33話・出来なくてもいいんですよ、出来なくても
「そう言えばなんだが……」
「何ですか?」
「これはいつまで乗ってるんだ?」
「かわいい女の子に歩けというのか―」
「そろそろ自立させてもよさそうですね」
「あーちゃん!?」
今までよりは非常に短い階段を通って、今までよりも非常に長い時間を掛けて次の階層へと降りる。
その速度の問題点はもちろん会話に集中していたという事もあるだろうが、何よりも問題なのは、絢の体力だろう。
「主は体力が無さ過ぎるぞ……」
「そもそも、元々そんなに運動をしてきたわけじゃないんですよ、ここまで持ってるだけでも結構奇跡なんですよ」
明らかに肩で息をしている絢を見て、今までフェンリルの背に乗っていたのはこういう事かと理解した3人は、それの感情を表に出すことなく前を向く
「唯もそろそろ時間ですね、ちゃんと寝るんですよ」
『それ絢様が言います?
……』
「何ですか?」
『ちゃんと運動してくださいね』
「その気になれば」
『全く、そういう所がだめなんですよ!!』
その会話を見ていたこう思う3人は思う(この二人……夫婦?)と……
『もう……、また明日です』
「はいまた明日」
そう言うと、――ブツッッ――と途切れるような音を鳴らして通信が終わる。
「通信距離と精度に集中させていた割にはよく耐えたものです」
掌の上にあったイヤリングは既に砂のようにバラバラに崩れてしまっていた……。
「また明日と言っていたが……いいのか、それは」
「はい、いつでも作り直せますし、それに……そろそろ終わる気がするんですよこの迷宮」
そんなはずはない、絢は初めてこの迷宮に来たのだ、この迷宮がどこで終わるかなど判る筈もなく、絢も自分の勘など信じていない、それでもここで終わりだろうと予測できるだけの状況がそこにはあった。
「一体何からそんな事を思ったのだ?」
「いえ……目の前に、こんな悪の大王が住むような城があればここが終わりだと思うのは普通だと思うのですが」
「まあ……そうだな」
絢の言葉通り、いかにも魔王でも住んでいそうなオーラを放つ漆黒の城は視界の8割を占有し上を見上げれば夜空に浮かぶ星のように何かが光っている。
その城が建っている大地も、鏡のように静かな湖から耐久力を度外視しているような細さの足で立っている。
そんな乗るのも怖い城には、城が立つ地面よりもはるかに安心感のある橋でつながっていた。
「とりあえず、早くいきましょう」
「楽しそうだな……」
ポロッとこぼれたフェンリルの言葉に「そうですか?」と返す絢だが、彼女を更に知る者が見るならば「上機嫌だ」と言う事だろう。
ふと絢が指を鳴らすと、一気に白の入り口との距離が短くなる。
「……?? いや、何が起きた?」
「一気に動いた~!!」
「そうです、動いただけですよ」
「「は?」」
フェンリルとエキドナの驚きの声は絢からため息を引き出すには十分だった。
「見た方が早いですね」
そうしてどこかで見たようなどこか重々しい扉を開けるとそこに立っていた……、いや、浮いていたのは黒いローブに包まれた骸骨、その骸骨はその正体を象徴するかのようにその身長ほどもありそうな巨大な鎌を持っていた。
「オイオイオイ……」
鎌を大きく振り上げた骸骨は、絢がフェンリル達の方向へ振り向くのと同時に斜め上から勢いよく鎌を振り下ろし、鎌は絢を貫通して反対側へとすり抜ける。
「お……、おい……」
「大丈夫、だよな?」
「はい、もちろん大丈夫です」
避けた様子はない、受け止めたなんてことはもちろんない、鎌は絶対に絢の体を通ったはずだった……
「一体どうなって……」
ルビーはその地味さから既に興味を無くしていたが、フェンリルとエキドナはハラハラドキドキしながら、目の前で起きている謎の現象を不思議に思っていた
『映像の解析結果を申しますと、武器がマスターの体を通過する部分のみその動きが捉えられません』
「当たり前です、此処は通ってませんから」
「いや、通ってるだろ……どういうことだ?」
「私の中で結果は決まっていますので、そこを通る過程を消し飛ばしてるだけです。
アイリスはデータが消えているでしょうが、エキドナには心当たりがあるんじゃないですか?」
「なn「例えば壁にたどり着くまでが若干早かった、など」」
急に指名されたうえに意味の分からないことを言われ、その後で出した疑問の声を遮られるが、それに対しては文句が出てこない。
自分の言葉を遮った言葉によって生まれる光景に覚えがあるのだ。
「忘れてましたすみません、ご協力ありがとうございました」
そう言うと絢の手が骸骨に触れ、どのような魔法を使ったのか、骸骨が砂へと変わっていく。
「あッぁァァ……」
「まあ、こんなものを使えるようになるとは思いません、使ってもいいとは思います」
その言葉は、先ほどから回避に使っていた魔法に対してなのか、それとも、話を変えて骨を砂に変えた魔法についてなのかは分からないが、それはエキドナの心に大きな傷と闘志の火を付ける。
「別にできなくてもいいですよ、はい」
どこか笑みを含んで発されるその言葉は、この後エキドナに幾度となく掛けられる言葉となる。
「もう少しやってみませんか?」
「ッ……これ以上は」
「そうですか、出来ないのなら仕方ないですね」
「や……て……る」
「何ですか?」
「やってやらぁ!!」




