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46話・達人同士の読み合いは時に現実と同じものとなる

「なぁ、3丁目の田中さんって誰なんだ?」


「知らないんですか?」


「知らないに決まってるだろ」


「3丁目の田中さんは……英雄になったり、勇者になったり、魔王になったり、神になったりする人です」


「何だそれは……」


「何でしょうね……」

 1つ目は全くと言っていいほど何も聞かずに挑戦を始めた絢達も、今度はリアの今にも死にそうな目もあって、ちゃんと説明を聞いてから挑んだ。

 はずだったのだが……


「ハァ、ハァ、なんでもういるんですか……」


「タッチのさ!!」


 息を切らしながら入ってきたリアに向けてどや顔とピースを向けているルビーは、二人の身長のせいでかけっこで勝った子供のように見えてしまう。

 ニアが「微笑ましいな」とつぶやいたのを絢は聞かなかったことにした。


「経過時間の差じゃないですか?」


「それでもこっちが5分くらいは早く着くはずなんですよ?」


「3日くらいで終わりましたし」


「さすがにおかしいです、そんな実力があるなら、なんで今まで……」


 異例の処理と言うのはどこでもどんな時代でも大変なのだろう、ミスが多そうなリアはさらに大変なのだろう。

 とは言え、ずっとそんなことを言っていても何も進まない。

 唯で鍛えられた絢の手腕により、リアを落ち着かせて次の試験の内容を聞くまでにそう時間はかからなかった。


「とりあえず次です!!」


 顔を上げしっかりとやる気を持ったリアは、改めて次のルール説明を始める。


「次は簡単な戦闘試験です!!

 なんでもいいので、あの扉の向こうにいるものから1本を取ってください」


 その扉の奥からはなんだかオーラを放っているが特に絢やニアが慄くような気配はない、ルビーに至ってはどこかウキウキしている程だ。


「準備はいいですか?」


「はい」


 リアの最終確認の後、開かれた扉の向こう側から最近聞いた覚えのある声が届く。


「おう嬢ちゃん……、ちぃっと早くねぇか?」


 路地裏で初めて会ったときと同じような声のトーンでウィルが話しかける。


「そこまで早いですか?」


「えーと、確か最短記録は……」


「この支部での最短記録は11日だったはずです」


 絢達は今までのリアを知らないため何も言わないが、その「今まで」をよく知るウィルははっきりと物語を言うリアにひどく驚いた様子だった。

 そんな驚きも収め「んで、嬢ちゃんたちは?」とすぐに聞き返す。


「絢様たちは4日ですね」


「最短記録ってのは新人だけの話だが……実績のねぇ嬢ちゃんたちは新人みたいなもんだろ、それが7日も記録を縮めりゃ驚くもんだ」


 それを聞いて「確かにそうですね」と答えた絢の顔は、少しだけ笑っているように見えた。


「それで、一体他ですか? それとも一対一?」


「オイオイ嬢ちゃん、話を急ぎ過ぎるといけねぇよ」


「やらないんですか?」


「だから急ぐなって、こうやって話をするのも大事な時間なんだぜ……」


 そう言いながらも頭をポリポリとかいてやれやれという表情を作る。


「やりたくねぇってのがばれてるってのはいい気はしねぇなァ」


 ウィルはこれからすることが心底嫌そうだ、まるで自ら死地へ向かうような、そんな表情をしている。


「アストロンとこの嬢ちゃん、今はエキドナって名前だったか、あの嬢ちゃんの試験官を担当したのも俺なんだ、あの後アストロンの爺に居やって程どつかれた……まあ、こんな話はどうでもいいわな、ただの時間稼ぎだ」


 今まで右へ左へ、上へ下へ動いていたウィルの目がしっかりと絢達を見据える。


「試験は俺と嬢ちゃんらで一対一の真剣勝負だ、先に相手の命を握ったほうが勝ち、合格か不合格かは俺が決める、首を跳ねちまったら合格が出せねぇから気を付けろ……

 で、どっちからするんだ?」


「では私から」


 ウィルの前に立った絢はいつぞやと同じように何かを握るような手をしている。


「……」


「……」


「「……」」


「「「……」」」


 長時間にわたる無言と重い空気、その二つは簡単に破られることになる。


「こないんですか?」


「あー、もしかして警戒してたのは俺だけか?」


「そうですね」


「嬢ちゃん相手だとどう動いても初手を抑えられるんだが……なんかの達人なのか?」


「まあ……」


 絢は少し考えようと戦闘から意識を離す……、その瞬間の話である。

 音が四つ、一つは力強く大地を蹴る音、二つは金属同士がぶつかるときのような音、三つはウィルの剣が天井に突き刺さる音、四つは高速の物が急停止したときの爆風の音。

 その音のせいで、ウィルが何かを突き出すような体勢で絢の近くにいたことは誰も気にしなかった……


「嬢ちゃん、何を持ってるんだ?」


「空気ですよ?」


「聞きたいのはこっちだよ」


 ウィルは何とも清々しそうな顔をしていたという。

「と言っても、結局空気を持つってなんだありゃ」


「俺も知らん」


「フードの嬢ちゃんも知らねぇのか?」


「あいつに聞いても『空気を持ってる』の一点張りだよ」


「そうか……」

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