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62話・今すぐそれを超えればいい

「なんか嫌な予感がする」


「フェンリル様どんな予感ですか?」


「厄介な者が増える予感だ」


「人手が増えることは良いことじゃないですか」


「人手と言う人でではないような気がするのだ……」

 一足早く男が動く、少女はそれを見てただ動かずに笑っている。


「何をするつもりですか?」


「教える分けねぇだろ!!」


「その方が面白いのでいいですよ」


 全く動かない少女……一見無抵抗に見える少女に全力の拳をぶつける。

 ――全力の拳は躱す事すらなくその横を通り過ぎその先にある全ての物を破壊する。

 「スッ……」といとこの目の前に出された指はまるで銃のような形を見せ、その先端は神々しく光っていた。

 一瞬の硬直の後、僅かに首をずらすことによって指先から放たれた光束(レーザー)を避けたがその射線の先は巨大な爆発が発生する。

 着弾地点とはかなりの距離があったはずだが、その爆発による熱波は男と少女を軽々と飲み込む……

 その発動者である少女はもちろんダメージを受けず、男も少しの熱傷だけで、それ以上のダメージは受けなかった……

 とは言え、その衝撃は二人の体を吹き飛ばす。


「――貴方の魔法、ある程度分かりましたよ」


「あ?」


「学習、適応、超越、成長、そのあたりでしょう」


 全く同じ速度で吹き飛ぶ二人……

 少女が男の腹に拳を当てる、その後当てられた拳からすさまじい威力を吐き出す。

 男の体は大きく跳ね上げられて天井へと向かう。

 天井への直撃直後、男の体に追いついた少女に向けて剣を一閃……、その剣は少女の僅か0.1ミリ先で弧を描く

 慣性によって少し少女に近づいた男の体に向けて少女が拳を振りかざす。

 少女の拳に合わせるように剣を振る男だったがそれよりも先に少女の拳が男の体に当たる。


「ツッ!!」


 新しい力が加わったことにより剣は少女の数センチ先を通り過ぎて行った……

 その拳は先にその体を跳ね上げたものに比べ何乗(いくじょう)かの威力を持ち、男の体は少女の拳が当たった瞬間に、その攻撃によって先の数倍で地面へと叩きつけられる。


「まだまだですよ」


 いつの間にか地面からの反動によって跳ねた体に追いついた少女が、先ほどと同じ威力で攻撃を放つ……

 大したダメージにはならないが、一瞬気をそらせるくらいにはなる……もう一度同じ攻撃を行う……


「俺の魔法が分かったなら、同じ攻撃は何度も効かねぇってわかってんだろ!!」


「ええ、だから……」


 一瞬力を籠め、男の体にその拳を押し込む……

 押し込んだ拳から巨大な黒い棘が生えるのは、一瞬の出来事だった


「また体に穴が開きましたね」


「ゴボッ……」


 体に大きな穴が開く……

 自然と臓器をさかのぼり、穴から血が噴き出る。


「生きてますか? あなたのことはそれなりに欲しいと思ってるんですよ? 死なないでもらえます?」


 その口からは吹き出す血は止まらず、目から光は失われている。


(クソッ、何だこいつは……再生も、適応も追いつかねぇ、超えられねぇ……死が寸前に……、やべぇ……どう……どうすれ……ば……)


 そして驚異的なことを成し遂げる……


「死にましたね、これ……、残念で……ん?」


 だらんと垂れ下がっていた手が棘を掴む


「死んで……ねぇ」


「貴方一回死んでますよ」


「んなわけ……ねぇ、だろ……」


 少女が手を前に伸ばし、指を鳴らす……

 音と共に広がる衝撃波は男の体を吹き飛ばし、自然とその体から棘が抜ける……


「首でも飛ばしてみましょうか、きっと生き返れますよ」


 その手には刀が握られていた、姿が見えない、だが魔力を観ればそこに刃物があることはわかる。

 男も一瞬の判断で、どこからか取り出した剣を握る。

 少女の剣に合わせるように振り抜……


(あ゛ぁ゛?)


「声、出てないですよ」


 上下が逆さまになった視界に赤い滝が映る

 それは自分の体から落ちているように見えて……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 先ほどその剣を振りぬいていたはずの少女は、何もなかったかのように多々づんでいた。


「いったい何をして……」


「自覚無いんですか?」


「まぁいいです、気付いて気分ののいい物ではないですしね」


「……は? 何言ってるんだ?」


「なんでもないですよ、ただ、最後に本気で殴ってあげようって話です」


「お前の最後って意味か?」


「この戦いの最後ですよ」


 そう言った少女の周囲が一気に黒くなる、空気が、光が、全てが黒く色づき重くなる。

 次第に空気中に液体が発生し、その液体が固体と変わる、小さな、結晶が無数に完成する。

 この黒い空気が部屋の中を埋め尽くしたとき、少女の周囲が深く沈む……

 男の体も、戦闘によって生まれた瓦礫の、その全てが海底にあるかのように浮力が働き、空中へと浮いて動けなくなる。


 その黒い空気が少女に吸収されるように外側から無くなっていく、大気が動く。

 全てが無くなると浮力が無くなり、地面へと落ちる。

 黒い空気は、少女の体から姿を現すことはない……それでもその存在感を示す。


「お前はなんだ?」


「ただの人間ですよ、私は」


 そうして、放たれた一撃は、部屋の全てを埋め尽くす衝撃を発生させ、中に存在する二人以外の全てを塵へと変えた……

「ここまでタイトル詐欺なことってあります? 全く超えれてないじゃないですか」


「タイトル詐欺……」


「何処からどう見てもタイトル詐欺ですよ」


「能力的にはできるから……」


「そもそも私に当てたのが間違いですよ」


「……」

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