アイシャの過去と、これからと
いつもの倍くらいの量になってしまったので長いです。途中で分けようかと思ったんですが、なんか変になりそうだったのと、一気に読んでいただきたかったので、少しでも二人の感情が伝わればいいなと思ってひとつにしました。
「400歳って、どういうことなんですかね?」
「そのままよ。400年生きてるってこと。」
「一年は何日っすか?」
「365日」
「一日は?」
「24時間」
「1時間は?」
「60分」
「1分は?」
「60秒」
「1秒は?」
「いま!!」
・・・。沈黙が流れる。であった時よりももっと重い空気の沈黙だった。
ゲームの世界に、近い異世界へ転生とは聞いていた。時間の概念まで同じとはなんて細かい。
俺の目の前にいる若い女(仮)は400歳。
おかしい。こういう時、むしろママは小学生とか、ロリが基本で、大多数の場合、異世界転生ものの妻は若いだろーよ!エルフとか何かなのか?時間の感覚は元の世界と変わらないのに、結婚の感覚が違いすぎるぞ。
「私は魔女。」
沈黙を破ったのは彼女だった。
薄暗い窓の方へゆっくりと歩いていくと、ボロボロのカーテンを少し開け、うっすらと光る空を見上げて少し悲しい声で語り始めた。
「歳をとらない、老化しない呪いを受けているのよ。それでずっと体の時が止まったまま。おなかも減るし、痛覚だって普通にある。みんなと変わらないのよ。でも、切られても、魔法で吹き飛ばされても、私は死ねない。生き返ってしまうの。みんなが寿命で死んでも、戦いで体がバラバラになっても、私だけはまた生き返る。そういう呪いなの。悠久の時を、独りぼっち過ごさなければいけない。」
「呪い・・・ですか?」
丑の刻参りくらいしか聞いたことねー。いまいち想像ができない。呪いって人を不幸にしたりそんなもんじゃないの?呪いの範囲超えてません?それ。
「えぇ。忌々しい女神たちがかけたとびきり強力な呪い。女神の力を持つものにしか解除できないから私はここで死ぬことなく、永遠の時間を1人生きていくの。」
「どうして君が、…その、そんな呪いを受けたんだ?」
彼女は長い溜息をつくと、俺の方を向いて苦しそうに、何かに助けを求めるような、400年も生きてきたとは思えないほどきれいな瞳で俺を見た。見つめられた瞬間に、澄んだ赤い瞳から目が離せなくなってしまうほどに。
「私は、元は人間だった…。と思う。記憶もほとんど失くしてしまっているんだけど、うっすら覚えている事があるの。私は地上にいた。女神を信仰する聖王国の巫女として神殿にいたわ。でも、私の心はいつの日か女神さまではなく、このダンジョンを作ったとされるドラゴン。黒影龍様に奪われてしまった。奪われたと言っても、何かされたとかじゃないのよ。ただ、女神様は、飢えも、貧困も、病いも、暴力も、殺人さえも、聖王国の国民も誰も救いの手を差し伸べてくれなかった。毎日、祈り続けていても、女神さまは人間を助けることなく、いつも静観しているまま。」
まぁ、神様なんてそんなもんだよな。祈っても返事くれるわけじゃないし。
「そんな毎日の中で、私は、いつからか自分の事が許せなくなっていた。毎日、巫女として女神さまに祈り続けているだけで保証されている生活。だけど治安も、政治もなにも良くならない。いつも苦しんでいるのは民ばかり。子供も、とてもつらい目にあっていたわ。今も夢に見る時があるの。窓の向こうで食料を盗む子供。大人が追いかけて捕まえて、殴る姿。それは人間じゃないわ。ダンジョンにいるとされるモンスター、魔族と同じなんだ。ってとても悲しかった。」
「・・・・」
「そんな日が続いてた時にね、王城を歩いている時に謁見室での会話が聞こえたのよ。この世界には7つの悪龍が作ったダンジョン、魔界が存在する。ダンジョン最深部には魔界と言われるモンスターの国があり、そこには人類が知らぬ宝が隠されている。そしてダンジョンに蔓延るモンスターを捕獲し、奴隷として利用すること、モンスターを殺すと美しい宝石が手に入ること。ダンジョン最深部へ行き、魔界を制圧し宝物殿にあるものを取ることができれば国が豊かになる。ここから近いのは7龍の一角、黒影龍のダンジョン。資源も豊富で、住み着いたモンスターがドンドン増え続けているって。だから、黒影龍様っていうのはこんな聖王国の王様よりもよっぽど同じ魔界に住むみんなの事を考えて、助け合える立派な王様なのかなー?って、思ったんだ。その話を聞いてからも、私は女神に祈りを続けたけど結局何も変わらない。私が17歳のころに神官だった両親は流行り病で死んでしまった。行き場のない私はそれこそ最初は神殿に入れたけど、両親がいなくなり、すこしづついづらくなって、この黒龍のダンジョンの討伐部隊の編成で回復役の一人として連れてこられたんだけど、その時のメンバーはドンドン死んでいってしまって、最後に残ったのは私だけ。独りぼっちになって、このまま殺されちゃうんだーって思ったときに、女神様助けて!じゃなくて『黒影龍様にあいたい!』と目の前のモンスターにお願いしたの。そしたら、よくわからないんだけどなんとなく、『こっちこい』みたいな感じだったからついていって、なんだかんだでこの黒龍のしっぽまで来れて、前のギルドマスターに頼みこんで、今に至った。って感じかなぁ。多分、黒影龍様のご神体に触れた事がきっかけで女神の逆鱗に触れて呪われたんじゃないかな。死ねない化け物の体にされたんだと思う。ちょっと重たい話なんだけどね。同じ黒龍のしっぽの仲間だし、ちゃんと言っとかないとね?」
気の遠くなるくらい遠い昔の記憶。なのかもしれない。なにかを思いだすのか、時折胸を抑えたり、部屋の一ヵ所を見つめたり、手を伸ばしたり。そこにはかつての仲間の姿が見えていたのかもしれない。
いつも黒影龍様の時だけ異常な信仰心というか、服従はこういう事だったのか。人間がいやになって、人間を守るはずの女神にも絶望して、ダンジョンで死を覚悟した時、最後に会いたいと願ったのが魔界の主の一人、黒影龍。彼女が生きてきた400年(仮)のよりどころというか、唯一信じれるものだったんだろうな。
てゆーか、思ったよりもめっちゃキツイ人生送ってんじゃん。
「つらかった、んだよな。・・・きっと。」
たった17年そこら生きた俺が、彼女の言葉や人生を理解してあげれるなんて思ってないし、到底できない。ただ、俺だって学校でいじめられて、独りぼっちで過ごして、寂しい思いをしてきたっていうのは変わらない、期間は短いかもしれないが、俺はその気持ちを知ってる。だからこそ、何か力になりたい。俺の何十倍も辛い思いをしてきた彼女の。
「不幸なんて言葉じゃ足りない。辛い、なんて言葉じゃ表現できない。いつか、いつか俺がアイシャのその呪いを解けるように、辛かったね、って笑えるように、女神の力持つものを捕まえ、従わせ絶対に」
「無理よ。…そのステータスでどうやって女神の力持つ者にたてつくの?ビンタ一発で文字通り昇天するわよ?」
目の前でビンタの素振りを真剣な顔でしているのを見て思わず吹き出してしまう。
人が真剣な顔して、マジで喋ってるのにこの女は空気読めないやつだな
「無理かどうかなんてやってみないとわからないじゃないか!そのふざけたビンタやめろ!」
「わかるわよ!この世界はレベル、ステータスが全てなの。攻撃力10が攻撃力100に勝てないし、MPがないなら魔法は使えない。女神は文字通り神よ?そんな紙きれみたいなぺらっぺらのステータスで神に挑めるわけないでしょ!?」
「・・・あ”あ”あ”----!!!!!!」
「っ!?・・・」
(どうにかしたいのにどうにもできない、ゲームと違う!ステータスが低い!どうしたらいい!?)
紙きれのステータスと言われて言葉を失ってしまった。そこだ。それが問題なんだ。
無駄にあるゲームや異世界モノの知識の高さと、自分に与えられた能力値の低さのギャップに我慢ができず思わず叫んでしまった。急に大声を出したせいでアイシャも驚いてしまったようだ。
つーか、こいつズケズケと言いやがって、紙切れのステータスとか、ビンタで死ぬとか馬鹿にしすぎだろ。我まだレベル1ぞ。こっから進化してみせっからなこんちくしょー!俺の知ってる魔王のスライムだって最初は資源食ってただけだぞ!
あー!!豚や牛の嫁は嫌だ!でも女神に昇天させられるのはもっと嫌だ!でも俺が死ぬまでずっと姿が変わらない嫁もいやだ!
「もし…」
苦悩に耐えられず体をクネクネと意味不明な動きをしていた俺に、先に声をかけたのは彼女だった。
「もももももし、この呪いをととと解くことができたなら、…あなたの、ももっちの花嫁にでもなんでもなってあげるわ。私なんかでいいなら…だけど…。っぎぎぎ、ギルドマスターの名に懸けて誓うわ!!」
顔を赤くして、耳まで赤くして、視線も定まらず噛みっ噛みでしどろもどろな宣言を聞いて、お互いに何言ってるかなんて、何を言われたかなんて理解できるまで時間がかかったのは、言うまでもない。
ただ、向こうからご褒美出してくれたならとりあえず、とりあえず女神と戦うかどうかは別としてこのビックウェーブに乗っておくのは言うまでもない。400年生きてる割には意外と乙女なんだな。と思うとなんだかキュンっとしてしまった。
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