40話・常識を知らないのなら、知っている人に聞けばいいのです
「貴方良かったですね」
「何がだ?」
「ハーレムですよ」
「??」
「貴方はやっぱり犬ですね」
「なんだか物凄い馬鹿にされた気がする」
壁の向こうにあったのはいったい何に使えばいいのかもわからないほど豪華な屋敷。
部屋数が多いわりに物はほとんどなく……いや、ありはする、何のためにここに置いたのかわからない鍛冶施設や謎のモニュメント、その中には誰のために集めたのか……かなり昔の物だろう本が文字通り山のごとくおさめられた図書室もあった。
「どうしましょうね、これ……」
そうやって色々と見て回った絢達2人と1機がエントランスに戻ってきたとき、目の前にあるのは巨大な水晶や宝石のような物。
ちなみに1匹と1人は庭で昼寝を、残りの1人はその隣でずっと基礎的な訓練をしている。
「少なくとも壊したら大変なことになるのは間違いないな……」
「どうなるんですか?」
「ここが崩れて無くなる」
「それは大変ですね」
理解しているのかいないのかわからないような会話だが、絢もこれを聞いているアイリスもちゃんと理解している……が、邪魔なものは邪魔である。
「これどうにかして退けられないでしょうか……」
「まあ、恐らく……十中八九ここに固定されてるものだろうな」
「また面倒な場所に屋敷を作ってくれたものですね……、アイリス、無理そうですか?」
「はいマスター。当機に導入されている情報とは異なる部分が多数認められますが、ダンジョンと同様のものと考察されます、一時的にこの核としての機能を他の物へと移動すれば、核を移動させられます」
「機能の移動ですか……」
少しも悩むようなしぐさもなくその核に手で触れる。
若干光ったかと思えば、アイリスが人間の様なしぐさを取る。
「マスター、マスターの肉体に機能の移動を確認しました」
「大丈夫みたいですね……。
ニア、適当な場所に動かしてください、後でもう一度動かしましょう」
「あ? お前が動かしゃいいだろ」
「残念ながら、慣れていないこともありまして今の私の演算力はこうやって喋っているだけでもかなりギリギリです、此処から体を動かせば権限は元に戻ることになります」
ニアは「はぁ」と大きくため息をつき、いやいやながらも核を持ち上げる。
「けっこ重ぇなこれ……、どこにもって行きゃぁいいんだ?」
「草原の真ん中にでも置いといてください」
「遠い……」
「大丈夫です、待ってますから」
「何がだ!! ただ動けないだけだろ!!」
「……。」
「なんか喋れ!!」
そのまま「ケッッ」といって文字通り不満を隠さずに部屋を出ていき「ドシンッッ!!」と言う大きな音と振動が響いたかと思うと、「ズシズシ」と足音を立てて戻ってきた。
「重かった……」
その足音と声を聴いて、ずっとあげていた右手を下ろして後ろを振り返る。
そこには黒いフードを被った少女のほかに、もう一人分影があった……
「さっきから何をしてるんだ?」
「エキドナ……そういえばなんですが、なんでずっと人の姿でいるんですか?」
「急にどうしたんだ?
……まあ、色々と利点があるんだ、特に我は母方が人間だからな人の社会で生きる術をもっておかないといけないんだ……」
「……人間社会についてどのくらい知っていますか?」
「ん、それなりに知っているつもりだ「教えてください、今すぐに!!」
え、いや……いったいどうしたんだ?」
珍しく……いや、初めて唐突で攻められるような絢からのお願いは、エキドナはもちろんにニアをも動揺させる。
「少しやることがありまして……その為には、人手も足りませんし人脈もありません、もっと言えばこの世界の常識もありません……」
「なのでこれらを教えてください」
「何が『なので』なんだ?」
「教えてください、特に金銭の稼ぎ方について!!」
「わかった……わかったから、ちか……はなれ……」
そんなことをしないと思っていた人が行うほぼ勢いだけの要求はエキドナに大きな動揺と、謎に心臓の鼓動を早くする。
そんな彼女の答えを聞いて「分かりました」と離れてもどこか心臓の鼓動は早いままだった……
「さあ、早速教えてください」
「わ……わかった」
(我にこんな気は無いはずだ……無い、はずだ……)
「なんだか最近あれが愛おしく思えるんだ」
「どのような風にだ?」
「なんだか可愛いというか、父が言っていた恋人への感情の様な……」
「あれにそんな感情が芽生える……主は疲れてるんだ」
「そう……だよな……」
「休め……」




