始めてる。神が存在を保ち過ぎたから世界が耐えられなくなったみたい。ここはあくまで想像の世界。皆の記憶は引き継がれる。良い方にも、悪い方にも」
その言葉を最後に視界は眩しい光に包まれた。