37.5話・囚われの姫と自由な猫
これは、絢が迷宮内で謎の反応をした日のことである。
(最近天井から音がする……)
絢達を召還したタルルク王国の王城、その中でも自分が呼び出した者たちには秘匿し、なかなかたどり着けないような部屋で少女がそんなことを思う。
彼女はタルルク王国の王女……と言ってもその扱いは王族としての最低限度未満ではあるもののかなり広く豪華な部屋が与えられていた。
そんな部屋に何時からかと言えばわからないが部屋にはしょっちゅう「ドタドタ」と音が響く、どこからと言えば天井や壁裏から……とはいえ、壁から音がすることなどはなかなかないため、(音の反射のせいだろう)と勝手に結論付けていた。
「ドタドタ、ゴトゴト」と次第に音が大きくなり「ギャッ!!」と言う声と共に何かが落ちてきた……
「え……な、何?」
驚きのあまり急いでソファー裏に隠れたもののそこからひょっこりと頭を出して確認すると、ここに居るはずがない図鑑でしか見たことが無い可愛い生き物、猫が倒れていた……
「ね……猫? 何でここに……?」
上を見ると、明らかにその猫が落ちてきたときに空いたのだろう穴がぽっかりと空いていた。
地面には若干けだるそうに立ち上がろうとしている猫が一匹、下敷きになっただろう天井の欠片は若干赤く染まっていた……
「ンニャーオ(見てないで助けたらどうなの?)
ウー(って言っても聞こえてないわよね)」
鳴き声と一緒に言葉が聞こえてくると言った不思議な感覚を感じながら、「助ける」と言う言葉に反応した少女は体を乗り出し、恐る恐ると言った雰囲気で声をかける。
「怪我……してるの?」
「アオーン(見ればわかるでしょ)……
ウー(って、わからないわよね)」
「ちょっと待っててね……」
少女がソファーから降りて走り出すと、部屋に備えてある保険箱をもって猫の下に近づいていく。
「ニャー(やるなやら優しくしなさいよ)」
そんなことを言うが、外見では怪我の程度はそれなり、ただ触診すれば痛がる苦しい声を上げ、明らかに骨が折れている、固定のためにも少しきつめにするしかなく「ごめんね」と声をかけて、少しきつめに救急箱に入っていた包帯で同じく救急箱に入っていた指用の添え木と一緒に巻きつける。
「ウニャー(じゃ、邪魔……)」
「ご、ごめんね……治るまでは我慢して?」
「ンー(仕方ないわね)」
そのまま、どこかに行こうとするその猫の姿を見て少女が引き留める。
「――ど、どこに行くの!!」
「ニャー(私は仕事があるの)
ニャッ(じゃあね)」
「待って!!」
そのまま立ち去ろうとしていた猫を再び呼び止める声が響く……通じていないことをわかりつつも文句を言いたい気分になりながらい猫が再び少女を見ると、その姿が震えている。
「――お願い、いかないで……」
猫からすればどこにでもいる少女だが、少女からすれば短い間でありながらも初めて対等な立場まともに話をした存在である。
出来ればもう少しいてほしいと思うのは少女の孤独から来るものだろう。
「ウーン(仕方ないわね……)」
「ありがとう!!」
少女の返事の後から猫は少女の方へてくてくと歩いていく。
「ニャ(ん)?
ミャ(気のせいよね)」
猫は少女の所まで歩いていき、自分の体を刷りつける。そんな猫の体を持ち上げ、少女が話しかける。
「何処から来たの?」
「ニャ(天井裏よ)」
「へぇ~、暗くないの?」
「フ二ャーオ(猫は夜目が聞くもの)……
ニャ(私が何言ってるか分かってるの)?」
少女の発言はあてずっぽうという事もあるかもしれないが、確率的に考えれば明らかに言葉の意味を把握しているだろう回答である。少女の回答は……
「うん!!」
と言った物、その瞬間猫に衝撃が走るとともに何処からからか(その子を守ってください)と声も飛んでくる。
「ミャー(あなたも面倒なひとに目を付けられたわね)」
「ん? 何のこと?」
「ニャ(何でもないわ)……
ミャ―(あなた名前は)?」
「私の名前はクレトリア、フィリア・タルルク・クレトリア!!
――あなたのお名前は?」
「ニャオ(ないわよ、勝手に呼びなさい)」
少女が名前を考えている間に幾つか質問をする、曰く、いつからかは分からないが動物の言葉が分かるのは初めてではなく、彼女自身耳が良いらしく、かなり広い範囲の声が聞こえているらしい……、クレトリア自身は鳴き声と一緒に声が聞こえてくるという感覚は気持ち悪いらしく嫌悪感があるようだ。
この能力のせいか彼女自身の立場もあまりよくはないようで、どこに嫁によこせばいいかと言う話がよく聞こえてくるらしい……
「決めた!! 今日からあなたはニアね!!」
「ミャ(いい名前ね)?」
「でしょ!!」
(別に何でもいいのだけど、褒めたら喜んでくれてよかったわ……それにしても)
「ニャー(あなた何かすることないの?)」
「ッ……ない、かな……」
そのまま始めた彼女の愚痴では、どうやらあの王はクレトリアを持ち上げた謀反などを警戒しているのか、それとももっと別の目的があるのか勉強などもほとんどさせてもらえてないようで、極たまに王族のたしなみとして、またまた最低限度の勉強に魔法や剣術の訓練をさせてもらっているとはいえ、それだけ、楽しみはほとんどないようだ。
「ミャ―(出ていくつもりはないの)?」
「出ていっても、どうせ連れ戻されるだけだし……」
彼女にできる手法と言うのはわからないが、以前にも試していたようだ……
しかし、ここから出ていくことができれば危険度はこの城の中の比ではない、クレトリアを守るためにも先ほどから煩い絢にあれやこれやと命令されることも少なくなるだろう。
「ミャ―(私もいるなら成功すると思わない?)」
「――? ニアはただの猫でしょ?」
「ミャー(世界最高の大天才の使い魔猫よ)」
「――? せかいさいこうのだいてんさい?」
「ニャオン(とりあえず私の言う通りにしなさいな)」
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どこまでクレトリアの事を見ていなかったのか、タルルク王国全土に王女誘拐の報が広まったのはそれから2週間後のことである。
「なんか……、凄いすんなりと行った……」
「ミャ―(言ったでしょ、私もいるなら成功するって)」
「すごいよニア!!」




