57話・平穏に過ごさせていただけませんか?
「この世界、意外と文明レベルが高いんですよね」
「文明レベルって何ですか?」
「文明の発展度です」
「絢さんから見てどのくらいなんですか?」
「0.8くらいでしょうか」
「1じゃないんですね……」
「1以上だと思ってました?」
背負い投げからの右ストレート。直後の下段薙ぎ蹴りをしゃがみ防御で防いでからの突進。壁際まで寄せてからもう一度突進……をキャンセルしてかかと落し、それによって吹っ飛ばされた相手に小技をつなげる……
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絢とリアが集中して眺めているモノには、でかでかと象徴的なフォントで「KO」と記されていた。
「あーもう!! 絢さん強すぎます、どこでそんな技術身に着けたんですか!!」
リアが持っているのは格闘ゲームのプロが持っているような高級品の「アーケードコントローラー」、それに対して、絢が持っているのはそこらの家電量販店で撃っていそうな格安の「パッドコントローラー」である。
そんなものをもって何をしていたのかと言うと、その答えは二人の視線の先にある地球にもありそうな大画面のテレビにある。
その画面の中身から分かる通り、格闘ゲームである。
「以前、かなりの回数誘われまして、やってる間に上達しました」
「むぅ、私は数万回はプレイしてるのに……」
頬を膨らませて怒っているリアを横目にふと窓の方を見る、窓の外には地球、さらに言うなら日本とあまり変わらない技術レベルを持っているように見えるビルや線、その他人工物の数々が影となり視界に入ってくる。
そんな時間となってもまだ働いている者がいるのか、ビルの窓からは光が漏れ出していた……
「どうかしましたか?」
「いえ、異世界と言うと、もう少し、なんと言えばいいでしょうか……、そうですね、もう少し技術レベルが偏っている物を想像していたもので」
「魔法と科学のバランスってことですか?」
「まぁ、それもですね……」
「ん~、バランスが取れてるのは、たぶんこの国だけですよ……」
「そうなんですか……」
そう答えると名も無かったかのようにふるまう絢に、リアもそのまま流しそうになったが、ふとその気持ちを思い出す。
「それよりもです!! どんなゲームなら絢さんは負けそうなんですか?」
「それ本人に聞きます?」
「だって本人しか知らないじゃないですか!!」
「とりあえず、何があるのか知らないとわからないですよ」
もう夜も遅い、ルビーとフェニは寝ているが、リアはチェスボードのような物を取り出して次のゲームを始めようとしていた……
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『大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ……」
暗闇の中、とあるビルの屋上で通信機に話しかける男がいた。
その男はそのビルに入っている会社の社員でもなければ、入る許可も取っていない、完全な不法侵入者だった。
男の手には通信機と一緒に、長身の銃身……いわゆるスナイパーライフルと言われるものが握られていた。さらにその銃身に取り付けられたスコープを除けば、その照準は、絢の頭に向けられていた。
一度目の発砲は絢の視線の動きによって中止され、30分ほど様子見してから改めて発砲の準備を行っていた。
『ここは帝国だ、我々王国の痕跡を残すわけにはいかない、早く片を付けろ』
「分かっている……」
リーダー格の人物にそう返答すると、無線機からさらに3つの声が聞こえてくる。
『それにしても……、そいつは最重刑の転移追放にされたんだろ、なんで生きてるんだよ』
『わからん、ただリストに載せられていてよかった、王国の脅威になる存在は早々に排除せねば』
『そんなピリピリしないで、リラックスリラックス、気楽に行きましょ』
『お前はもう少し責任感を持てよ……』
この3人はリーダー格の人物とは違い、男のバックアップとして待機している3人である。
無線による雑談にリーダー格の人物から『静かにしろ』と命令が入り、ピタッ――と音声が止まった。
『撃て』
その命令を聞いて引き金に指をかけると無線機から『パンッ』と予期しない音が鳴る。
不意の予定に無い音に、無意識に体が待機を選択してしまう。
『何故発砲をした、なにが起きている……、答えろ!!何が起きている!!』
リーダー格の人物の言葉に、先ほど「責任感を持て」と叱られていた奴が答える。
『わかんないっすよ、わかんないけど、なんか……、なんかがいるんです!!』
その声と一緒に二度『パンッ』と言う音が聞こえたが、3度目に聞こえた音は『ビシャッ……』と言う肉がはじける音だった……
『応答しろ、現状の報告を、返答を!! ――なんだお前は……、どこから、ふざけるな!!』
リーダー格の人物からの無線は、それだけ言うと『ニャー』と言う動物の声の後に『ビシャッ……』だけを響かせて通信が途絶した……
『なんでこんなことに……、あの女、あの女が……』
その後、銃を撃つ準備をしている音は聞こえてきたものの、その後聞こえてきたのは金属音と肉が裂け骨が折れる音、後は恐怖の声だろうか……
『まだ生きている者はいるか?』
その声は、一番規律に厳しい先輩の声だ、リーダー各の人物よりも規律に厳しく、よく煙たがられていたのを男はふと思い出す……
『生きているなら、任務を遂行す……』
それだけの言葉を残して、無線機の向こうからは何かに生ものが食い荒らされる音が聞こえてくる。
ふとターゲットの方を見る。
銃を置いていた場所には、一匹のタカがたたずみ、男を見つめていた。
まるで「続きをするなら、お前も殺す」と言っているような視線だ……
男は銃を片付ける、ひざや手は震え、ろくに照準も合わせられない。
これならやらないほうがマシだ……、たとえ法的に死ぬことになろうとも……
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「ここに置いたら……」
初めこそ1つだったはずのボードが、上に似たような盤面を乗せていくつも広がっていた。
その盤面の数々を見て、どの盤面のどの駒をどこに動かそうか、既に1分ほど考えていたリアの横で「ゴミ掃除は大切ですね」と言葉を漏らす。
「何のことですか?」
「いえ、何も……、それより、そこでいいんですか?」
「え?」
「これで……」
そう言って絢が駒を動かすと、とある盤面上でリアの王の駒がチェックメイトにされてしまった……
「あぁー!! かーてーなーいー!!」
「何回もやったらいつかはできますよ」
「聞いたことはあったのですが、やったことはなかったので楽しめました」
「盤面が無限に増えれば絢さんの処理だって対処できると思ったのに……」
「それリアさんの処理も対処されてることは考えてますか?」
「あ……」




