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35話・本気と小手調べは簡単に両立するのです。

「いきなり速く走り過ぎだ!!」


「後ろから来るのは任せましたよ」


「いきなりすぎるだろ!!」

 その部屋の奥にいるのは黒いフードを被りその体の半分程の刃がついた大鎌を抱いている少女、だがその少女から発される魔力、そもそもその場所自体がその少女が異質であることを表していた。

 少女は背中を壁に預け鎌を抱いて寝ているように見える。


 絢が部屋に足を置くと同時にその少女が大きく高角を上げ一瞬にしてその場から消失、次の瞬間には大鎌を大きく振りかぶりながら絢の目の前に出現した。

 振りかぶられた大鎌は大きな弧を描きながら確実に絢の首を確実に刈り取るように動き……気づいたときには何も切らずに首を通り過ぎていた。


「いきなり切りかかってくるなんて酷いじゃないですか」


 通り過ぎてすぐに大鎌がの動きに合わせてステップを踏んで絢と距離を取り、ゆったりとした喋り方で絢に話しかける。


「いきなりじゃぁないだろ……、それにしても久しぶりだなぁ、暇つぶしにでも来たのかぁ?」


「……? 誰の話をしてるんですか?」


「んぁ? 記憶喪失……いや、やっと()()()が来たんだなぁァ……」


 ゆっくりとした口調で訳の分からないことを言っているところに「本当に何の話ですか」と絢が話しかけると、──二ィ──と頬が裂けていそうなほどに彼女の口角が上がった。


「さあァ楽しもうか、お前もそのつもりで来たんだろぅ?」


「それはその通りです」


 返事の後に生まれる一瞬の静寂、空虚で何の動きもない一瞬の直後、「手を出さないでくださいね」と言う音だけを残し激しい爆風と共に2閃の光が衝突する。

 ここでフェンリル達の視界に映った物は巻き上げられた砂埃と二つの黒い閃光、さらには真っ二つにされたいくつもの障壁……、非常に散らかった空間の中央で二人の少女がつばぜり合いを行う。


「お前いったい何で私と切り合ってるんだ?」


 片や大鎌、片や何も持っていないがその中央では激しく火花が散り、絢もその相手もそれ以上その手に持った刃物を進められずにいた。


「空気です」


「嘘ついてるだろ」


「私嘘つかないんですよ」


「あまりふざけるなよ」


「残念ながら真剣です」


 フードの少女が唐突に「フハハハハ」と笑い声をあげ、絢を武器越しではあるが力任せに放り投げる。

「いきなり投げるなんて酷いじゃないですか」と言う言葉を無視して、フードの少女がさらに言葉を繋ぐ。


「お前は入っていたな!! 魔法が使えるのならどんな武器でも思い通りに動かせると!!」


「残念ですがまだそのようなことは言っていませんよ、思ってはいますが……」


「別にいいさ、これから先お前の人生で必ずこれを言うだろうからな!!」


 謎の言葉と一緒にその手の大鎌を振り回しその刃部分から斬撃が飛び散っていく。

 それを障壁や切り出した地面などを間に挟むも、簡単にスパスパと切られる。

 絢が空気で作ったと言っている見えない刃物も2,3度は斬撃を止めるもののその数を前には次々に作り出していくことになる。


「ほらほらどうした!! 早く本気を出さないと死ぬぞ!!」


「大丈夫ですよ、まだまだ『この程度』ですから」


 両手の刃物が壊れてしまうと防御はできない、目の前にまで斬撃が迫ったところで何も持っていないその手を動かす。


「……?」


 刃物を作らなければ防げない、だが作ればその分時間がとられる……ならば刃物を使わずに斬撃を防げばいい。

 手を振ればそこから魔力の布が現れ、斬撃で切れることがなく霧散させる。

 5秒ほど耐えると、諦めたのか斬撃が飛んでこなくなる。


「守ってばっかじゃ勝てねぇぞ」


「分かってますよ」


 切り刻まれて生まれた砂埃が絢の手元へと集まっていく。集まったそれらは初めこそ煙のように右手を取り巻いていたが、次第にその形をはっきりとさせていく。


「もっとちゃんとした武器作ったほうが良いんじゃないか?」


「大丈夫ですよ、このくらいで」


「お前、私の舐めてるだろ、それかふざけてるかだ」


「いいえ全くどちらも違いますよ」


「まあいい、今から確かめれば済むことだ」


 二人の体は、衝突の前にその手に握った武器を最大限扱うための型を取る。


「耐えろよ」

「耐えてくださいね」

「本当に誰の話をしているんですか?」


「お前がこのまま死なずに生きて居ればわかるさ……それよりも、本当にふざけてないんだよな?」


「もちろんです、貴方みたいな楽しめそうな子を相手にしてふざけるわけないじゃないですか」


「そうか……落とすなよ」


「貴女こそ」

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