ご神体
「これが、さっき言ってたご神体か?」
「えぇ、この黒龍のしっぽを司る偉大なるこの世界の覇王。黒影龍様ですわ。」
ギルドの奥の一番小綺麗な部屋。そこに薄明かりに照らされた吸い込まれそうな漆黒の宝石で作られたドラゴンが俺の目の前に置いてあった。大きさなんて手のひらサイズ。小さな置物だが、触ると吸い込まれそうな、自分の何かが取られそうな、不思議な感覚、そんな恐怖がその置物にはあった。
そんなブツを目の前にして、彼女は頬を赤らめてモゾモゾ・クネクネと体を動かしながら完全に目がイってしまっていた。
「このご神体に手を触れ、黒影龍様の眷属になり、ギルドの一員になりたい!っと願えば黒影龍の加護を受けられます!そのうち経験によりスキルを覚えたり、レベルアップをしたり、人生に一度だけ、ジョブを決めたり・・・ね。」
「ジョブ・・・。」
ごくり。と喉を唾液が流れる音が自分の耳の中に聞こえた。
チャンスは一度。俺の人生を見た神、この場合はこの黒影龍が俺にぴったりのジョブを与えて、今度こそ俺の生き方が決まっちまう。人生って転生前も含まれるのか?それともこの数分だけか?それでもだいぶ変わってくるぞ?
「ジョブやスキルを決めるのは、まず、触らないといけないんだろ?」
近くで見ると、余計に不気味に見える。何か、視線を受けているような、意思があるようにも感じられる。
「触るだけじゃだめ。心の中で、眷属として魔界で生きていく、黒影龍様の為に戦うことを誓うのよ。中途半端な気持ちで触ると腕が吹き飛ぶわよ?」
「さらっと恐ろしいこといってんじゃねーよ!」
出しかけた手を引っ込めて不注意ながらに適当に触ろうとした自分が怖くなり、まだくっついてる手を見ると、一歩下がってしまう。
「心から、・・・心から願えば、誓えば、腕は吹き飛ばないのか?」
「えぇ。約束するわ。実際に数か月前に一人、あなたと同じく異世界から来た人が契約していたもの」
「なにぃっ!?どこだ、どこにいるんだそいつは!ここにいるのか?」
「…今は、もういないわ。その人は私のアドバイスをまともに聞かず、生まれ持った能力の高さを過信してすぐに死んで・・・。ダンジョンで恐ろしい相手に殺されてしまったの」
「っ・・・」
声にならない声を出してしまい、その場に変な空気が流れてしまった。
急にセンパイの存在を教えられて、一瞬胸がざわめいたが自信過剰のエリート過ぎて死んだってか。展開が早くて頭が追いつけねぇ。だから俺のステータス見てがっかりしてたのか。そりゃあついさっき異世界から来たセンパイが有能だと後輩の俺が無能だったら嫌な顔もしちゃいますわな。
さすがに腕が吹き飛ぶ、と言われてしまうと手がだせない。ゲームの世界っぽくてゲームではない。つまりマジで片手を失う!
「ごめんなさいね。不安になるような事を言ってしまって。あはは。私の方が年上なのに、ごめんなさい。ダメね。大切な仲間がダンジョンで殺されて、もう、私が黒影龍様に捧げられるようなものなんてほとんど残されていなくて、あなたが最後の希望だったから、召喚に応じてくれた時は年甲斐もなくはしゃいでしまったし、短い間だったけど死んだ彼と二人で過ごした日々は楽しくて、ちょっと気が動転してたのかもしれないわ。あなたにそんな大切な事を急に今すぐ決めろって言っても、困っちゃうわよね」
ドンッ!!
涙を指で拭いながら、精一杯のつくり笑顔で笑いかけてきたアイシャを見て、俺は迷うことなく黒影龍のご神体に腕を振り下ろした。
「俺の名前はももっち!!たった今、この瞬間から黒影龍様に忠誠を誓いし者なり!我が肉体、魂をもって黒影龍様の為に戦い、このギルドを守るために戦い、ギルドマスターを守る!」
あ、ももっちはゲームのプレイヤーネームだったわ。しかも元カノの名前だ。ネーム変更聞くかな。この世界。
黒影龍のご神体に触れたももっちを見て、先ほどまで健気に笑い、涙を流していたアイシャはにやぁ、と口元をゆるめた。
ささやき声にもならないような声で
「ちょろっ」
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