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イチオシ短編

いじめ用レンタル人間

作者: 七宝

 ブタが飛び降りやがった。

 バカのくせに、一丁前に遺書なんか書いてやがった。


 遺書には俺たち3人の名前が書いてあった。当たり前といえば当たり前だが、ブタの分際で俺らに一泡吹かせようなんて根性が気に食わねぇ。(はらわた)が煮えくり返りそうだ。


 屋上にはブタのゲボがあった。中から今朝食わせたネズミとジャンボタニシも見つかった。そのことまでご丁寧に遺書に遺していやがった。


 俺の人生もここまでか。

 ブタをいじめるのはなんとなく楽しかったし、そのおかげでちょいワル好きの女子にはモテてたし、不自由なく過ごせてたのにな。


 最後までうぜー野郎だわまったく。


 それから俺たち3人はそれぞれの母親を呼ばれて、家族ごとに分かれて三者面談のようなものをすることになった。


 が、俺の両親がそんなのに顔を出すわけはなく、俺だけ二者面談になった。


「いじめをしていたというのは本当かね」


 主犯格とされる俺のところは校長が対応していた。ハゲでチビでデブで、まるでブタの将来の姿みたいだ。まあ将来なんてものはさっきなくなったんだけどな。


「はー」


 警察も捜査に来ていたので言い逃れは出来ないだろう。まさか自殺するとは思わなかったから、証拠も残っちまってるだろうし。


「そうか⋯⋯」


「で、俺どーなんの?」


 年少か? まずは鑑別か? もうどうにでもなれだよ。


「まあ、今日のところは帰りなさい。しっかり反省するんだぞ」


「え? それだけ? 今警察いるんだろ?」


「警察の方々は忙しいんだ。君のことは我々で対応してくれと言われてる」


 なのに帰れって、めちゃくちゃじゃねーか。けどまぁ、帰れるなら帰ろ。ラッキーだわ。


「そ、ほんじゃ帰るわ」


「ああ、気をつけて帰るんだぞ」


 なんだか気味が(わり)ぃ。明日はサボるか⋯⋯


「そうだ、明日また大事な話があるからちゃんと来るように」


 サボりてぇのに。


「はいはい」


 ちょっと顔出してすぐゲーセン行こ。


 教室から出ると、新一親子がすでに廊下にいた。


「なんだ、俺より早く終わったのかよ」


 そう言い終わる前におばさんが新一の肩を抱き、「行くわよ」と言って足早に去っていった。


 なにが「いくわよ」だよ。パルスイクロスの実演販売かよ。


 そんなことを思っていると、隣の教室の戸が開いた。圭介親子と教頭の三井だ。


「行くわよ」


 圭介が俺と目を合わせないようにしたいのか、数秒前のデジャヴのような動作で圭介を連れていった。


 レジェンド松下が2人、か⋯⋯


 結局俺は1人で帰った。外には警官がたくさんいて、黄色と黒のテープがいたるところに張られていた。


 家に帰ると親父がいた。俺が早く帰っても特に疑問を持っている様子はなかった。まあいつもの事だからな。


 夜、寝る前にいろいろ考えた。

 お咎めがないのであればすぐにいつも通りの生活に戻るだろうし、そうなったらまたあいつらとあそこのゲーセンに行こうかなとか、明日は誰とヤろうかなとか、柳田がイジりやすそうだなとか、あーもうねみぃ⋯⋯寝よ。


 次の日学校に行くと、ちゃんとみんな来ていた。

 新一と圭介に話しかけると、「もうお前とは話すなって言われた」と口を揃えて言いやがった。


 おいおいおい、これじゃ俺がいじめられっ子じゃねーかよ。


 どーすんだよ。


 柳田イジるつもりだったのに、1人じゃ出来ねーしつまんねーじゃん。


 クソが。


「はいみんな席ついて〜」


 担任が入ってきた。


「おーい木村〜、入ってきて〜」


 木村? そんな奴クラスにいたか?


 教室に入ってきたのは、少し背の高い金髪の男子生徒だった。転校生か? それにしても金髪て。しかもよく見たらチョーカーつけてるし、ヤバ。絶対ヤンキーやん。俺以上の。


「さて、今日は良いニュースが2つあるんだが、どっちから聞きたい?」


「そんなこと聞かれても分かんないですよ」


 クラス委員の安藤の冷静なツッコミ。


「そうだな、じゃあ佐野の話からするか」


 ブタ⋯⋯


「めちゃくちゃ骨が折れてたらしいが、命に別状はないそうだ」


 生きてやがったのか!?


 俺たちにあんなことしておきながらなに普通に生きてんだよ。死と引き換えに暴露したんじゃなかったのかよ。


「そしてもう1つの報告だが⋯⋯見ての通り転校生だ。歳は君たちの2つ上、高1だな」


 高1がなぜこのクラスに⋯⋯?


「木村、黒板に名前書いてくれ」


「はい」


「ん?」


 木村の返事に対し、不思議そうな顔をする担任。ポケットからボタンのようなものを取り出し、ポチッと押したその瞬間。木村はビクッと体を揺らし、直後に倒れた。


「喋ったらこうなるって教えられなかった?」


 返事をしない木村。


「なに無視してんの? 質問してるんだけど」


「すみません⋯⋯教わりました」


「あ、喋った」ポチッ


「うぎぃいいいい!!!!!」


 木村は叫びながら気を失った。


 ⋯⋯夢か? なんだこれ? どういう状況だ? なんで誰も何も言わないんだ?


「あぁ、やりすぎちゃったか。代わりに俺が紹介しよう。この子が昨日話した〈いじめ用レンタル人間〉の木村マサオだ。そうだ、早く帰った3人は知らないだろうから改めて説明しないとな」


 いじめ用⋯⋯レンタル人間?


「いろいろややこしいから簡単に話すと、佐野の代わりだ。いじめがあったクラスをそのままにしておくと新たなターゲットが生まれてしまい、また自殺者が出てしまうかもしれない。そんな過ちを繰り返さないために、何をしてもいい人間を国から派遣してもらったんだ。そういうことだから木村、山田の前の席空いてるからそこに座ってくれ」


 木村は無言で頷き、俺の前の席についた。


「さっきも言ったけど、そいつには何をしても良いからな〜。もし抵抗しようとしても俺がボタン押せば電撃ですぐにくたばるから安心しろよ〜」


 1限はそのまま担任の数学だった。

 木村はなにをするでもなく、座って前を向いていた。机に筆箱すら出さず、ただ座っていた。


 授業開始から数分後、担任が俺の方をじっと見て言った。


「お〜い山田〜」


「なんだよ」


 居眠りとかしてねぇんだけどな。


「消しカスとか投げないのか?」


「は? なんで?」


「なんでってそりゃお前、いじめ用レンタル人間なんだからいじめなきゃ損だろ。せっかく来てくれたんだからちゃんといじめろよな。浅田と柴山もだぞ、分かったか?」


 俺も2人も返事はしなかった。

 言われてやることじゃねぇんだよな、いじめって。そもそもブタの時はいじめというよりはイジりって感じだったし、いじめなんて出来ねぇわ。


「あ、ちなみに殴りすぎたりするなよ。殺したら50万くらいお金取られるから。そこだけ頼むわ、レンタル品だからさ」


 50万⋯⋯? 人を殺してそんだけで済むのか?


「とにかくちゃんとやるんだぞ〜。お前らが佐野にやってたみたいに服を泥まみれにしたり、背中に毛虫を入れたり、持ち物を隠したり、壊したり、殴ったり、蹴ったり、脱がせたり、吐かせたり、水をかけたり、沈めたり、埋めたり、燃やしたり、物や金を盗ませたり、殺しさえしなきゃなんでもOKだからな!」


 なんだよこの担任、狂ってるだろ⋯⋯


 とか思ってたけど、次の日にはもう楽しくいじめておりますですハイ。


 新一も圭介も良い子ぶって反省したふりして全然木村いじめないけど、俺は楽しくやってるよ。


 最初はなんかキモくてやっぱ柳田をイジりに行こうと思ってたんだけど、1人でやれるか心配でさ。でも木村なら絶対反抗しないから安心してやれるんだよな。最高だわ。


 殴っても全然抵抗しないし、蹴っても声出さないし、マジで何やっても全部受け入れる感じ。まさにサンドバッグ。


 それから何日経ってもあいつら2人は優等生を演じていた。なんだ? 先公や親には俺に付き合ってブタをいじめてただけとか言ったのか? だから大人しくしてるのか? 同類のくせに良い子ぶりやがって。


 木村は本当に最高だった。卒業してからも近くに置いておきたいと思えるほどに良かった。


 周りは受験勉強一色だが、俺はまったく勉強などする気はなかった。勉強しなくても入れる高校に入って、またそこでも彼女作って、適当なとこに就職して、その時の女とデキ婚でもすれば楽しく暮らせるだろうと思ったからだ。実際俺の周りの先輩はそんな人ばっかだしな。


 そして、とうとう卒業の日がやってきた。ブタは最後まで戻って来なかった。当たり前っちゃ当たり前だな。


 結局俺は入れると思っていた工業高校にも落ちて、定時制のところへ行くことになった。まぁいろんな歳の人間がいるから楽しいこと間違いなしだな。うん。

 ただ、木村とお別れなのが少し残念だな⋯⋯


 卒業式のあと、俺と新一と圭介は校長室へ向かった。校長に呼ばれたからだ。

 始めて入る校長室は新鮮だったが、犬小屋とベーコンをミックスしたような臭いがした。


「実は君たち3人にはこの1年半の間、適正検査を実施していたんだが⋯⋯」


「適正検査? 何のだ?」


「この中に1人、合格者がいるんだ」


「何の適正? 何の?」


「今から発表するから3人とも、一旦後ろを向いてくれたまえ」


 全然答えてくれないんだけど。そんな耳遠い? もしかしてこっちの声聞こえてない?


 けどまあこの3人の中でなにかに合格するって言ったら俺だよな。よし、後ろ向こ。


「それじゃあ行くよ〜」


 校長の立ち上がる音が聞こえ、足音が続く。パカパカ⋯⋯パカパカ⋯⋯ぽっくりにでも乗ってんのか?


 俺に近づいている気がした。


 そして


 首がひんやりした。なんか触った?


 直後に「カチャ」という音が聞こえた。


「おめでとう山田くん」


 やっぱ俺が合格者なんだな。にしてもさっきの音は⋯⋯ん? 首になんかついてるぞ? 首輪? ん?


「校長、これなに付けたの?」


 聞いた瞬間、首に激痛が走った。ドンッ!という衝撃と、筋肉に電撃が走るような⋯⋯電撃!?


「喋ったらこうなるから、覚えといてね」


 このセリフは⋯⋯!


「どういうことだよ! なんで俺がいじめ用レンタル人間に!」


「お〜! 理解が早くて助かるよぉ。だけど、喋んなって言ったよな」ポチッ


「ぐっ!!」


 痛ぇ⋯⋯!


 なんで俺がこんな目に! 新一と圭介はどうなるんだ! 俺だけ酷い目に遭うのか!?


「そういうわけなんで、レンタル人間不合格の2人にはこの書類をお渡ししま〜す」


 紙を受け取った2人は青ざめていた。一体何が書いてあるんだ?


「気になるよねぇ。教えてあげるよ。まず、彼らは君と違ってこのまま高校に行くんだが⋯⋯」


 なんでも2人は5億ずつの賠償金をブタに支払わなければならず、これから一生給料の95%が差し押さえられるのだという。毎日もやしで生きろってのか。


 2人は「多すぎる」と校長に抗議したが、校長が言うには「君たちが彼の人生を壊したのだから、お金の面倒をみるのは当たり前のこと」だそうだ。


「なぁ校長、俺は0円でいいのか?」


 あ痛たたたたたあぎゃぐぎごぐごウガガガガカガガ!!!!!!!!!


「覚えが悪いねぇ⋯⋯」


 痛いけど意外と耐えられるぞ。もしかしたら俺はドMなのかもしれない。


「木村は⋯⋯木村はこれからどこに行くんだ?」


「東京」ポチッ


 あにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!!!


「あんま効いてなさそうだねぇ⋯⋯まぁ、これはメインじゃないからいいんだけどねぇ」


 その後、俺はいじめ用レンタル人間としての教育をみっちり受けさせられ、9月から別の中学校へ派遣されることとなった。


 いじめをしていたのは女子生徒3人組で、こいつらは俺たちと違って全員俺をいじめることを楽しんだ。


 いきなりビンタされたり、トイレで裸にされてアソコを踏まれたり写真を取られたり、パシらされたりした。


 天国だった。やっぱり俺にはMの才能があったんだ。毎日が楽しくて、エロかった。飯は毎日同じような微妙なものだけど、罰にしては優しいと感じられた。


 そして半年後、ついに彼女たちの卒業の日がやってきた。俺は悲しかったし寂しかった。1個下のJCに可愛がられる日々⋯⋯ブタじゃ務まらなかったであろう、イケメンの俺にだけ出来た任務⋯⋯


 そういえば、この後東京に行くんだったよな? 去年木村がそうだったはずだ。


「おーい山田くん! 行くよ!」


 知らないおっさんが車で迎えに来てくれた。このまま東京に連れて行かれるのだろうか。


 それにしても、この1年で俺は本当に喋らなくなったな。電撃が痛すぎるんだよな⋯⋯


「着いたよ」


 車を降りると、目の前に「トウキョウ」と書かれた黒い建物があった。


「入るよ」


 建物の中はやたら寒くて、香水の匂いがすごかった。

 しばらく歩いて「ボス室」の前まで来たところで、おっさんが帰って行った。なんて名前の部屋なんだ。


 すぐにドアが自動で開いて中が見えた。机がひとつだけ置いてあって、おっさんが1人座っていた。真ん中だけツルツルの逆モヒカンだった。


「入りたまえ」


 逆モヒカンに言われるままに足を踏み入れる。机の前に行くと、逆モヒカンがまた口を開いた。


「ご苦労だったね」


 そう言って首輪を外してくれた。


「じゃあ、さよなら」


「えっ」


 もう釈放!?


 と思った瞬間、床が抜けて俺はそのまま落下した。テレビ番組か!?


 地下室と思われるその空間はかなり広く、30cmほどの深さのドロドロした真っ黒い液体のせいで全く床が見えない状態になっていた。


 出口も階段もない。


 大声で叫んでみても、なんの返答もないここで飢えて死ねということか。


 それにしても臭い。今まで嗅いだことのないタイプの、かなりのレベルの悪臭だ。

 どうしたものか。ずっとこんなところにいたら発狂してしまう。


 とりあえず歩いてみようと思い足を踏み出すと、ニュルンと滑って盛大に転んだ。おケツが痛い。


 こんな得ないのしれないキモい液体に手を突っ込んでしまった。なんなんだこの液体⋯⋯ん?


 手が痛い。焼けるような感覚が⋯⋯あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!


 なにこれめっちゃ痛んですけど!?!?!?!?!?!?!?!!!?!?!!???!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?


 服で拭きまくったら何とか取れたものの、皮膚が爛れていた。⋯⋯ヤバくない?


 これ、全部同じ液体なのか? 一体なんなんだ? なんで俺だけ⋯⋯


 そんなことを考えていると、さっき俺が落ちてきたあたりのところにまた人が落ちてきた。


 良かった、1人じゃなかったのか。

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